表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
314/320

第314話 人として、生命体として

「さて、と。ボクはそろそろ準備に入るかな。」


 そう言ってメグは椅子から立ち上がり、クライスの後ろで開いたままの穴へと向かう。

 そして、シュルリと中へ入り。

 シュポッ!

 穴はあっさりと閉じた。

 クライスも椅子から立って。

 ウェロムへ向け、大声で話し掛ける。


「もう観察は済んだろう?この世界の人間も、生きる権利は有るんだよ。」


「まだ分からないわよ?観察は続けないと。」


「ケミーヤ教は滅び、ワルスも消えた。不安定要素を提示しながらも、人間達は乗り越えたんだ。もう答えは出ているじゃないか。」


「いいえ。まだあの変な女騎士が残ってるわよ。」


「ロイスか?あれは……まあ良いや。」


「何か言い掛けたわね?あ奴に、変な事でも吹き込んだのかしら?」


「さてね。それより、まだ気付かないのかい?」


「何が?」


「『観察を続ける必要は無い』と、あんたの身体が言ってるんだよ。鈍ったもんだね、あんたも。」


 何を言っている?

 しつこくクライスが、自分の膝元を指摘して来るので。

 ウェロムはふと、目線を落とす。

 そこには、パラパラと何かが降っている。

 両膝の上に、粉の様な物が。

 それを理解するのに、数秒掛かった。

 本当は、見た瞬間に分かっていたのかも知れない。

 その事実を受け止め、納得するのに。

 時間が掛かった。

 そう解釈する方が正しいのだろう。

 何かの粉末が、何処からか流れて来たのでは無い。

 ウェロム自身の顔の皮膚が、ボロボロ剥がれ落ちていたのだ。




 ギヤアあああぁぁぁァァぁ!




 声にならない声で。

 空中に、嘆きの様な感情を吐き出すウェロム。

 クライスは、メグに成り代わり。

 マリー達へ伝える。


「メグはようやく約束を果たした。これは『さよなら』の印なんだ。」


「わ、分かる様に……。」


 未だに戸惑っているマリー。

 思わずクライスの方へ、右手を伸ばす。

 取り敢えず、話は聞く。

 聞くけど、理解出来るかは。

 納得出来るかは。

 受け入れるかは。

 別。

 それでも話を聞かないと、どうにも判断し辛い。

 だから、これが精一杯の対応。

 それを理解した上で、クライスは語る。


「メグは言った筈だ。『長居するつもりは無かった』って。」


「それは確かに聞いたわ。」


「でも、こうも言った筈だ。『共に渡って来た者の【最期を看取って】、別の世界へと移るつもりだった』とね。」


「最期って……これが!」


 ギョッとした顔付きになり、まず目線だけウェロムの方へ向け。

 そして顔全体を、ゆっくりと振り向けるマリー。

 他の3人も、一斉にウェロムの方を見る。

 既に、皮膚の半分以上が剥がれ落ち。

 急速に年を取っている。

 前屈みとなり、手相を見る様な恰好で。

 ウェロムは座っている。

 しかし、毛と言う毛が剥げ落ち。

 筋肉が溶けた様に、痩せ細ったそれは。

 人と呼ぶには程遠いモノだった。

 クライスはウェロムに向かって言う。

 その言葉が届くとは思えない程、ヨボヨボの姿と成ったウェロムに。


「あんたは何度も反転の法を繰り返す内、オリジナルから少しずつズレてしまったんだ。」


「ををををーーーっ……。」


 声を漏らすが、発音が聞き取れない。

 もう人間として、生命体として限界なのだ。

 クライスは続ける。


「今現在、マリーの継母として立っていた姿は。最早、俺の知ってる母さんのそれでは無かったよ。だから、メグも悟ったんだ。『終わりだ』ってね。」


 遺伝子レベルで、僅かに傷が刻まれる。

 それが、反転の法の代償。

 ソーティの様に、遅かれ早かれ。

 身体に影響は出るのだ。

 何度も反転を重ねる内に、ひずみを蓄積し。

 遺伝子すら壊れ。

 最初の姿からは程遠い位の、捻じ曲がりを起こしたそれは。

 生きる事を拒絶した。

 自分が自分で、自分の生を否定した。

 だからそこで、観察は終わり。

 終わりと言う事は。

 土に還る事も。

 魂だけの存在となり、別の世界へ移る事も。

 認めないと言う事。

 これで、クライスとの長い因縁が。

 決着を迎える事となる。

 ウェロムはさぞ、無念だろう。

 残念だろう。

 〔この世界での観察が終わる事〕に対してでは無い。

 最大の興味を引くであろう、《自分の死に際》を。

 観察出来ない事に対して。

 自分で自分の死は、客観視出来ない。

 それが宿命。

 生きとし生ける物全てが、受け入れなければならない事実。

 薄れる意識の中、ウェロムは願っているに違いない。

 〔自分の死を観るチャンス〕を、誰かが。

 何かが。

 与えてくれる事を。

 そんな者は、何時でも何処にもどんな風にも。

 存在しないのだが。




 そっと風が吹き。

 粉状の物体をそこから、サラサラと流し出す。

 最早、何も無い。

 この世界の、最後の優しさだろう。

 それが残したのは、7脚の椅子と。

 火がメラメラと灯ったトーチだけ。

 それ等も、クライスが消してしまったが。

 暗闇を取り戻した、空き地。

 その中に残された5人には、悲しみの感情など無い。

 寧ろ、すが々しかった。

 長きに渡る問題児が、やっとこの世界から退場したのだから。

 でもこれで、全て終わった訳では無い。

 その証拠に、天からメグの声がする。


『逝った様だね。』


「ああ。最後まで刃向ってたがな。」


『仕方無いさ。あそこまで感覚が鈍っちゃあ、ね。』


「話し掛けて来たと言う事は、準備が出来たのか?」


『そう言う事。悪いけど、手伝って貰うよ。』


「でも本当に、その《仮説》は正しいんだろうな?」


『自信は有るよ。でもその前に……。』


 メグがそう言ったので、クライスは気付く。

 4人の痛い視線に。

 特にマリーは、怯えていた。

 大切なモノを、これから失う様な顔。

 それに近い強張こわばった顔を、3人もしていたのだが。

 感情の質が違う。

 アンは兄を敬愛する余りの、慕情。

 ロッシェは最大級の尊敬を込めた、友情。

 エリーはここまで自分達を導いてくれた事の、感謝の情。

 真実をそれぞれ受け入れ。

 真っ直ぐ前を見据える目付き。

 だから強張ってはいるが、表情は寧ろ明るい。

 その明るさでマリーを支えようと、3人がその周りに集まると。

 マリーの肩に、頭に。

 そっと、手を添える。

 3人の気持ちに応えるべく、心を奮い立たせるマリー。

 どうやら立ち直った様だ。

 もう何を聞いても動揺しない。

 そう覚悟した顔の4人に。

 これまでの出来事に対する謝意を、笑顔で表すクライス。

 そして説明の役目を、メグへと渡す。

『又聞きでは、齟齬そごが生じるから』と。

 最後位、ちゃんと責任を取ってくれよ。

 この世界を締めくくる者として。

 クライスからの、無言の圧力に対し。

『分かったよ、それもボクの責任の範囲内だ』と、観念した様に。

 メグが、天から語り出した。

 思い当たる事柄から導き出した、仮説の内容を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ