第295話 予定外、予定内
ハヤヒから遅れる事、幾分か。
ティスとモーリアも、大軍を率いて到着する。
そこで大人しくなっているヅオウ軍と、凛々しく立っているユーメントの姿を見て。
『ここまでは作戦が成功している』と考える。
早速ユーメントの元まで馳せ参じ、かしづいて。
ティスとモーリアが報告する。
「帝国軍分隊、ただ今到着致しました。」
「ご苦労であった。感謝の念に堪えぬ。」
ティスの言葉に、ユーメントは深いお辞儀で返す。
彼等の協力が無ければ、ヅオウ軍を追い詰める事は出来なかったからだ。
皇帝の振る舞いに恐縮し、深く頭を下げる2人。
そのままの格好で、モーリアがユーメントへ尋ねる。
「して、ナラム家とチンパレ家は如何致しましょう?」
「それなのだが、このまま本隊の拠点へ戻る事とする。」
「この事態を知り、今頃逃げ出していないでしょうか?」
「お主の心配はもっともだ。しかし退路は断ってある。」
この時の為、経由地にそれぞれ。
メルドを〔シゴラ〕へ、ツレイムを〔メドム〕へ置いて来た。
オフシグとパップの元には、見張り役としてロイスも居る。
決して〔ヅオウ〕まで逃がさない。
確実に捕らえ、相応の罰を受けさせる。
対策は万全。
そう思われた。
しかしその流れを、ティスの言葉がガラッと変える。
モーリアへ投げ掛けた、その一言が。
「そう言えば、《あ奴》はどうなったのか?」
「さあ、分からんよ。」
何気無い、2人の会話。
そこから、何か嫌な予感がした。
ユーメントがティスへ尋ねる。
「あ奴とは?これで全員では無いのか?」
「それなのですが。ダイツェンにて、変な奴が合流致しまして。」
「変とな?」
「はい。アストレル家の当主エルスの妻で、『ジェーン』と名乗っていました。どうやら、本人である事には間違い無いのですが……。」
「舞踏会へ出かける様なドレスを身に纏い、馬車に乗ってここまでやって来たのです。国境へ到達する直前に、姿が見えなくなりまして。ただ今、行方知れずなのです。」
モーリアが補足する。
そして顔を上げる2人。
そこには、先程まで余裕の表情を見せていた筈のユーメントが。
顔を歪め、眉をしかめている。
何か不味い事を言ってしまったか?
考える2人。
対して、ユーメントは。
後ろに立っている3人の少女と、何やら話し出し。
4人共、顔を曇らせる。
話し終えると、ユーメントは2人の前でしゃがみ。
再び尋ねる。
「アストレル家の者で、間違い無いのだな?」
「はい。それはもう。」
返事をするモーリア。
嘘を付いている目では無い。
そう考え、モーリアへ更に尋ねるユーメント。
「他に、何か情報は?何でも良い、話してくれ。」
「他にはですか?そうですね……戦力に付いてでしょうか。」
「兵を連れて来ていたのか?」
「300程。後は、途中の町〔キョウセン〕であ奴が雇った傭兵です。約200。」
「傭兵までも……そうか。相分かった。下がって良い。」
「「ははーっ!」」
かしづいたまま一礼し。
分隊を指揮するハヤヒの元へ向かう、ティスとモーリア。
その後ろ姿を見ながら、考え込むユーメント。
傍に寄って来る、少女達。
ラヴィ、セレナ。
そして、アン。
ユーメントがラヴィ達へ、話を切り出す。
「予定変更だな。」
「仕方無いわ。あなたの想像通りなら、間違い無くここへやって来るもの。」
ラヴィがそう答える。
セレナが続く。
「やはり、ケミーヤ教の関係者でしょうか……?」
「十中八九、そうだろうな。」
ユーメントが、今度は返答を返す。
そして3人の目線は、アンの方へ。
錬金術師としての見解を聞きたかった。
相手が錬金術師ならば、ここからどう動いて来るかを。
アンは静かに目を閉じ、じっと考えると。
目を開いて、真っ直ぐ3人を見つめ。
告げる。
「〔クェンド〕と〔ウタレド〕で見た光景。それが一度に、こちらへ襲い掛かって来るでしょうね。」
「そうか……。」
残念そうな顔をするユーメント。
12貴族へ嫁いでいると言う事は、幹部クラスの可能性が高い。
またあんな悲惨な光景が……。
そう考えただけで憂鬱となる。
こんな時、《彼》が居てくれれば……!
そう思わざるを得ないシチュエーション。
そして同時に、『ロイスだけで止められるのだろうか』と不安になる。
とにかく、ここへ来る事を覚悟して。
仕切り直さないと。
そう思い直し、アン達に助言を貰いながら。
陣形等を確認し、各方面へ指示を出すユーメントだった。
ユーメントの不安は的中していた。
錬金術師としての力は、ジェーンの方が上。
ロイスには、止める程の技量は無い。
しかし、確信は有った。
『ジェーンの思い通りにはならない』と言う確信が。
どんなに力を蓄えようとも。
必ず討ち果たすであろう。
それを期待して、悠然と馬の背へ戻り。
金の小人を眺めるロイス。
そのニヤッとした顔が気に入らなかったのか。
ジェーンがロイスに、怒鳴り声を上げる。
「お前も我に従え!でなければ、こいつ等の様になるぞ!」
足元を見やる、ジェーンの傍には。
ぶつくさ呟くだけだった少女と同じく。
生気を吸われた様に真っ青な顔をした人間が3人、横たわっていた。
ケミーヤ教の残党だと、オフシグには分かった。
裏切者と思われ、処刑同様の処置をされたのだろう。
ああは成りたく無い。
何とかして、この場から逃げ出さないと。
しかし、どうすれば……。
思い詰めた様な顔をしているオフシグ。
パップも、ジェーンの餌として扱われるのは御免だった。
どさくさ紛れに、馬へ跨ったは良いが。
このままでは、動き様が無い。
何とか隙が無いか、じっとジェーンを観察する。
その時、ヘルメシアの兵士らしき者が現れた。
兵士は、王宮からの伝令らしく。
『陛下!陛下は何処に!』と叫びながら、群衆へと近付いて来る。
何も事情を知らない為、疑う事無く駆け寄るので。
思わずパップが叫ぶ。
「危険だ!こっちへ来るな!」
叫んだと同時に、パップの身体から力が抜ける。
そして、馬の背にバタッと覆い被さり。
伏せったままで、動けなくなる。
ジェーンがパップへ一言、『余計な事を喋るな』と吐き捨てる様に言うと。
兵士に声を掛ける。
「陛下は国境付近へ向かわれておる。伝言なら、私が聞こう。」
「そうですか。ではすぐに、こうお伝え下さい。」
続ける兵士の言葉を聞いて、ニタアッと笑うジェーン。
それは。
「王宮から、王女様方が行方知れずとなった模様!以上です!」




