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第294話 無知、無能、想像力の欠如

 オフシグとパップ、そしてジェーンを前にして。

 どうしてこの様になったかを、ロイスが語り出す。

 それはつまり、この時点で雌雄が決したと言う事を意味する。

 現状は最早覆らない。

 なので、真相を話すロイスの顔は生き生きとして。

 薄ら笑いを垣間見せる程だった。

 その内容は、以下に。




 シゴラ内の町〔ボーデュ〕から伸びた道。

 そしてその先に在った、本陣の設営地点。

 これ等は先の会談で約束した通り、ヤフレ家が事前にこしらえた物。

 王族反対派をおとしいれる為の舞台として。

 チンパレ家の屋敷で、ユーメントがパップ達に語った事柄。

 ヤフレ家に伝わる、Pにも載っていない道が有る。

 それを、今回の作戦で利用する。

 その説明も、《半分は》嘘。

 新しく造設した道を、それだと思い込ませ。

 罠を張る地域へと誘導し易くする。

 そう言う思惑が有った。

 それにまんまと引っ掛かったパップ達。

 隠された道、隠された敷地。

『そこなら暗殺も容易だろう』と、思い込んでしまった。

 それが疑いの目を曇らせた。

 ユーメントが殆ど自軍を連れて来なかったのも、油断の要因となった。

 皇帝の味方は、ここには殆ど居ない。

 多少強引に事を進めても、妨害する者は現れまい。

 何せ、本隊を形作る兵士や傭兵は。

 オフシグとパップの息が掛かった連中ばかり。

 最悪でも、傍観者で終わる奴等だ。

 皇帝の身を守ろうと、抵抗する事は無い。

 それ等の事実から、心に余裕が有った。

 そこからオフシグ達に、慢心が生まれる。

 何時でもれると言う事は、何時までも殺らないと同義。

 だからこそ、ユーメントに逃げる時間を与えてしまった。

 それがこのていたらく。

 暗殺は失敗し、ユーメントは何処いずこへと消えてしまった。

 では何時、どの様に。

 ユーメントは、行方をくらましたのか?




 魔法使いからの指示が来た後。

 ユーメント達は、その様に行動し始める。

 まずユーメントは、テントの外へ出て奇襲の準備を命じた後。

 ロイスと共にテントへと戻って、素早く鎧を脱ぐと。

 床に並べ、鎧を組み立てる。

 形通りに並べるだけなので、それ程時間は掛からない。

 その後、ボーデュでも使用した行商人の衣服を身に着ける。

 そして、この作戦の要。

 ユーメントは、懐から金の小人を取り出すと。

 兜の目の部分を開き、そこから小人をポイッと投げ入れる。

 シュルルッ!

 カシッ!

 鎧が綺麗にはまる音がする。

 再び、兜の目の部分を開くユーメント。

 そこには、金色ののっぺりとした面が広がっている。

 兜にスズメの魔物が飛び乗ると。

 金色の面がパカッと開く。

 その中へ魔物が入り込むと。

 ピシュッと穴が塞がる。

 そしてムクッと、鎧が立ち上がる。

 ユーメントは、鎧がきちんと自分の分身の様に振る舞うかを確認した後。

 ロイスに後を託し、こっそりとテントを抜け出す。

 そして、指定された方向へと突き進む。

 金の小人が作戦の重要な位置を占めているのは。

 その万能さ故。

 鎧の中へ入った金の小人は、ユーメントの気を感じ取り。

 その姿へと形を変える。

 ジェーンが鎧を切り裂いた後、中から裸の形で姿を見せたのは。

 感じ取ったのがユーメントの気のみで、衣服は無視された為。

 それだけで十分だと判断されたのだろう。

 金の人形へと変化した小人は、中が空洞。

 スズメの魔物が入るスペースを確保すると共に、重量を軽くし。

 馬の負担を軽減する。

 ロイス達が逃走する時の保険として残す目的で、体力を温存させる。

 事実、オフシグ達の乗る馬は相当疲弊していた。

 これなら逃げ出しても追い付けない。

 こうして巧みな仕掛けを保有した、ユーメントの影武者が出来上がった。




 ここからの話は、明言するとクライスへ対し不利益となる為。

 ロイスは説明をぼかす。

『上手い事、敵地へと逃げた』とだけ告げる。

 パップ達にとっては、それで十分衝撃的だったが。

 詳しい事情は、以下に。




 奇襲を掛けようと、帝国軍が動き出した時。

 ユーメントは、或る地点へと到達していた。


「お待ちしておりました。ヘルメシア帝国皇帝、シルベスタ3世陛下。」


 そこでは、3人の錬金術師が到着を待ち受けていた。

 そしてユーメントを伴い、錬金術師達が案内する。

 到達した、或る地点とは。

 ズバリ、【秘密の道】。

 先に述べた、『ヤフレ家に伝わる秘密の道が有る』と言う内容。

 これは嘘。

 しかしヤフレ家とは何ら関係の無い、本当に隠された道が存在する。

 だから嘘は『半分』と記したのだ。

 実はこれまでに、その道は登場している。

 何処で?

 思い返して頂きたい。

 クライス達が、ツァッハとウォベリに挟まれた領域〔コーレイ〕を進んでいた時。

 物資の確保に付いて記述した事を。

 ヘルメシアの西側にそびえる山脈。

 それに沿った、〔エッジス〕から伸びる道。

 一般人はおろか、Pからも隠されている。

 限られた者しか知らない通路。

 これにより、途中の町や村を物資が通過出来なくなっても。

 エッジスへ直接届ける事が出来る。

 勿論、途中に在る地域にも。

 近い場所で荷を下ろし、鬱蒼とした森を徒歩で抜ける事により。

 物資供給が可能。

 そしてその道は南方へと伸び、国境を越え。

 グスターキュ側へと入り込んだ後、クライスとアンの故郷〔ケミスタ〕まで到達している。

 ケミスタに付いては、【外伝 その1】を読んで頂くとして。

 国境の垣根を超える程、テューアは重要な施設だと言う事。

 何か有れば、敵味方の区別無く錬金術師が駆け付ける。

 緊急時の素早い移動を実現する為に、色々な工夫が施されている。

 道には2本の金属のレールが敷かれ、その上に。

 片側2輪ずつ丸い車輪が付いた、荷車が乗っている。

 荷車の前後には風車が取り付けられ、その回転軸には賢者の石がめられている。

 錬金術師が賢者の石を通して魔力を送り、羽を回転させ。

 その風力で、レールの上を推進する仕組み。

 それが平行に2本のレーンとして、整備されている。

 途中、荷車同士が対面状態で出くわしても。

 一方が開いてるレーンへ移動して、すれ違う事が出来る様に。

 レーンは単線では無く、複線となっている。

 ポイントの切り替えは自動では無く、レールを錬金術で繋いだり戻したりして手動形式。

 実際の所、自動にすると暴走する可能性が有る為。

 手動の方が便利なのだ。

 錬金術師達はその辺りを、『改良の余地有り』と考えている様だが。

 とにかく、こうして静かに素早く移動出来る手段。

 錬金術師がそれを保有している事を世に広められれば、碌でも無い事へ利用されかねない。

 だから世間から隠し、《秘密の道》としているのだ。

 それを敢えてユーメントに利用させたのには、理由が2つ。

 1つは、ユーメントがヅオウ軍より前に国境を越え。

 敵側から現れる事によって、戦意を削ぐ作戦。

 それを実現するには、秘密の道を利用するのが一番。

 そう宗主家が判断したからである。

 そしてもう1つは、ユーメントが置かれている【特殊な事情】の為。

 今は、それを記す時では無い。

 後に、その辺りにも触れる事が有るだろう。




 話を聞き終わり、愕然とするオフシグとパップ。

 何もかも、皇帝の思い通りではないか!

 そこまでして、俺達を潰したいのか!

 怒りと嘆きが入り混じった、慟哭にも似た声を上げる2人。

『当然』と言った感じで、ロイスが告げる。


「実際あなた方は、陛下を殺そうとしたではありませんか。それで敵視されないとでも?」


「く、くそっ……!」


 もっともな事を言われ、ぐうの音も出ないオフシグ。

 パップはロイスに尋ねる。

 諦めた口調で。


「お前がこうして話していると言う事は、我が軍は……。」


「もう降伏しているでしょうね。」


 遠くに輝く閃光弾を見つめながら、ロイスは言う。

 肩を落とすパップ。

 しかしすぐに考えを切り替える。

 ヅオウ軍は敵の手に落ちた。

 次に狙われるのは、ここに居る自分達だ。

 それに真っ先に気付いていたのは、傭兵達。

『わあーーーっ!』と叫びながら、我先にと逃げ出そうとする。

 その目の前に立ち塞がる影。

 それは。




「お前等も、我が糧となるのだ!」




 ジェーン。

 その右手には、あのぶつくさ言っていた少女が。

 顔をむんずと掴まれ、何かを呟いている。

 耳を澄ます兵士達。

 聞こえて来た言葉は。


「溜めた!溜めた!一杯!溜めた!」


 それを聞いてギクリとする、ホオタリとスズメの魔物。

 そして、ケミーヤ教の残党3人。

『溜めろ』から『溜めた』へ、呟きが変化。

 それは即ち、『溜めた魔力を開放する時が来た』と言う宣言。

 不味いっ!

 ケミーヤ教の関係者は、『一体何が起こるのか』と身構える。

 対して正直、オフシグとパップはあなどっていた。

 元々はセメリトが、切り札として手元に置いていた者。

 それをオフシグへと渡したのだ。

『力を行使するのは我々だ』と考えるのが普通。

 こちらに不利な事は、起こる筈が無い。

 思い込みと言うのは、簡単には修正出来ない。

 その差が、その後を左右する事となる。

 パアアッと、少女の身体が輝いたかと思うと。

 虹色の粒子が少女を包む。

 そしてそれは一斉に、ジェーンの身体へと流れ込んで行く。

 抜け殻となったらしい少女は、ポイッと地面へ投げ捨てられ。

 なよっと、その場へ倒れ込む。

 と同時に、ジェーンの皮膚がブニョブニョ動いたかと思うと。

 ピカッ!

 一瞬ジェーンの身体から、眩い光が放たれる。

 目を伏せる、その場の一同。

 光の中から、明らかに若返った姿のジェーンが現れ。

 周りへ向かって叫ぶ。




「お前等の気も吸い取ってくれる!そして我が力となれ!皇帝抹殺の為のな!フハハハハ!」

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