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第292話 常識の向こう側

「逆賊だと!」

「な、何を言い出すんだ!」


『逆賊』の汚名を着せられたヅオウ軍に、『その通りだ』と言い渡した者。

 それは、分隊を指揮していた《ハヤヒ》。

 ここへ向かう直前、真実を兵士達へ打ち明けていた。

 この作戦は元々、王族反対派の一掃を目的とし。

 敵対している筈のグスターキュ側と手を組み、実行されている事を。

 初めは驚愕し、信じなかった兵士達も。

 後から追い付いた兵士に、同じ話を聞かされ。

 信じざるを得なかった。

 追い付いた兵士も、ティスとモーリアから聞かされたと言う。

 それが、我等に与えられた本当の役目だと。

 12貴族である彼等は、はっきりと言った。

 反逆者を捕らえよ。

 それがヅオウ軍を指すとは、兵士達も薄々感じていた。




 ナラム家とチンパレ家は、その動きから。

 一般人の中でも警戒されていた。

 それ等が支配するヅオウとラミグも、当然の様に避けられる。

 気付いていなかったのは、当主達だけだろう。

 上に立つ者がアレなので、住民も苦労していた。

 自分達は当主とは違う。

 敵対する意思など無い。

 平和に接して行こう。

 そうやって、年月を掛けて融和を図っていた。

 それなのに。

 当人達は、対立を煽る真似ばかりする。

 今回、軍として招集された時も。

 乗り気では無かった。

 しかし、皇帝陛下直々に兵を率いると聞き。

 その目の前でしっかりと働き、見直して貰おう。

 少なくとも、陛下に刃向う考えは有りません。

 そうアピールすれば、きっと好転する。

 そう信じたから、嫌々ながらもここまで来たのに。

 逆賊呼ばわり。

 酷い、酷過ぎる。

 これまでの道のりを全否定された気がした。

 それでも懸命に、取り囲む分隊へ『逆賊では無い』と諭すが。

 弓兵へ命令していた少女と共に、ヅオウ軍へ近付いて来る者。

 その姿を見て、完全に戦意を喪失するヅオウ軍。

 ナラム家に心の底から忠誠を誓っている者など、1人も居なかったので。

 あっさりと投降するのだった。




「取り敢えず、成功したわね。」


「お疲れ様、〔アン〕。あなた抜きでは無理だったわ。」


「〔セレナ〕こそ。そんな隠し玉が有ったなんて。」


 お互いの健闘をたたえ合う、アンとセレナ。

 2人に対し、弓兵達を指揮していた〔ラヴィ〕が手を振っている。

 彼女達無しには、こんなに上手く行く筈が無かった。

 ヅオウ軍を参らせた、その原理とは?




 ラヴィ達は、ワインデューと向かい合うグスターキュ側の領地〔ネシル〕へ入り。

 その中心都市〔キーヌ〕へと向かった。

 無事に到着すると早速、ここを治める〔ナキド卿〕の屋敷を訪れる。

 ラヴィの父親である国王〔アウラル2世〕から、事前に連絡を受けていたので。

 すぐに中へ通され、作戦会議を開く。

 そこで話し合われた内容は。

 どれ程の戦力が必要か。

 どんな策を講じるべきか。

 そして何よりも、どうやって《彼》を迎え入れるか。

 3つ目の問題は、何とかなるとして。

 まずは戦術から。

 決まっているのは、前もって用意された《グスターキュ帝国軍兵士が着用している防具》を。

 ワインデューへと流す事。

 それに身を包んだワインデュー軍が、わざと国境付近より手前で姿を見せる事によって。

 国境までの距離感を惑わせ、〔接近するヅオウ軍〕や〔想定外の兵士達〕を牽制する。

 アンは、王族反対派の考える事に思考を巡らせ。

『自分なら、途中で傭兵を軍の中へ組み入れる』と考えた。

 戦力の補強だけでは無く。

 予想も付かない動きをする連中を紛れ込ませる事で、ヘルメシア帝国軍内を掻き乱す。

 統制が取れなくなった隙を付いて、皇帝を暗殺する。

 不確定要素を敢えて含む、その大胆さを敵は持ち合わせている。

 そこまで読み切っていた。

 〔想定外の兵士達〕とは、正にそれを指す。

 だからこちらも、《想定外》を取り入れる必要がある。




 それについて、セレナが提案。

 折角こちらに、凄い力を持った錬金術師が居るのだ。

 それを最大限生かす。

 その為に、まず国境付近の木を切り倒す。

 本当は、大規模な自然破壊などしたく無いのだが。

 木を切った後は、敢えてそのまま切り株を残し。

 アンが錬金術で木を偽装する。

 根っこは木で、幹と枝と葉っぱは金属。

 そうやっておけば。

 相手は『変わった事は見当たらない』と、仕掛けに気付かず接近して来る。

 偽装地帯へ差し掛かった所で、術を解けば。

 相手は丸裸。

 隠れる場所も無い。

 問題は、そこまでどうやって引き付けるか。

 普通の森と区別が付かないのに、ホイホイとやって来てくれるだろうか?

 話し合った結果、その部分がどうしても解決しなくて。

 セレナの案は、一旦却下。

 しかしすぐにセレナは、改良案を示す。

 引き入れられないなら、逆にそれを見せつけるまで。

 森として残っている箇所に弓兵を潜ませ、自分とアンは切り株地帯で待ち伏せる。

 少女2人しか居なかったら、向こうは『舐められている』と逆上するだろう。

 見境無く突進して来る筈。

 そこへ森から突如現れた弓兵が、相手に向けて矢を射る。

 勿論、矢で刺し殺す事は厳禁。

 ただ、鈍器にするだけ。

 痛みを感じれば、及び腰になる。

 人間とは、そう言う習性を持っている者。

 反射的に、命を奪う事柄から逃れようとする。

 矢を鈍器に変える当ては有った。

 それは、《錬金術師》。

 弓兵には予め、矢を少なめに持たせる。

 遠くから見ても、『矢が尽きた』と向こうが認識し易い様に。

 用意していた矢を打ち終わった後は。

 錬金術師が矢の代わりをその場で錬成し、弓兵に向こう目がけて放たさせる。

 見た目は何でも良い、最悪ただの棒でも。

 とにかく、準備不足と威力不足を演出し。

 相手に油断を生じさせる。

 向こうに矢が届く頃合いで、術を発動。

 矢じりか矢そのものを変形させ、相手へとぶつける。

 心の緩みから、痛みは相当な物になる。

 変形させた矢は、兵士達の足元に転がると。

 更に、足枷へと変形する。

 これに足を取られた兵士達は、身動きが取れなくなる。

 それ等により、戦意を失い掛けた所で。

 援軍と見せかけた、ヘルメシア軍分隊が到着し。

 ヅオウ軍を取り囲む。

 何故味方まで、自分達を攻撃しようとするのか?

 相手は混乱するだろう。

 そこまで来て、ようやく《彼》の出番。

 ヅオウ軍の心を完全に折る、駄目押しとして。




 戦術は粗方固まった。

 次は、それを完遂する為の戦力。

 まずは、相手を圧倒する数の弓兵。

 横に等間隔で並ばせる予定なので、1,000人は少なくとも欲しい。

 そして、森を切り開く人員。

 短期間で、広い森を丸裸にする必要がある。

 更に、矢の代わりを作り出す為の錬金術師達。

 これは、弓兵の3分の1から4分の1程度で十分だろう。

 最後に、要となる人物達。

 弓兵を指揮するのは、王女であるラヴィが適任。

 そして囮と矢の変形を担当する、アンとセレナ。

 肉眼では認識出来ない程の細さで、上空の広範囲に銀の網を張る。

 そしてそこを通過する時、アンが術で矢じりをいじくる。

 飛んで来た矢が急に加速したのも、アンの仕業だった。

 速度を錯覚させ、相手が防御態勢に入るのをワンテンポ遅らせる。

 心理的ダメージを増大させる為の、アンの秘策。

 それには、魔力を常に補充する必要が有ったのだが。

 セレナによって、それが解決。

 妖精達から預かった棒、〔チャーミー〕。

 武器や防具へと変形出来る他に、特徴が有った。

【魔力の吸収と放出】。

 かつてセメリトが、賢者の石を通してやらかした技。

 チャーミーに認められたセレナは、同様の事が出来たのだ。




 キーヌまで辿り着く道のりで。

 狩猟用の罠が無いか確かめる為に、前方の地面をブスブス指している時に。

 元気な姿の草が少ししんなりし、水分不足でへなっとなっていた草が逆にシャキッとなると言う。

 奇妙な光景に気付いた。

 その動きを不思議に思い、セレナはアンに相談。

 試しにアンはそこら辺の意思を拾い上げ、魔力を注入すると。

 キラキラと輝き出す。

 右手で握ったままセレナの方へ差し出し、『思い切り突いてみて』と指示。

『アンがそう言うなら』と、セレナは全力でチャーミーを石に突き立てる。

 カシーン!

 鋭い音が森中に響き渡り、すぐ後に軽い衝撃波が周りを襲う。

 目を伏せていたラヴィが、そっと目を開けると。

 アンが握っていた石に、ピシッとひびが入る。

 魔力で強度を高めていたので、粉々にならずその程度で済んだ。

 対してチャーミーは。

 突いた先端部分が、虹色に輝いている。

 魔力が入り込んだ証拠。

 開放する様、セレナが念じると。

 虹色の粒子を振り撒きながら、元の茶色へと戻った。

 アン達は確信する。

 これは、とんでもない物だと。

 試しにアンとラヴィが、同じ事をしてみるが。

 再現出来ない。

 セレナがやると、再現性が裏付けられた。

 と言う事は、これはセレナしか使えない技だ。

『認められている様ね』とアンが言う。

 その言葉に。

 チャーミーを見つめながら、嬉しそうにするセレナだった。




 こんな事が有ったので、戦術の組み立ての幅が広がっていた。

 矢を空中で球へと変化させ、投石の如く相手へぶつける事も。

 打ち上げた閃光弾の輝きを、ずっと維持する事も。

 チャーミーが有ったからこそ出来た芸当。

 これで、相手への精神攻撃も兼ね備える戦術が出来上がった。

 そしてとどめが……。




 取り囲まれたヅオウ軍へ近付いて来る、ラヴィと。

 その左隣を進む、若い男。

 身なりは何と行商人。

 しかも、その顔は……。

 ヅオウ軍の中の、誰かが叫ぶ。


「陛下!陛下が何故そちらに!」


 その言葉が発せられた後すぐに。

 行商人に対して、かしづくハヤヒ。

 同様にかしづく、帝国軍分隊。

 そう、これまでの説明の中で《彼》と呼称していた。

 ラヴィの隣に居る、行商人の正体は。

 ジェーンにぶった切られた筈の、【ユーメント本人】だった。

 だからヅオウ軍は、無抵抗に降伏したのだ。

 では、そこに至る裏側とは……。

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