第312話 真実を白日の下(もと)に その4
「《宗主家》の意味って、まさか……!」
驚きの声を上げるアン。
普段、何気無く使っていた単語。
てっきり、『錬金術の発祥家』と言う意味合いだけとばかり思っていた。
そんな、驕り高ぶった意味まで含んでいるなんて……!
クライスの話は続く。
「そう。支配者である事をアピールし続ける為に。名前に『G』のミドルネームを捻じ込んだんだよ。《当時の父さん》は反対してたけど。」
結果、その野望は達成された。
実際。
錬金術師は、王族に近い地位を占めているのだから。
母親の野心を、最後まで父親は拒絶した。
離婚へと発展するまで。
この世界で子供を残す事が出来れば、それで良かった。
だから、去っても追い駆けなかった。
一説によると。
《始まりの錬金術師の連れ》は、何処かで野垂れ死んだらしい。
クライスも良くは知らない。
その出来事は、転生前のクライスが故郷を追われ。
弟が家督を継いだ後だったから。
今更、どうでも良い事なのだが。
それでも、しんみりしてしまうクライス。
一呼吸置いた後、気持ちをリセットした様に。
クライスは再び話し出す。
核心へと迫る様に。
ミドルネームを名乗っているのは。
錬金術師の宗主家。
支配者の家系。
クライスはそう言った。
現在、ミドルネームを用いているのは。
グスターキュの王家、ヘルメシアの王族。
錬金術師の宗主家である、ベルナルド家。
ヘルメシアの12貴族と、グスターキュの領主達。
確かに成立している。
そう思える。
しかしそれに該当しない者が、ここに存在する。
それが、エリー。
答えを与える為、クライスが続ける。
「言った筈だ。転生前の俺が、子孫を残した事を。俺の子孫だとバレない様に、ファミリーネームは変えているがな。」
魔法使いの元へ到達した頃には。
ファーストネームを《ウルフェア》に変えていた。
弟側に掛けられた呪いの力から、女しか生まれない性質を利用したのは。
何もワルスの先祖だけでは無かった。
嫁ぐ度に、ファーストネームが変わり。
その為。
正当なクレイドの子孫は、歴史の奥深くへと潜る。
そして傍系の子孫がケミーヤ教を立ち上げ、ヘルメシアの王族へ側室を送り込んだ頃。
同じ様に、正当な子孫も動き出す。
こっそりと子孫の血脈は、2つに分かれていた。
主たる者と、それを支える者。
分かつ時、支える者側は敢えてミドルネームを変えた。
【フォウ】と。
『フォロー』の意と思われるが、それを考えた者はもう居ないので。
知っている者は、時を渡れるメグしか居ない。
とにかく、ケミーヤ教に両国の王家・王族が乗っ取られない様。
子孫も王の元へ嫁がせた。
その子供達が……。
そこまで話すと。
流石に鈍いロッシェも、理解する。
暫く呪いを放置し、時を見て解除する様頼んだのも。
ケミーヤ教の血筋では無く、クレイドの子孫に。
跡を継がせる為。
その作戦はまんまと嵌り、結果ウェロムさえも欺く事となる。
ウェロムはその性質上、国王と子を成す訳には行かなかった。
だからこそ、悔しがったのだ。
最後の最後で、息子に出し抜かれた。
相当な屈辱。
クライスは明かした。
主たる者の血筋側が《アリュース》であり、《マリー》である事。
支える者の血統側が《ユーメント》であり、《エリー》である事。
ウェロムが金の精霊の大半を飲み込んだせいで、錬金術を操れ。
妖精と話が出来る様になった。
その影響は、脈々と約500年間も続き。
クライスとアンも、妖精と話す事が出来る。
マリーやエリー、アリュースやユーメントが妖精と言葉を交わせる訳。
それは正に、ここへと集約する。
そう、簡単に言えば。
彼等は、【クライスの正当な子孫】だったのだ。
エリーにミドルネームが有るのは、当たり前。
宗主家の正当な子孫だったのだから。
これは同時に、残酷な現実をマリーへと突き付ける。
出会った時から、心の奥底で。
淡い恋心を、クライスに抱いていた。
旅の間に、その想いは膨れ上がり。
今や、慈愛の気持ちまで高まっていた。
しかしその想いは、決して叶わない。
先祖と子孫、そんな関係では。
それでも望みを繋ぐ様に、クライスへ尋ねるマリー。
「私のミドルネームは《グスタ》よ?違うじゃない!」
「グスタ。〔一陣の風〕を意味する〔Gust〕から来ている。ミドルネームをカムフラージュする為。そうとしか答え様が無いよ、俺には。」
「そ、そんな……!」
わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
椅子から地面へ、崩れ落ちる様に蹲るマリー。
人目もはばからず、大声で泣き叫ぶ。
それを誰も、止める事は出来ない。
その無念さは、如何程か。
好きなだけ、泣くと良い。
そう思うしかない、メグだった。
クライスは、なるべくマリーと距離を置いていた。
ロッシェに、マリーからの恋心を指摘された時も。
躱す様に避けて来た。
そんな事にはならない。
そう思う。
そう思うけれども。
万が一、そんな感情をマリーに植え付けたら。
彼女の未来に、絶望を与えてしまう。
そう気遣っての事だったが。
クライスが、余りに魅力的だったのだろう。
それを防ぐ事は出来なかった。
そんな兄の魅力を、今だけは誇る気になれないアン。
こんな結末に導いてしまうなんて。
罪作りなのね、運命と言う物は。
そう考えるしか無かった。
ロッシェも、これまで散々。
クライスとマリーの仲を茶化した事を、後悔する。
そう言う事なら、そう言ってくれよ!
俺だって、そうだと知っていれば!
余計な事なんか……!
そう思いながらも。
話したくても話せなかったクライスに同情し。
うな垂れるしか無かった。
2人とは違って、傍で見守って来たエリー。
その切なる願いは、或いは野望より叶えたかったかも知れない。
マリーの泣き崩れる姿を見て。
自分も涙を流したいのを、グッと堪えると。
憐れむ表情では無く、共に悲しむ表情でも無く。
最上の理解者でありたい、その思いだけを胸に。
黙ってそっと、マリーの隣へ寄り添うのだった。
真実は粗方、白日の下に晒された。
後、残っているのは。
この世界に纏わる暗部。
歴史が示している、その異様さ。
メグとウェロムの、認識のズレ。
それ等は全て、【或る事実】へと繋がっている。
それを示す為に。
クライスは心苦しい中、話を続けるのだった。




