第300話 【初めから】
王女達は、ケミーヤ教の息が掛かった者ばかり。
その事実を知り、絶望するが良い。
王族には最早、味方は居ないのだ!
ハハハハハ!
ジェーンの高笑いが、辺りにこだまする。
しかし、それに被せる様に。
別の高笑いが響く。
それは。
「真実を知らぬ事が、これ程愚かとは!ハハハハハ!」
声の主は、ユーメントだった。
怒りに打ち震えるとばかり思っていたので。
その姿に疑念を抱くジェーン。
しかめっ面のジェーンに、ユーメントが語る。
悠然とした態度で。
「味方が居ないのは、お前の方だ!馬鹿め!」
「な、何を!」
強がるジェーン。
そこへスッと姿を現す、兵士達。
グスターキュ側の錬金術師によって、気配を消していた。
セッタンとゴホワムの連合軍。
寝返った、ヅオウ軍。
開放され見限った、ダイツェン軍と傭兵達。
森に潜んでいた、グスターキュ軍の弓兵達。
ティスとモーリアにそれぞれ肩を貸され、何とか立ち上がりながら。
ジェーンを睨む、オフシグとパップまで。
決して近付かず、しかし目を離さず。
ジェーンのみを、ジッと睨んでいる。
怒り。
悲しみ。
哀れみ。
失望感。
複雑な感情が、一斉にジェーンへ向けられている。
狼狽えるジェーン。
屈辱塗れの光景で、独り叫ぶ。
み、見るな!
そんな目で!
我を!
見るでない!
止めろ!
止めろって言ってんだろうが!
我を!
誰だと思っている!
我こそは!
「『ワルス』なんでしょ?とっくに気付いてるわよ。」
ジェーンの慟哭を遮る様に、ラヴィが告げる。
相当昔から暗躍していた、ケミーヤ教の頂点。
強力な錬金術師を従え、その血脈で勢力を拡大して来た。
その末路が、これ。
完全に晒し者。
周りは敵意しか無く。
ジェーンに付く者など、最早何処を探しても居ない。
オフシグが、吐き捨てる様に言う。
「もうお前にはうんざりだ!皇帝暗殺など、知った事か!」
「敵味方の区別無く、攻撃を加える者を!信用出来る訳が無い!私も降りさせて貰う!」
パップも声をからして、ジェーンへ告げる。
ジェーンはやり過ぎた。
自らの力を過信して、無理に抑え込もうとした。
その反発具合を想像出来ない程、暴走してしまっていた。
こうなるともう、取り返しは付かない。
それでも、ジェーンは。
「ま、まだだ!王女達が来れば、形勢逆転……!」
「来ないわよ。ここには。」
冷徹な口調でジェーンに告げる、アン。
『あんたの情報収集力って、泥棒以下ね』と、上から目線で見下す様に。
ジェーンは知らない。
曽て盗賊団だった連中が、諜報組織となり。
この世界のあらゆる事にアンテナを張り、情報を集め。
それを武器に、世の中を渡り歩き始めている事を。
確かに、ジェーンへ知らせた後。
伝令はユーメントの元へ辿り着き、王女達の事を伝えた。
その時は、動揺の色を隠せなかったユーメント。
作戦を練り直している間の出来事だったので、どう対応しようか悩んでいた。
ここからでは、王宮と連絡を取り合う手段が無い。
指を咥えて見ていろとでも言うのか?
妹達が苦しむ様を。
考え込むユーメントに、ラヴィが優しく声を掛ける。
あんたは、今出来る事をしなさい。
それは何?
そう問われ、ユーメントは気付く。
信用する心。
信頼する心。
そうだ、私だけでは無い。
この国のあちこちで、戦っている者が居る。
未来を切り開こうと、もがいている者達が居る。
皇帝として出来るのは、各自を信用し信頼する事。
未来を好転させる為に、共に力を合わせ立ち向かう事。
作戦を発動させる時、決心したではないか。
この身を犠牲にしても、成し遂げると。
覚悟を揺るがせてはならない。
それでは、私を信頼し付いて来てくれている者達に対して。
申し訳が立たないではないか。
そう思い直し、心を奮い立たせるユーメント。
より良い未来を掴む為、足掻いて居る者の下へは。
吉報がやって来るものだ。
分隊が通って来た道を辿り、ユーメントの元へ行き着いた者。
それは、コンセンス家当主の〔フサエン〕が。
皇帝へ一刻も早く知らせる様、諜報組織〔アイリス〕から出して貰った使者。
盗賊の伝達能力を、舐めてはいけない。
そんじょそこらの兵士より、よっぽど早いのだ。
使者からの内容を聞いて、安堵の表情に変わるユーメント。
またしても、平和を願う者に救われた。
ならば皇帝として、役目を果たすまで。
ユーメントは、完全に立ち直っていた。
フサエンが〔シェリィ〕と共に、〔ドグメロ〕の町へ行く様指示されたのは。
王女達を助ける為だけでは無い。
その存在を、ジェーンへ知られない様にする為。
フサエンの母〔エスク〕は、『火の精霊と会話出来る』と言う特殊性の為。
ジェーンから直接、王族へ輿入れする様迫られていた。
ケミーヤ教の姿勢に対する反発から、その話を断り。
結果、ジェーンから追手を差し向けられ。
長き間に亘り、命を狙われる事となった。
そう。
エスクを追い回し、フサエンの父である〔ブリー〕とエスク共々。
ドグメロ壊滅へと追い遣ったのは、他でも無いジェーンだったのだ。
その忘れ形見である、フサエンの存在を知ったら。
逆上し、その力を奪おうと。
辺り一帯が壊滅状態になるまで、追い駆け回すに決まっている。
だから、ジェーンがスコンティを通過する間。
その存在を悟られない様、魔法使いの〔メグ〕が配慮したのだ。
『配慮』と言う表現はおかしいか……。
そうする様、この世界の歴史がメグの行動を記録していたから。
それに従ったまでの事。
所詮、メグは歴史の歯車に過ぎないのだ。
歴史を動かす切っ掛けとはなっても、歴史を改変する力は持ち合わせていない。
と言う訳で、ジェーンとユーメント達の最終決戦の場には。
フサエン達は立ち会っていない。
勿論、王女達も。
元からそう言う事になっていた。
メグの中では。
王女達の身が奪還され、ルビィも死んだ。
その事実を知り、もだえ苦しむジェーン。
魔力補充の当てが、完全に消え失せてしまった。
くそう!
何故!
どうして!
こうも世界は邪魔をする!
我等の悲願を!
仇なす連中を滅ぼし、祖先の恨みを晴らして。
グレイテスト様の正式な後継者として、この世界に君臨する。
何故拒む!
何時からこうなった!
大声で叫ぶジェーン。
両膝を地面に付け。
両手拳を思い切り、地面へ叩きつけながら。
拳から血飛沫が上がる。
このままでは、敵を倒す前に自身が壊れてしまう。
そんな事も構わずに。
そうする内。
ジェーンはいきなり、ピタッと止まって。
天に向かって叫び出す。
「何処で!何処から!狂ったのだぁぁぁぁぁ!」
それに対して、冷静に。
ラヴィが呟く。
「そんなの、《最初から》に決まってるでしょ。バッカじゃないの?」




