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第298話 逃れた者達の事情、及び選択

 少女は、ベイスの屋敷へと運ばれていた。

 早速、来客用の寝室に在るベッドへ寝かされ。

 医師としてヘンドリに常駐していた錬金術師が、慎重に診察している。

 心配そうに見守る、ベイスとルーシェ。

 医師がベイス夫妻へ告げる。


「命に別状は無いでしょう。奇跡としか言い様が有りませんが。」


「そうか。有難う。」


 医師へ感謝の意を述べ、喜び合うベイス夫妻。

 そこへ、泣き疲れたのか。

 目を真っ赤に腫らしたホオタリが、ロバータを右肩に乗せ。

 寝室へと入って来る。

 その顔に、オロオロするルーシェ。

『ロバータが泣かせた』と勘違いしたのだ。

 問い掛けられ、首を振るホオタリ。

『大切な友達が、土に還ったんだよ』と、ロバータは告げる。

 その言葉で察するベイス。

『魔物の力で瞬間移動した』と、どうもこの少年は言いたかったらしい。

 ならば、その過程で力尽き……。

 悲しみで覆われているだろうホオタリの気持ちを汲み取り、それ以上は尋ねないベイス。

 気持ちの整理が付くまで、触れずにいてあげよう。

 そっとルーシェに耳打ちするベイス。

 理解したルーシェは、そっとホオタリを抱き締める。

 これ位しか、してあげられないけれど。

 ごめんね。

 ルーシェの気遣いを悟り、そのまま暫くじっとしているホオタリだった。




 数時間後。

 うつらうつらしながら、少女の傍で椅子に腰かけているルーシェ。

 少女は目をパチリと開いた後、ガバッと起き上がる。

 その音で、ルーシェの目も冴える。

 すぐに少女へ声を掛ける。


「気が付いたのね!私、分かる?ルーシェよ!」


「ルー……シェ?」


「そう!」


「ルー……シェ!」


 そう言うと、涙がポロポロとしたたり落ちる。

 知り合いに出会えた喜びと。

 苦痛から解放された嬉しさが。

 混ざった感情。

 それが、泣き笑いとなって表れていた。

 改めて尋ねるルーシェ。


「あなた、ナーレイよね?随分若いけど……。」


「うん。色々あって、ね。」


 お互い、ホッとした顔になる。

 そこへ、ベイスとホオタリ。

 ロイスも駆け付ける。

 聞きたい事が山程有ったのだ。

 お互いに自己紹介をし合った後、それぞれの事情を話し合う。

 まずは、ジェーンの魔の手からどうやって逃げ切ったかを。




 ジェーンは、ナーレイが蓄えて来た魔力を吸い取り。

 強大な力を手に入れていた。

 そこから逃れる為に、幾つかのキーポイントが有った。

 まずは、ロイスとトフラスが合流する事。

 仮にも錬金術師の端くれであるロイスと、瞬間移動を可能にする魔物のトフラス。

 2つの力が合わさらないと、流石に逃げ切れない。

 そこで活用されたのが、またしても金の小人。

 ジェーンが接近しようとするや否や、金の小人は4つに分裂し。

 皇帝の鎧が乗っかっていた馬の、ひづめの下へ滑り込む。

 同時にロイスも、馬を乗り替える。

 ジェーンが屈み気味で接近して来る中、蹄の下に在る金が瞬時に伸び。

 ロイスごと、馬を数メートルの高さまで押し上げ。

 頂点に達した後、瞬時に縮み。

 再び、ナーレイが倒れている群衆の端へ。

 金が伸び、馬をその真上までスライドさせる。

 その後。

 馬の脚に負担を掛けない様、金が縮むと。

 ナーレイとホオタリ、そしてトフラスをからる。

 無事合流出来た後は、トフラス固有の術である瞬間移動を発動させる。

 トリガーはロイスが引く。

 持っていた賢者の石を、トフラスへ押し付ける。

 そして一気に魔力を込める。

 その間に隙が出来てしまうので、金の小人が繭状になり。

 馬の周りを覆う。

 これでジェーンは、中の様子が掴めなくなった。

 視覚的にも、魔力感知的にも。

 瞬間移動が起きたと同時に、魔力を放出する様に金の小人も消滅。

 結果ジェーンの前から、跡形も無く消え失せる事となった。

 そう、ロイスを乗せた馬は空中を移動したので。

 下を向いて動いていたジェーンには、『馬が空を飛ぶ筈が無い』と言う思い込みを抱えたまま。

 移動の原理が考え付かなかったのだ。




 ロイスは、『ナーレイとホオタリを救う考えは無かった』と言う。

 余計な者を抱え込むのは、逃亡に際して邪魔になるから。

 金の小人が勝手にやった事。

 敬愛するクライスの意思と受け取り、黙って見過ごしただけ。

 あの方がそう望むなら、たとえ人数が増えても逃げ切れるだろう。

 そこまでクライスに心酔していた。

 それを聞いて、ベイスもクライスを気の毒に思う。

 変な奴に慕われたものだな、彼も。

 ロイスの前では、その様な素振りを決して見せなかったが。




 次に、ナーレイの置かれた状況が。

 彼女の口から語られる。

 その内容は、以下に。




 メンティの脱走劇で。

 一時は逃亡に成功したナーレイだったが。

 すぐに追手に捕まった。

 魔力適正の高さから、以前からセメリトに目を付けられていた。

 それが逃げようとした事で、奴隷にする口実をセメリトへ与えてしまった。

 魔力を溜める様、強い暗示を掛けられ。

 賢者の石を、身体のあちこちに埋められた。

 全身で魔力を集めながら、いざと言う時の供給源として。

 セメリトの手元に置かれた。

 《切り札》とされたのは、内在させていた膨大な魔力のせい。

 その副作用で、年を取る事が無く。

 少女の姿のまま、今に至る。

 そのセメリトが手元から離し、オフシグの元へ遣わしたのは。

 皇帝暗殺の期が迫っている事を感じ取り、移送する手間を省く為。

 ついでに説明すると、トフラスは転移装置の負担を軽くする役目も負っていた。

 何回も使用すると、流石の転移装置も劣化する。

 その時期を延ばす為、トフラスの力を利用していたのだ。

 共にチンパレ家の蔵へ飛ばされた時、ナーレイはそれを感じ取ったと言う。

 トフラスの思いが流れ込んだとでも言おうか。

 その苦しみは計り知れない物が有った。

 だから、『土に還った』と聞き。

 ナーレイも涙を流した。

 共に悲しみつつも、深い優しさを昔と変わらず持っている事に。

 嬉しく思う、ルーシェだった。




 そしてこれからの、個々の身の振り方だが。

 ナーレイは、ベイス邸で養生する事になった。

 元々行く当ては無いので、暫く共に暮らす事を選んだ。

 これはルーシェの申し出だった。

 夫婦水入らずの所に割って入る様で、申し訳無かったが。

『ではせめて、ナーレイの居場所を用意出来るまで』と、ベイスも言ってくれたので。

『それなら』と、居候へ。

 ロイスは、皇帝の乗っていた馬が無事である事にかこつけ。

『これを届ける義務が有る』と、再び国境付近へと向かった。

 その実は。

 ジェーンと対峙する為、必ずクライスが現れる。

 あの強敵に対して、どの様な戦い方をするのか。

 この目で見届けたい。

 ヘンドリと言う、国境から物凄く離れた町へと瞬間移動したと知った時。

 ガクッとなったのは、『その現場に間に合わない』と思ってしまったから。

 それでも、どうしても立ち会いたい。

 たとえ間に合わなくても、地形から戦いの様子が読み取れる筈。

 それを眺めながら、想像するも一興。

 思い立ったが吉日。

 ナーレイの話を聞いた後すぐに。

 ベイスが止めるのも聞かず、そそくさと町を出て行った。

 引き留めたのは、『どうせ今から旅立っても無駄だ』と言う思いと。

『彼に迷惑を掛けたく無い』と言う考えから。

 最後までロイスには通じなかったが。




 問題は、ホオタリ。

 話を聞くと、ヘルメシア帝国の支配が及ばない地域の出身らしい。

 しかし、同じ境遇のシュウとは違い。

 そもそも《この世界の住人では無い》可能性が。

 ホオタリの故郷の話が、どうもこの世界と合わないのだ。

 錬金術への適性の高さ故に。

 偶然生身のまま、ここへと迷い込んだ。

 そう考えた方が、理屈に合っている。

 そこに出くわしたのが、セメリト。

 たま々、勢力範囲を広げようとヘルメシア外へ出ていた時。

 森の中彷徨さまよっている所を、見つかったらしい。

 そんな経緯で、地続きによって渡って来た様だ。

 次元の裂け目に飲み込まれ辿り着いた、魔物のケースとは訳が違う。

 その辺りの事情をこっそりロバータから聞かされ、悲しみに打ちひしがれるホオタリ。

 しかしまだ、僅かな可能性が有る。

 それは、《魔法使い》。

 次元を超え世界を渡り歩いている、その力が借りられれば。

 元の世界に戻れるかも知れない。

 一連の事態が指し示している様に、〔魔法使いがこの世界を離れる時〕は迫っている。

 その時同行させて貰えたら、或いは……。

 一縷いちるの望みに賭けるか。

 それとも諦め、この世界で生きて行くか。

 最後の決断は、ホオタリ自身が下す事に。

 14才の少年には、かなり重い決断ではあるが。

 彼の人生なので、彼が責任を持つ必要がある。

 誰も口出しは出来ない。

 自らが選び取った未来を、自身の手で切り開く。

 それが人間と言うモノ。

 そうロバータに諭され。

 限られた時間の中、悩む事となるホオタリ。

 結論を下すまで、ホオタリもヘンドリで厄介になる事となった。

 賢明な子だ、どんな選択をしようとも後悔しないだろう。

 そう心に秘めたまま、そっと見守るロバータだった。




 逃れた者達はこうして、それぞれの道を歩む事となる。

 対して、逃した者は。

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