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第32話 禁断の果実、斯く存在せり

 商店街の中心に、それは在った。

 大きな店構えと、そこに並べられたリンゴの種類の豊富さ。

 間違い無い。

 ここにフチルベが居る。

 確信した3人は、店の中へと入って行った。


「いらっしゃい!」


 出迎えたのは、ふっくら丸みを帯びたシルエットの男。

 フチルベ邸であらかじめ、自画像を見ていたので分かる。

 何とフチルベ本人が、自ら手売りをしていたのだ。

 販売権を掛けた争いをしている人物には、到底見えなかった。


「あのー、私達は旅の行商人でして。」


 ラヴィがフチルベに話し掛ける。


「余りに立派な店構えで、どの様な方が経営しているのか少々気になりまして。覗かせて頂きました。」


「ほう、同業者ですか。どうぞどうぞ。」


 フチルベはあっさりと、嘘を受け入れた。


「どうも……。」


 何故か申し訳無い気持ちになる3人。

 でもここは正念場。

 探りを入れてみる。


「ところで。ここへ来るまでに、色々町中を見たのですが……。」


 セレナが自然体で、フチルベに尋ねる。


「ああ、申し訳無い。《込み入った事情》が有って、今はこの様な感じになっています。」


「ほう、事情ですか。」


「ええ。」


 フチルベは、それ以上語らなかった。

 普段なら相手に気を遣い、そっとして置くセレナだが。

 領地の存亡が係っている。

 躊躇してはいられなかった。


「それは《リンゴの販売権》に関する事ですか?」


 セレナの言葉にギョッとするフチルベ。

 しかしそれは一瞬で、すぐに柔らかな表情に戻る。

 商人らしい、商売の顔付き。


「それをどこで?」


「ここに辿り着く途中の村で、小耳に挟んだものですから。商人の地獄耳、あなたならご理解頂けると思いますが。」


 咄嗟とっさに助け舟を出すアン。

 フォローは、クライスのお守りで慣れている。


「確かに、情報は商売の命ですからな。なるほど、あなた方は優秀な商人の様だ。」


 情報戦は、軍を率いる事もある王族なら必須科目。

 なので、その配下として若干アドバンテージがあるだけだが。

 それに、そのジャンルではエキスパートの錬金術師も居る。

 商人に擬態するのはお手の物。

 本人は不本意だが。

 自分としては、姫を守るナイトをイメージしていたから。

 そう考えるが、更に突っ込むセレナ。


「しかし、それをお決めになる領主様がいらっしゃらないとも……。」


「あれは駄目です!何も決められない、グズな君主です!」


 急に声を荒げるフチルベ。

 あれ扱いとは。

 哀れな領主、志はこうも届かない。


「おまけに根拠の無い噂話を信じて、何処に行かれたのやら……。」


 その口調だと。

 愛想を尽かしながらも、心の何処かで戻って来るのを待っている様に聞こえる。

 ならば……。


「噂?ああ、あれですか、リンゴに関する……。」


「そう!金銀のリンゴです!そんな物有りはしないのに……。」


 憮然とした表情のフチルベ。

 しかし、アンがそれをポケットから取り出すと。

 腰が抜けてひっくり返った。




「これですよね?有りますよ、ちゃんと。」




「ど、どど、どーーーーー!」


 言葉にならないフチルベ。


「何処でそれを!」


「いやー、ある取引先で借金の形にふんだくって来たんですよ。まさかこの地域で噂になってるとは。」


 あくまで、在って当然と言う表情をするアン。

 それにラヴィも同調する。


「そうそう、あれは大変だったわねー。」


 しみじみとした声で話すラヴィ。

 まるで、手に入れてからかなりの時間が経ったかの様に。

 そんなラヴィをよそに、ふらーーっと金銀のリンゴへ近付いて行くフチルベ。


「ちょっと待った!」


 そうセレナに怒鳴られ、ハッとするフチルベ。

 自分でも気付かぬまま、吸い寄せられていた様だ。

 急拵きゅうごしらえの物に、そんな魔力があるとは。

 いや、魔力があるのは《領主の機嫌を取れる者の存在》と言う事象か。

 とにかく、これはフチルベの気を引くのに十分だった。


不躾ぶしつけで申し訳無い!それを私に譲って頂けないだろうか……?」


 本当に不躾だ。

 そう言いたいのはやまやまだが、やっと相手が交渉のテーブルに着こうとしている。

 ラヴィは切り出した。


「何故?これは今や私達の物です。これを領主様の所に持って行けば、我々が……。」


「幾らでも出します!まずはお話をさせて下さい!」


 ガッと食い付くフチルベ。

 目の前にぶら下がる、文字通り《禁断の果実》を逃すまい。

 真剣な眼差しだった。

 それを見て、わざとひそひそ話を装う3人。


「どうする?あんな事言ってるけど……。」

「そうですねえ。」

「まあ話を聞くだけならタダですし。」

「それもそうね。」


 フチルベに聞こえる様、話す3人。

 内容を聞いて、取り敢えずホッとするフチルベ。

 そして、こっそり周りの店主に合図を送る。

 すると店主達は、奥に引っ込む振りをして何かを始めた。


「詳しい話は奥で!ささ、どうぞ!」


 店の奥に案内するフチルベ。

 それに付いて行く3人。

 その退路を断つかの様に、配置に付く店主達。

 大勢を巻き込んだ、フチルベ一世一代の商談が始まろうとしていた。

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