第302話 憎悪の果てに
プツンと何か、意識の糸が切れた様に。
ジェーンが、目をカッと見開くと。
前屈みになり、膝と肘をやや折り曲げて。
全身に力を入れる。
そして両手拳を、ギュッと握り締めたまま。
地面に向かって、絶叫する。
圧力にも似た、その言葉は。
やはり、全否定!
全否定ではないか!
我等の歩みを!
我等の歴史を!
我等の存在を!
全否定するなと!
言ってるだろうがああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!
絶叫が辺りに響く。
それと同時に、ジェーンの足元が砂地化。
範囲はジェーンを中心に、半径をドンドン広げて行く。
時計回りに、渦を巻きながら。
そしてジェーンは、地面より下へと下がって行く。
漏斗の様な形状に変わって行く、周りの砂地。
段々勢いを増して、渦は広がって行く。
その端は、隠れているヘルメシア軍の元へ到達し。
瞬時に地面が砂へと変わる。
そして木々諸共、兵士達を砂地へ沈めて行く。
「う、うわああぁぁぁぁっ!」
「た、助けてくれーーーーっ!」
あちこちから怒号が飛ぶ。
しかし空しくも、その願いは聞き届けられない。
何故なら、彼等を助けようとした者達も。
同じ境遇に晒されていたから。
蟻地獄と化した、ジェーンの生み出した砂地の渦は。
グスターキュ側の森へと到達し。
尚も周りを巻き込んで、勢力を強めて行く。
それに伴い、渦に巻き込まれた兵士達は。
身体の力が抜けて行く。
砂地は、兵士達から生命エネルギーを吸い取る媒体と化し。
無力となった人間は、砂の中に埋もれて行く。
パラボラアンテナの様な役目を果たし始める、砂地の漏斗は。
中心のジェーンへ、エネルギーを注ぎ込みながら。
もっと貪欲に、周りから魔力を掻き集めようとする。
「あれ、おかしいな……。」
そう思いながら、その場にバタンと倒れ込む人々。
敵味方の区別無く。
ヘルメシアからも、グスターキュからも。
各地で、倒れる人々が現れる。
皆、ジェーンに。
多少の量の差は有れど、生命エネルギーを吸い取られているのだ。
感情が一旦無くなり、再び爆発した事で。
リミッターが外れ。
無差別に、魔力を搾取する。
そして、身体に埋め込まれている賢者の石のせいで。
フレンツが、そうだった様に。
セメリトも、そうなった様に。
化け物へと変わる事は、ジェーンには無く。
自我を保ちながら、外見は人間のままで。
粛々と魔力を吸い上げて行く。
その光景を、数100メートル上空で。
見ているしか無い、ラヴィ達。
咄嗟にアンとセレナが協力して、上空高く打ち上がると。
パラシュートの様な物を広げ、空に浮かんでいる。
その下には、金属製の籠がぶら下がり。
アンとセレナ、ラヴィとユーメントが乗っている。
一瞬の判断で行ったので、それ以上の人間は救えなかった。
全体の重量の関係で、空中に浮かんでいられる時間は限られている。
チャーミーの力で、浮遊を保つ為の魔力を掻き集めようとするが。
ジェーンに全て横取りされてしまう。
アンも疲労の色が隠せない。
それ程、ジェーンの魔力吸引力が強いと言う事。
その中で、ラヴィは泣いていた。
自分が余計な事を言ったから。
こんな事態になってしまった。
私はただ、あいつも助けたかっただけなのに。
その優しい涙は、止まる事が無かった。
籠の下に広がる光景。
渦を巻く砂地が、ワインデューとネシルを丸呑みし。
更に外へ拡大を続ける。
シルフェニアは辛うじて、その不思議な力で砂漠化を阻止しているが。
それももう、限界の様だ。
陸の孤島と化したシルフェニアを残して。
グスターキュ側は、東側のサファイ・レンド・モッタ・メインダリー・セントリアは勿論。
シルフェニアの南側にあるリッティ・ブレイア・フワンなども犠牲となる。
南は、国王の直轄地〔チュシェ〕の中に在る首都〔アウラスタ〕まで迫っている。
一方ヘルメシア側は、北側のシゴラ・ラミグ・メドム・ツァッハが引き摺り込まれ。
東は、スコンティ・ダイツェン・復活した森を飲み込んだ後。
シルバの奥深くまで達しようとしている。
プレズンも一部が砂漠化し。
魔法使いのメグが暮らす〔シキロ〕にも、影響が及び始める。
それにも係わらず、メグが動く様子は無い。
それも歴史の既定路線だと言うのか?
上空からその行く末を見守る、ユーメント。
未だに泣いている、ラヴィ。
力を使い果たしそうな、アン。
チャーミーを用いて、自分の力をアンへと託すセレナ。
皆、絶望的な眼下の景色を目の当たりにしながら。
心の何処かで思っている。
あの方なら。
兄様なら。
あの人なら。
あいつなら。
きっと、きっと。
何とかしてくれる。
そう思いながら、4人を乗せた籠は。
渦巻く砂上へと、落下して行った。
死を覚悟しながら、それでも復讐心を忘れなかったジェーンは。
魔力を吸い取ったお陰で、完全に意識を取り戻していた。
周りに居た人間は、漏れ無く砂中でもがき苦しみ。
ジェーンの声は聞き取れない。
聴衆が誰も居ない中、演説を繰り広げるジェーン。
両手を高く掲げ。
まるで人生の頂点であるかの様に、誇らし気に。
一世一代の晴れ舞台に立ったが如く、天に向かって叫ぶ。
以下の様に。
どうせこの身が滅びるなら!
この世界を巻き添えにしてくれる!
何も残さぬ!
何も生かさぬ!
たとえ生き延びたとしても!
我が名を忘れなくさせてくれる!
今こそ名乗ろう!
声、高らかに!
我は、グレイテスト様の遺志を継ぐ者!
この世界を統べ、この世界を破滅へと導く者!
聞け、皆の者!
我こそは!
ジェーン・ゴウ・アストレル!
いや!
真の名は!
【ジャン




