第297話 助かる者の陰で
「ここは……何処……?」
地面らしき場所で、這い蹲った状態のホオタリ。
周りを確かめようと、顔を上げる。
すると、目の前には。
「どうしたの、あなた達!」
そう言いながら、駆け寄る影。
ホオタリの目の前でしゃがむと、心配そうな声でこう言った。
「大丈夫?」
声から察するに、大人の女性の様だ。
何事かと、徐々に人が集まり出す。
そうだ!
あの女の子!
女騎士さんが、馬の背に乗っけてくれた。
僕と一緒に。
だったら、近くに倒れている筈……。
両手を地面に付き、体を起こすと。
膝立ちしたまま、辺りを見回す。
そこは、新しい家々が並び立つ町。
地面もゴミ1つ無く、綺麗に保たれている。
どうやら、訪れた事の無い場所の様だ。
ふと右側を見やると、あの少女が伏せっている。
良かった、助かったみたいだ。
顔色はまだ青いが。
手の指が動いているので、意識が戻ったらしい。
取り敢えず、ホッと胸を撫で下ろすホオタリ。
ホオタリに声を掛けた女性は、今度は少女の顔を覗き込む。
そして、驚きの声を上げる。
「あなた、もしかして……!」
「どうした?知り合いか?」
町の住民が騒いでいるので、様子を見に来た男。
ガタイが良く、身体を日頃から鍛えている様だ。
女性の関係者らしく、馴れ馴れしい態度で女性に接している。
男の問いに、女性が返す。
「昔の姿のまんまだけど、間違い無いわ!この娘、友達よ!〔メンティ〕の!」
「何っ!《あの時逃がした少女達》の内の1人なのか!」
「ええ、確かに覚えが有るの。【ナーレイ】って言う娘よ。」
「そうか……良く無事で……。」
少し涙目になる男。
不思議そうな顔で、それを見つめるホオタリ。
視線に気付いたのか。
ホオタリの方へやって来て、正面でしゃがむと。
声を掛けて来る。
「何が有ったか知らんが、ここは今や平穏そのもの。安心すると良い。」
そう言って、笑い掛けて来る男。
パンパンとホオタリの身体に着いた埃を払い、肩を貸して立ち上がらせる。
意外と元気なホオタリの様子に安心し、男は名を名乗る。
「俺は〔ベイス・アレンド〕。この町〔ヘンドリ〕を仕切っている騎士だ。」
「ホオタリと言います。宜しくお願いします。」
「おお!見かけよりしっかりしているな。感心感心。」
うんうん頷くベイス。
ベイスの挨拶に反応したのか。
取り巻きが一際多かった場所から、甲高い声がする。
「ヘンドリだって!何と遠くまで……!」
「あちらにも誰か、人が倒れているのか?」
ベイスがそう呟くと。
それに応える様に、ホオタリが話す。
「あの人は、僕達を助けてくれた女騎士さんです。信じられませんが、どうやら僕達は瞬間移動して来た様です。」
「瞬間移動だって!どうやって!」
「それは多分、魔物が……。」
そう言い掛けて、スズメの魔物の姿を探すホオタリ。
すると、寝転がった格好の馬の首辺りに。
小さな影が。
微かだが、動いている。
助けなきゃ!
馬まで数メートル程の距離だったが、辿り着くまでにかなりの時間を要した感覚だった。
それは身体的疲労に因る物なのか、それとも気が焦っていたからなのか。
駆け寄った時には、弱々しく感じられた魔物。
ホオタリは両手で掬う様に、そっと拾い上げる。
ホオタリに気付き、言葉を発する魔物。
「助かったんだな……みんな……。」
「良いから!黙ってて!」
余りの弱り様に、救いの手を差し伸べてくれる人を探すが。
皆の注意は、少女と女騎士へ。
誰もこちらを見ていない。
優先順位は、魔物よりも人間。
当然の事。
ベイスに指示され、少女が何処かへ運ばれて行く。
それに付き添う女性。
その場にじっと蹲る女騎士を気にして、住民が恐る恐る声を掛ける。
しかし、反応無し。
困った顔をしたまま、取り巻きは増えて行く。
誰か!
この子を助けて!
お願いだよ!
ホオタリは必死に叫ぶが。
届いていない様だ。
俯き、涙を流すホオタリ。
この子だって、生きてるんだよ。
必死に、必死に。
何で誰も気にしてくれないの?
どうして?
魔物だから?
そんなのおかしいよ!
ううっ……。
立ち尽くすホオタリ。
そこへ、奇妙な者が近付いて来る。
リスの姿をしたそれは、ホオタリの傍まで来ると。
スルスルと身体を登り、右肩へ回ると。
ホオタリに声を掛ける。
「残念だけど、もう手遅れだ。ここまで疲弊していると、助ける手段が無い。」
「君!魔物なの!」
目を丸くするホオタリ。
リスは頷くと、自己紹介する。
「俺は〔ロバータ〕。こいつと同類だよ。」
「同類って?」
疑問形のホオタリ。
ロバータは答える。
「どうせケミーヤ教に利用されてたんだろ?俺もだよ。あの〔ルーシェ〕と一緒にな。」
そう言って、少女に付き添う女性の方を見る。
そうか、あの人も境遇は同じだったのか。
道理で、あの娘を見る目が優しそうだと思った。
納得するホオタリ。
と同時に、『もう手遅れ』と言うロバータの言葉に愕然とする。
同じ魔物がそう言うなら、そうなのだろう。
受け入れようとするも、まだ諦めたく無い。
『何か助ける方法は?』とロバータに尋ねるも、あっさりと首を振られる。
「酷使されて来たのだろうよ。ここまで持ったのが不思議な位だ。何か強い意志を持っていたらしいな。」
強い意志……?
思い当たる節が無いホオタリ。
そこへボソッと、スズメの魔物が話し出す。
「救われたからな……君には……だから……恩返しさ……。」
「え?僕、何もしていないよ!」
「時々……魔力を……分けて……くれた……だろ……?」
「あれ位、何とも……!」
「それだけで……十分……人間……捨てた……ものでは……。」
「当たり前だよ!助け合う事位!それに『ケミーヤ教が危ない集団だ』って事を僕に気付かせてくれたのは、他でも無い君じゃないか!」
「ありがとう……嬉しい……よ……。」
そう言い出す頃には、魔物の姿が薄くなり始めていた。
ロバータが、残酷な現実を告げる。
「もう、逝かせてやってくれ。こいつの為だ。なあに、土に還るだけさ。いつも傍に居るだろうよ。」
「そいつの……言う……通り……。」
更に透けて行く魔物。
涙が止まらないホオタリ。
零れ落ちる涙で濡れながら、最後の言葉が。
それは。
「【トフラス】……俺の……名前……覚えて……くれると……。」
そう言い残し、トフラスなる魔物の姿が完全に消えた。
トフラスの身体に落ちていた涙が、直接ホオタリの手のひらへと。
もう戻って来ない。
悲しいけど。
でも、ありがとう。
忘れないよ、トフラス。
悲しそうな顔をしながらも、涙を堪えて。
ロバータへ案内され、少女の元へ向かうホオタリだった。




