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第305話 過渡期

 その夜は、大層賑やかだった。

 ワインデューとネシルの間に在った、切り株のみの空き地。

 そこをきちんと整備し、範囲を拡大して。

 防衛の為のレンガ壁が、まず築かれた。

 南北に1つずつ、関所の形をした建造物が設けられ。

 それを結ぶ様に、綺麗な道が敷かれる。

 何箇所かに井戸が掘られ、そこを中心に家々が建設される。

 そうやって、徐々に町が形作られて行く中。

 この新しい町を取り仕切る者《達》の屋敷が、まず完成した。

 その祝いの宴を、町全体で行っているのだ。

 町の為政者が、何故複数なのか?

 それは、グスターキュ帝国とヘルメシア帝国の。

 これまでの争いの経験から、『そうした方が良い』と提案されたからだ。

 ユーメントはマリーに約束した。

『ここを、2つの国の交流の場とする』と。

 だから双方から代表を出し、この町を治めさせる。

 ここを中立地帯とし、抑止力とする為に。

 ヘルメシア側からは、皇帝の弟である〔アリュース〕が。

 グスターキュ側から、セントリアの領主だった〔マナック卿〕が。

 それぞれ常駐する事となる。

 この人選には、色々理由が有った。




 まずは、ヘルメシア側。

 アリュースは、すっかりセントリアでグスターキュ側と打ち解けていた。

 小人族とも仲良しで、妖精にも知り合いが出来た。

 彼以上に、適任な者は居ない。

 それにこれは、ユーメントにとっても好都合。

 視察にかこつけて、近くの〔ボーデュ〕で暮らす〔トト〕の元へ会いに行ける。

 トトの振る舞いに、惹かれる物が有ったのだろう。

 妻をめとるなら、彼女をおいて他には居ない。

 会う度に、その思いが募っていた。

 この世界も、平和に成ろうとしている。

 その後押しをする為にも。

 我が志を継いでくれる、跡取りを残さねば。

 ユーメントは『それが使命だ』と、今は考えていた。




 ユーメントからの申し出に、アリュースは快諾。

 自分の為に良くしてくれた人達への恩返しを。

 そう考えての事。

 小人族の〔ホビイ〕も、共に喜んでくれた。

 これで、しょっちゅう遊びに行ける。

 何時でも会える距離に居ると言うのは、これ程良い物なんだなあ。

 それを実感しながら、セントリアとの仲介役を終え。

 アリュースの屋敷が出来上がるまで、小人族の集落〔コボル〕へと下がった。

 暗殺の危険性が無くなったので。

 数人の配下を残し、アリュースの部下はヘルメシアへと帰って行った。

 共に亡命生活をしていた、〔ソーティ〕の護衛の為。

 その中には、〔トクシー〕の姿も有った。

 今回の出来事で、『まだまだ修行不足だ』と実感し。

 騎士として研さんを積む事を望み、ソーティへ仕える事をアリュースに申し出た。

『弟を宜しく頼む』と、アリュースもそれを認めた。

 トクシー程の人間なら、ソーティにとっても良いお手本となるだろう。

 双方高め合い、立派な人間になって欲しい。

 そう心から願って、彼等を送り出す。

 後ろ姿を見送る、アリュースの目には。

『事態が上手く行く』と言う、確固たる自信が有った。




 アリュースの亡命生活の終わりは。

 その元で働いていた、〔ミセル〕と〔ヨウフ〕の。

 セントリアでの生活の終わりでもあった。

 ミセルはスラード家の跡取りとして。

 ヨウフはイレイズ家の後見人として。

 ヘルメシアへと帰国する。

 その前に2人は、周る所があった。

 利用されていたとは言え、多大な迷惑を掛けてしまった者達への。

 懺悔の旅。

 簡単に許してはくれないだろう。

 下手をすれば、道半ばで殺されるかも知れない。

 それでも、謝りたい。

 その気持ちが大きく強く、彼等の行動を後押しした。

 結果から言えば。

 皆、それ程気にしていなかった。

 ジェーンが起こした地獄絵図から比べれば、些細な事に感じられたのだ。

 各地で許しの言葉を聞き、涙を流す2人。

 感謝の気持ちを大事に抱えながら、それぞれ帰国の途へ就いた。




 次は、グスターキュ側。

 マナック卿は、セントリアで辣腕らつわんを遺憾無く発揮していた。

 その手腕を、国王に買われたのだ。

 丁度マナック卿も、息子の【イクセル】に家督を譲りたかった所。

 戦争の偽装工作の過程で、イクセルの成長が見られ。

『これなら任せられる』と言う領域まで達していた。

 そろそろのんびりしたい。

 そう考えていた時に、その話が舞い込んで来た。

『道楽気分で良いなら』と言う返事を返すと。

『それで構わない』と国王から。

 国王から信頼が厚かったマナック卿。

 これまでの功績を讃え、名誉職として任命した。

 相手国の皇帝の弟と、同じ地位なのだ。

 王族と同列。

 破格の待遇と言っても良い。

『一から町が作れる』と、マナック卿は引き受ける。

 イクセルにセントリアを託し。

 ただの【トウジ・マナック】として、さっさと新しい都市へ移動。

 現場監督として、アリュース側とやり取りをしながら。

 都市建設へと邁進して行った。




 こうして、都市建設は進む。

 順調かと思われたが、1つだけ問題が在った。

 それは、《町の名前》。

 町の造設に関わる者の中でも、活発に議論されていた。

 候補に挙がったのは。

 統治者である、アリュースかトウジにちなんだ物。

 2つの国の名を組み合わせた物。

 国王と皇帝のファミリーネームである、〔アウラル〕と〔シルベスタ〕を掛け合わせた物。

 様々な候補が上がる中。

 真実を知る者の間では、『これだ』と言う名称が共通認識として広まっていた。

 由来する人物は。

『両国の調和』と言う流れを作り出し、今現在の状況をもたらした2人。

 1人は、グスターキュ帝国第1王女。

 そして、もう1人は……。




「結構人が居るわね。」


「そうですね。」


 アウラル2世の名代として。

 そして、一連の功労者として。

 招待されていた、マリーとエリー。

 ドレス姿で来る訳にも行かず、かと言って行商人の格好も相応しく無い。

 なので、狩りに行く様なラフな格好。

 襟付きの長袖に、少し丈の短いズボン。

 色も少し地味目の、深緑と焦げ茶を基調とした組み合わせ。

 靴も動き易さを重視し、長時間移動しても疲れない物をチョイス。

 まるでこれから旅に出る様な装いで、町の中をうろつく2人。

 他にもちらほら、見覚えの有る顔が。

 若くして跡取りとなった共通点を持つ、〔トワ〕と〔フサエン〕。

 メインダリーとスコンティとを結んでいたトンネルは、木っ端微塵に砕け散った。

 ワインデューとネシルを結ぶ町が出来る事で、そのまま残して置く理由が無くなり。

 相談の結果、錬金術師にお願いし爆破して貰ったのだ。

 《彼》が仕掛けた罠は、手付かずのまま。

 本人でないと解除出来ないので、泣く泣く放置。

 石棺みたいで嫌だったのだが、仕方無かった。

 その打ち合わせを重ねる内に、トワとフサエンは仲良くなった。

 2人をやきもきしながら見つめる、付き添いの〔シェリィ〕。

 その傍へそっと近付き、耳元でボソッと。

『あの娘には想い人が居るから、大丈夫よ』と囁くマリー。

 びっくりし、顔を真っ赤にさせるシェリィ。

 顔を手で覆いながら、その場にしゃがみ込んでしまう。

 当のマリーはスウッと離れて行く。

 シェリィに『ごめんなさいね』と、謝罪の言葉を残すと。

 エリーはマリーの後を追い駆ける。

 そして苦言を呈する。


「駄目ですよ?幾らイライラしているからって……。」


「……ごめん。」


 自覚は有った。

 人に当たっても、《あいつ》は姿を現さない。

 そんな事、分かってる。

 分かってるけど。

 そんな思いに駆られるマリー。

 ロッシェは到着が遅れている様だ。

 アンも何処に居るのか、まだ姿を見つけていない。

 2人に話を聞ければ、行方を探れそうな気がしていたので。

 焦っていたのだ。

 エリーが言う。


「少しここから離れましょうか。心が落ち着ける所へ。」


「気を遣わせちゃって、ごめんなさいね。」


「謝ってばっかりですよ?さっきから。あちらにでも行きましょう。」


 そう言ってエリーは、南側の関所から見える外の森を指差す。

 あの場所なら町からの光も届き、安全だろう。

 そう思って。

 ユーメントから伝え聞いた所によると。

 ケミーヤ教は、完全に滅ぼされた。

 ヘルメシア側に居た王族反対派も、皆そうでは無くなった。

 だからヘルメシア帝国国内は、国民が望んだ通り。

 平和に成りつつある。

 加えて。

 この辺りは元々、賊が出る程栄えていない。

 ついこの間まで、道無き森だったのだ。

 町建設の関係者でもない限り、こんな所へは現れないだろう。

 当然と言えば、当然か。

『ご苦労様』と、関所を守る衛兵に声を掛け。

 マリーとエリーは、町の外へ出る。

 そこでマリーは、《或る者》を見かけるのだが。


「あれは確か……?」


 何処かで見た事のあるシルエット。

 少し考えて、思い出す。

 そうか!

 宮殿で、散々私を……。

 でも何故、こんな所に?

 余りにも場違いな人物だった為。

 エリーと相談する。

 怪しい。

 2人の意見は一致した。

 それは関所の傍から、西側の森へと入って行く。

 近くに落ちている木の枝を、適当に拾って。

 関所の衛兵に、火を分けて貰うと。

 後を付けている事が悟られぬ様、慎重に。

 2人の追跡が始まった。

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