第311話 真実を白日の下(もと)に その3
クライスがポツリポツリと語り出す事実。
マリーやエリーには、到底受け入れられない内容だったのだが。
それは。
まずクライスは、この場へ質問を投げ掛ける。
ウェロムとメグが答えないのを承知で。
「この世界の人間の名前で、《特徴的な事》が有る。それが何か、分かるか?」
4人とも悩むが、心当たりが無いらしい。
当然か。
旅をして来たとは言え、交友関係が限られた現状では。
クライスが指摘する。
「【ミドルネームの有無】だ。それは理解出来るな?」
言われて『そうだ』と思い返すレベルの、些細な事。
この世界の人間の名前は、基本的に。
ファーストネーム・ミドルネーム・ファミリーネーム。
この様に構成されている。
ファーストネーム以外は、無い者も多い。
名も無き村だった、〔アップリング〕の住人の様に。
ファーストネームだけの者も居るし。
ロッシェの様に、ミドルネームが無い者も居る。
だから、些細な事に感じたのだ。
それでもクライスの口振りから、重要なポイントだと念を押されているらしい。
それは何故か?
クライスから、その理由が語られる。
「気付かないのか?ミドルネームが有る人物は、【一部に限られている】と言う事に。」
「え?そうなの?」
思わずマリーが聞き返す。
クライスの言葉に、アンが必死に考える。
兄様は、無駄な事は言わない。
核心に関する事だから、そう言ってるんだ。
何か、共通点は……。
そこから絞り出された単語は。
「……権威有る者?」
「お、惜しいな。正確には【錬金術師の宗主家の家系】、それと【支配者の家系】だ。」
「あれ?それだけでしたっけ?」
クライスの答えに、疑問を挟むエリー。
確かにクライスとアン、それにマリーには。
ミドルネームが有る。
でもそれでは、同じくミドルネームが有る自分の存在が。
矛盾してしまう。
エリーは反応せざるを得なかった。
それに対して、ニヤリとするクライス。
希望通りの言葉。
それを待っていたと言わんばかりに。
対して、そのやり取りで顔を曇らせるウェロム。
初めて【その事実】に気付いたらしい。
苦虫を噛み潰した様な顔付きのウェロム。
エリーの疑問に気付かなかったからでは無い。
エリーの存在、その意味を。
クライスから突き付けられたからだ。
自分が見逃してしまっていた事実に、今更気付いた。
まんまと裏を掻かれた。
してやられた。
ウェロムの顔は、悔しさで満ち満ちていた。
そこから、ミドルネームに関する話へと変わる。
『何だよ、詰まんねえな』と、流し気味に聞いていたロッシェも。
不思議そうに聞いていたマリーも。
真実へ近付くに従って、見る見る顔色が変わって行く。
切っ掛けは、クライスのこの言葉だった。
「元々この世界の人間の名前には、ミドルネームなんて存在しなかったんだ。」
「そうなの?兄様。」
いつの間にか、相槌係はアンへと変わっていた。
彼女が4人の中で唯一、最後まで冷静だったからだ。
兄様が常に思い詰めていた、その理由。
重荷を下ろす為今、私達に話している。
聞き届ける義務が有る。
私には。
妹として。
身内として。
錬金術師の黒歴史を調査していた頃から、早々に覚悟を決めていたので。
冷静で居られたのだ。
クライスが続ける。
「そう。そこに居る母さんが、カッコつけて強引に入れたんだよ。」
「別に、意味が無い訳じゃ無いわよ。考えた上での事なんだから。」
不貞腐れた様に、声を発するウェロム。
そこへ敢えて、メグが口を添える。
「この世界で名乗った最初の名前は。【ロウェル・G・ベルナルド】だったって、覚えてる?」
「忘れたわよ。しょっちゅう職業や身分を変えてたのよ。名前なんて、その時々で変えてるに決まってるじゃない。」
膨大な時を生きる中で。
名前もコロコロ変えていた。
存在がバレない様に。
幾つもの名前が有るので、一々覚えていない。
それが、ウェロムの言い分。
それを打ち消す様に、メグが告げる。
「【本当の名前】を忘れない様に、敢えてそう名乗った筈なのに。変なの。」
「どう言う事でしょうか?」
尋ねるのは、アン。
したり顔で、メグが答える。
「この世界に来る前の、彼女の名は。【ロクジョウ=スズナ】。漢字表記だと、【六上 鈴鳴】だね。」
「か……んじ?」
「ああ、この世界には存在しなかったっけね。忘れて。」
アンの返事に、慌てて返すメグ。
追加で、名前の意味を解説する。
「《上に向けて6回、鈴を鳴らす》と言う意味さ。由来は《厄除けの儀式》だったんだよ。」
「そうだったっけ?」
「そうだよ。由来をずっと覚えていられる様に、もじって名付けた。そんな事も忘れちゃったんだね。」
無気力なウェロムの返答に対し。
気の毒そうに、そう話すメグ。
六上 → ろくのうえ → ロウェル。
鈴が鳴る → ベルがなる → ベルナルド。
そう言う事。
でも微かに記憶してるみたいだね。
今の名前が、ウェロム。
ウェロム → うえろむ → 上、六、六。
続いてるじゃないか。
そう言われると、確かに。
納得するウェロム。
そこへ、唐突に話を戻すクライス。
「とにかく。当時の母さんは、ミドルネームを加える事に拘った。《宗主家の証だ》って。」
「それが今まで受け継がれているのね、兄様。」
「その通り。そして恥ずかしながら、転生前の俺が大暴れしたせいで。権力者の象徴として、為政者もミドルネームを付け出したんだ。」
「だから権力者だけに、ミドルネームが普及……。」
「そう言う事。母さんの【本当の意図】に気付かずにね。」
考え込むアンを差し置いて、話を続けるクライス。
急にロッシェへ話を振る。
「何で【G】って付けたと思う?何を意味すると思う?」
「そ、それは……。」
混乱しながら、考えた末。
幾つか、ボソッと答えるロッシェ。
「錬金術師だから、ゴールド〔Gold〕?」
「外れ。」
「神の如き力を持っているから、ゴッド〔God〕とか?」
「それも外れ。」
「じゃあ!ケミーヤ教が崇めていた、グレイテスト〔Greatest〕!これでどうだ!」
「あいつ等も、そう勘違いしてたな。『偉大な』と言う意味のグレイト〔Great〕って。」
「違うのかよ……。」
「そうがっかりするな。挙げた中では一番近いぞ。」
「そ、そうか?」
ホッとするロッシェ。
問い掛けられた身としての役割は、一応果たせた様だ。
クライスが正解を発表する。
それは。
「指導者・先達と言う意味の、ガイド〔Guide〕。つまり。《この世界の真の支配者は我々だ》、そう主張しているんだよ。」




