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第306話 その先は、不穏

 マリーとエリーの追跡が始まって。

 森へ入った人物は、その姿にも係わらず。

 移動を苦にする事も無く、スルスルと木々の間を縫って。

 西へ西へと進んで行く。

 マリー達の方が、歩き易い格好なのに。

 長めのスカートを身に着けているそれは、マリー達を振り切る様に。

 速度を増して行く。

 そしてとうとう、影さえも見えなくなった。

 慎重に行動し過ぎて、見失った?

 マリー達はその場に立ち止まる。

 これ以上深追いしても、成果は無さそうだ。

 少しの相談後、そんな結論に達し。

 来た方向を戻ろうとする。

 その時。




「付いて来ちゃったの?しょうが無いわねえ。」




 背中から、ガバッと抱き付かれる2人。

 思わず、持っていた火の種を落としそうになる。

 ギョッとなり、2人の間へ割り込んだ者を睨む。

 決して虚を付かれたのでは無い。

 細心の注意を払って、ここまで来た。

 来たのに。

 いつの間にか、背後へと回られていたのだ。

 それは。


「お、おば様!」


 思わず声を上げるマリー。

 そう。

 その人物は、マリーと縁の深い者だった。

 ことごとくマリーへ嫌がらせをし。

 政略結婚へと追い遣った継母達の、中心人物。

 父親であるアウラル2世の第2夫人、【ウェロム・S・アウラル】。

 自分に子供が居ないせいか。

 鬱憤でも晴らすかの様に、好き勝手に宮殿で振る舞っていた。

 それが気に入らなくて、度々マリーはウェロムと衝突。

 その光景を間近で見て来たエリーも、良い印象は持っていなかった。

 だからこそ。

 マリーの晴れ舞台であるこの宴会に出席するなど、意外中の意外だったのだ。


「放してっ!」


 嫌な予感がし、無理やりウェロムの腕を振り解くマリー。

 同様にエリーも、ウェロムの腕から逃れる。

『つれないねえ』とボヤきながら、ウェロムは2人に相対する。

 何を言われるのか、身構える2人。

 しかし投げ掛けられた言葉は、予想を覆す物だった。


「やれやれ、何か文句を言われそうだけど。来たかったら、付いて来ても構わないわよ。」


「「えっ?」」


 てっきり、凄い剣幕で追い返されると思ったのに。

『構わない』だなんて、寛容な単語が出て来るとは。

 ウェロムの意図が分からない2人。

『はあーっ』と、ため息を一つ付き。

 ウェロムは話を続ける。


「『良い』って言ってんのよ。来ないなら、このまま置いて行くわよ。」


 そう言って、ウェロムは再び西へと進み出す。

 不穏な空気を感じながらも。

 ここで目を離してはいけない。

 何故かそう思えた2人は、黙って付いて行く事にした。




 更に西進する事、幾時いくどきか。

 急に、開けた土地へと出る3人。

 ここから感じる、怪し気な雰囲気。

 何処かで味わった事が有る、これは……?

 少し、悩んだ顔付きになるマリー。

 それを見たウェロムは。

 あっけらかんと、その答えを明示する。


「あんた達、〔妖精の暮らしていた場所〕を訪れた事が有るんでしょ?ここもそうよ。」


「ここも、ですか?」


「そう。この場所は、ごく一部の者しか知らないんだけどね。」


 疑問形のマリーに、そう答えるウェロムは。

 かつて宮殿で言い争いをしていた者と同一人物とは、とても思えない程。

 穏やかな口調だった。

 背筋に悪寒が走るマリー。

 顔が強張っている。

 察する様に、マリーの肩を抱きかかえるエリー。

 その様子を見て、ボソリと呟くウェロム。


「こんなに警戒されるなんて。今まで、ちょっとやり過ぎたかしら。」


 ウェロムは続けて、こう言った。


「だからこそ《向こう》は、ここを指定して来たんだけど。まさか、こう言う展開に成るとはね……。」


「だ、誰かに呼ばれたんですか?」


 周りの空気が異様な感じへと変化する中。

 ウェロムへ、恐る恐る尋ねるエリー。

 即答するウェロム。


「あんた達も良く知ってる人物よ。よーく、ね。」


「は、はあ……。」


 マリーとエリーの知り合いで、ウェロムとも繋がりが在る人物。

 宮殿の関係者?

 まさか、変な悪巧みを思い付いて。

 発覚を免れる為に、こんな辺ぴな所で結託の相談を……。

 いや、それは無いわ。

 だって、自分で言ったもの。

『ここは限られた人間しか知らない場所だ』って。

 私達が知らないんだもの、王家の人間が知っているとは思えない。

 じゃあ一体、誰だって言うの?

 マリーの疑問は、益々深まるばかり。

 考え込み、うつむき加減になって行く。

 対してエリーは。

 観察する様に、ウェロムの仕草をジッと見つめる。

 おかしい事だらけ。

 こんな場所を知っているのも。

 そんな格好で森へ分け入った事も。

 そもそも対立関係にあった者を、今更こんな形で受け入れる事も。

 何かを私達に仕掛けている、そんな気がした。

 だから、ウェロムから目が離せなかった。

 2人を尻目に、『何時来ても殺風景だわねー』とボヤくウェロム。

 土地の真ん中まで進むと、懐から敷物を取り出し。

 バッと広げる。


「あんた達も、ここに座りなさい。現れるまで、少々時間が掛かりそうだから。」


 何処から調達して来たのか。

 直径3センチ程の太い木の枝を1本、敷物から約3メートル離れた地面へブスリと差し。

『ちょっと貸して』と。

 エリーが持っていた火の種から、ぶっ刺した木の枝の先へ炎をともす。

 それだけやると、準備が終わったかの様に。

 四方5メートル程の四角い敷物のど真ん中に、陣取る感じで座り込むウェロム。

 その隣をパンパン叩くので、仕方無く。

 警戒する様にゆっくりと近付き、スッと座る2人。

『取って食いはしないわよ』と漏らしながら。

 ウェロムは森との境目の、とある一点を。

 枝に灯る炎越しに、ジッと見つめていた。




 開けた土地のど真ん中で座り込む事、十数分。

 ふとウェロムの眉が、ピクッと動く。

 自分だって、ここへ到着してからそれ程経過していないのに。

 さも待ちくたびれた様にウェロムは、見つめる方へ声を掛ける。


「そんなんだと、女の子にモテないわよ?」


『うるさいっ!って、何で他に人が居るんだよ。』


「付いて来ちゃったんだもの。見逃してあげな。」


『こいつ等なら、俺も構わんが……。』


 森からの声に、こいつ等呼ばわりされた。

 何様のつもり!

 こっちは王女よ、一応!

 こんな格好してるけど!

 生意気な態度に、少しカチンときたのか。

 マリーが声の主へ、大声を上げる。

 この場の緊張を振り払うかの様に。


「何よ、その言い草は!あんた一体、誰……!」


 そう言い掛けるマリーは、声の主の姿を見ると。

 呆気に取られる。

 結構な数の修羅場をくぐり抜けて来た筈の、エリーも。

 流石に度肝を抜かれる。

 現れたのは。

 クライス。

 の姿に似た、少年。

 年は12才位だろうか。

 声変わりをしたばかりの様に見える。

 少し照れながら、少年はマリー達の方へ近付く。

 立ち上がる3人。

 ウェロムが発した、第一声は。


「こんな形で再会するとはね、【クレイヴ】。」


 それに対して。

 怒り気味に、少年が答える。

 そこからの2人の会話に、マリーとエリーは付いて行けなかった。

 以下の様に、内容が突拍子も無かったから。


「『《欲しがり屋》みたいな呼び方は止めろ』って、《あの頃》は言ってただろ?忘れたのかよ。」


「そんな昔の事なんて、記憶に無いわ。」


「そうかい。まあ、あんたにとっては《500年近く前》の事だもんな。」


 意味不明な会話が続く中。

 ウェロムへ向け、少年はこう告げた。




「決着を付けに来たよ、【母さん】。」

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