第320話(最終話) そして、再び……
応接間に招かれる3体の妖精。
エミルはウキウキで、周りを見渡している。
オッディは流石年の功、落ち着いている。
エミルより落ち着かない様子の、正体不明の妖精。
私に一体、何の用が……?
そう思いながらも対応するマリー。
女中には残念ながら、妖精は見えないので。
代わりにエリーが、お菓子を運んだりしている。
2メートル四方の、宮殿では比較的小さいテーブルに。
一杯に並べられたお菓子の種類を見て。
ピョンピョン跳ねて喜ぶエミル。
その愛らしい姿に癒されるエリー。
ずっとニコニコしている。
対して緊張した面持ちの、面会を申し出た妖精。
さっさと用事を済ませたいらしい。
エミルとの間に着席しているオッディへ、話を切り出す様責っ付く。
やれやれ、仕方無いのう……。
オッディは。
今日に限って重くなっている、その口を開いた。
「隣に座っているこの者は、儂の古い友で【クッピー】じゃ。」
ほれ、紹介してやったぞ。
挨拶せんかい。
そう言った顔をするオッディ。
シュッと少し浮き上がった後、ペコリと頭を下げる。
「クッピーだよ。宜しく。」
「ど、どうも……。」
挨拶を終え、また着席するクッピー。
それに対して、戸惑い気味のマリー。
一通りお菓子を並び終えた所で、マリーの隣に着席していたエリーも。
リアクションに困っている。
『老妖精の友達だ』と言うが、どう見てもかなり若い。
エミルとエフィリアの中間位、いやエミル寄りか。
やはりな……。
オッディが想像していた通りの光景。
だから曇りがちな表情だったのだが。
何せ、自分が信じられないのだ。
昔々、仲良く行動していた頃と。
こ奴は、殆ど姿が変わらないのだから。
この場でもう一度、正さねばならない。
この世界と、外の世界。
時差がどれ位なのかを。
オッディがクッピーに話し掛ける。
「あの草原に出かけた時の事を覚えておるか?」
「ん?綺麗なお花畑を見に行った時の事?再会した時も聞いて来たじゃないか。」
「この方々にも聞いて貰う為じゃ。あれはかれこれ、どれ程前じゃったかのう?」
「そう?ええとね……。」
クッピーが発した言葉は。
驚くべき事だった。
「200年ちょっと前だよ?確か。」
「200……ねん?」
「そうなのじゃ、マリー殿。こ奴は、儂が700年以上前に経験した事を『200年程前』と言うのじゃよ。」
「200年……。」
考え込むエリー。
これは偶然では無い気がした。
分断された後の、この世界に。
魔法使い達が漂着したのが、丁度その頃。
まるで、その後の帳尻を合わせる様に。
自分達が居た期間を、無かった事にするかの様に。
タイミングを合わせるかの如く、時期が一致する。
深層心理下で、それを望んでいたのかも知れない。
この世界の住人の記憶からは、その存在が消え去る事は無いとしても。
エリーが考えを話すと、オッディも同調する。
「自分で自分の事を、何処かで疎んでいたのかも知れませぬなあ。」
「そんな必要、無いのにね。」
マリーはポツリと漏らす。
魔法使いの存在が無ければ、マリーはクライスと出会っていない。
それを無かった事にするなんて、自分には出来ない。
だから、誇って欲しい。
あなたに救われた思いも有るのだと。
『クライス』と言う名称を、無意識に口に出していたらしい。
『やっと本題に入れる』と、クッピーは話し出す。
「君が〔マリー〕だよね?まさか本当に会えるなんて、思ってなかったけど。」
「どう言う事?」
聞き返すマリー。
エヘンと胸を張り、クッピーが話す。
「ここが《帰って来た》事を教えてくれたのが、そのナントカって言う人なんだ。」
「え?」
目を真ん丸くさせるマリー。
隣でジッと、クッピーの話に耳を傾けているエリー。
分析癖がすっかり付いていた。
クッピーの語り口から、真実を探ろうとする。
質問するエリー。
「『帰って来た』って言うのは?」
「ああ。変な奴が、『何れ帰って来るから、安心して待っていてやって欲しい』って言ったんだ。」
「この世界が分離した直後に?」
「分離してたの?僕達の認識では、『何処かへ旅に出た』だったんだけど。だから、『帰って来る』って言葉に納得してたんだ。」
そう言って、うんうん頷くクッピー。
補足するオッディ。
「どうやらそう言い残したのは、他ならぬ《魔法使い》らしいのですじゃ。」
「じゃあ、こうなる事を最初から承知で……!」
「でしょうな。」
唸る一同。
『考える癖を付けなさい』と母親に言われていた、次期妖精王は。
一緒に唸るが、何に対して唸っているか分からず。
結局空回り。
考えた末に出て来た言葉が、これだった。
「うち達の事を伝えてくれたのは、クライスなんだよね?」
「そう!それよ!問題なのは!」
ずっと行方不明だったかと思えば。
こんな所から、急に名前が出て来る。
どうなってるの?
不思議がるマリーに、クッピーが伝える。
「君に伝言を預かって来たんだ。『あっちに行くなら、こう言っといて』って。」
その言葉は。
《先に行って、待ってるぞ。》
「何よ!抜け駆けのつもり!?」
こちらは色々考え過ぎて、中々手が出せないって言うのに。
独断専行で、未知の大地を冒険するって事?
許さない!
私を置いて行くなんて!
絶対に!
そう思いながらも、マリーの顔は綻んでいた。
良かった!
生きてる!
クライスは確かに、この世界に居る!
しかも『待ってる』って言ってくれた!
感慨深げな表情のマリーに、エリーとエミルも笑顔。
皆内心、心配していたのだ。
クライスを、マリーを。
『やっと用事が果たせたよー』と、クッピーも胸を撫で下ろした。
これで自由だ!
探索するぞー!
妖精の好奇心が、高まっていた様だ。
腰を落ち着ける暇も無く。
「じゃあ!後は宜しくね!」
そう言い残し、クッピーはオッディを無理やり連れて。
シルフェニアへと向かって行った。
ニヤリとして、エミルがマリーに問い掛ける。
「どうする?これから。」
「決まってるでしょ?追い駆けるのよ。あいつだけだと危なっかしいもの。」
「はいはい、そうですねー。」
棒読みで返すエミル。
でも嬉しそう。
『また旅が出来る』と言う思いからなのか。
それとも、クライスがどんな姿になっているのか楽しみなのか。
最後に姿を見せた時には、幼い少年だったと聞いたので。
懐かしく思えたのだ。
エリーも、これからの事に思いを馳せる。
今度こそ、マリーの野望を成就させねば。
柄にも無く、何故かワクワクしていた。
そして、2人と1妖精は。
これからについて、想像を膨らませながら。
思うままに話し合っていた。
〔幻の錬金術師〕が、既に未知の大地開拓へと動いている。
その話は、すぐに両国中を駆け巡った。
錬金術師達は、『負けていられない』と言う決意と。
『無事で良かった』と言う安堵に包まれた。
クライスと関わった人々は皆、彼に憧れ。
クライスに付いて伝え聞いた人々は皆、彼を目標とした。
その志に、身分の差など無く。
尊敬の的として、格別の敬意が捧げられた。
そして……。
「やはり旅立つのですね。」
「はい、お母様。」
マリーの母親は、未だ健在。
実は、彼女こそ。
クライスの正統な子孫を束ねる、一族の長だったのだが。
ウェロムを欺く為、マリーにも内緒にしていた。
漸く打ち明けられた事へ、ホッとすると同時に。
『血脈に縛られないで欲しい』と言う、母親としての願いから。
1人の女性として、旅に出る事を許した。
弟の〔ジュリエル〕は、大層寂しがったが。
『僕が王様になったら、絶対姉様を羨ましがらせる国にするから』と約束し。
母親と共に、門出を見送った。
こうしてマリーは、再び旅へと出る事になった。
しかし、〔アウラスタ〕を出発し。
世界の境目へ近付くに連れ。
増えて行く、同行者。
「私も当然、お供しますよ?」
「うちは?うちは?」
「『兄様を任せる』と、まだ認めた訳じゃ無いわよ?一番近い場所で、見極めさせて貰うわ。」
「おいおい、俺だけ置いて行くつもりか?冗談じゃ無いぜ!あいつとはまだ、力比べして無いからな!」
「分かった!分かったから!もう……誰か、纏め役は居ないの?」
「「「「それは当然……。」」」」
「そうよねー。そいつを探しに行く旅だものねー。」
ため息を漏らすマリー。
また《ラヴィ》として、1人の旅人となる。
くっ付いて来たのは、いつもの面々。
女騎士となったエリーもとい、《セレナ》。
天真爛漫な妖精、《エミル》。
宗主家を別の者に任せ自由となった錬金術師、《アン》。
近衛隊まで出世した騎士の、《ロッシェ》。
それぞれ、託された思いを抱えながら。
まだ見た事も無い土地へ、一歩を踏み出す。
ヘンテコな旅人達がまた、こうして組織された。
この世界の歴史は、続いて行く。
《彼》を中心にして。
“金しか生めない”、錬金術師。
果たして彼は、凄いのだろうか?
この結論は、まだ下せそうに無い。
ラヴィ達の旅は、まだまだこれから。
続きを語る機会が有れば、また付き合って頂けると有り難い。
それだけを申し述べて。
この物語は一旦、ここで終わりとしよう。
長い間お付き合い頂き、有難うございました。
主人公達の旅は、まだまだ続きます。
彼等の今後を描く機会が有りましたら、また宜しくお願いします。
感謝、感謝。




