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第285話 正気

「う、うーん……。」


「お!気が付いたぞ!」


 ボーンズが叫ぶ。

 4人の王女達が、早く正気に返る様。

 ヘリックとボーンズは、彼女達の頬をペシペシと叩いて回っていた。

 ゆさゆさ体を揺する訳にも行かず。

 かと言ってそのままじっと待てば、何時になったら目覚めるか分からない。

 早く事を収め。

 報酬をがっぽりと貰う為に、さっさと撤収したい。

 こんな開けた場所にずっと居るのは、性に合わない。

 盗賊家業が長過ぎたせいか、心が落ち着かない。

 だからようやく目覚める兆しを見せた事で、リゼの手下2人は小躍り。


「本当ですかっ!」


 ボーンズ達を押し退け。

 荷車の上で寝かされている王女達へ。

 覆い被さる様に、シーレが顔を覗かせる。

 少ししかめっ面になった後、次々と目を開ける王女達。


「あ、あれっ?母様?」


「【アリス】!良かった……。」


 ギュッと抱き締めるシーレ。

 一番先に目覚めたのは。

 シーレの実の娘、アリスだった。

 何の事か分からず、困惑するアリス。

 涙を零しながら。

 アリスの身体を抱く腕に、より力が入るシーレ。

 その光景を他所に。

 残り3人の王女達も気が付き、ゆっくりと体を起こす。

 悪い夢から覚めた様な顔付き。

 どうやら彼女達は、一連の出来事をおぼろげに記憶しているらしい。

 安心感を求める様に、3人の王女はシーレの背中へと抱き付く。

 嫌がる素振りを見せず、寧ろ喜んで受け入れるシーレ。

 3人に向けて、声を掛ける。


「【ソウジェ】。【ミーニャ】。【テリス】。もう大丈夫だからね。」


 背中越しに、3人の抱いている強い恐怖心が伝わって来る。

 そこから、シーレの心に。

 王女達の連れ出される光景が、ありありと思い浮かぶ。




 15才の長女、ソウジェ。

 一番上で、しっかり者。

 13才の次女、ミーニャ。

 真ん中なので、いつも立ち位置を気にしているちゃっかり者。

 11才の末っ子、テリス。

 やっと親離れをし出す年頃。

 そして、12才のアリス。

 皆年が近いので、仲睦まじくいつも一緒に遊んでいた。

 それを少し離れた所から眺める、ルビィとシーレ。

 それが王宮の麓に在る別荘で見られた、普通の風景。

 それが突然、終わりを迎えた。

 急にルビィが、険しい顔付きになったかと思うと。

 娘達を、別荘から無理やり連れ出そうとした。

 訳も聞かされず、強引なやり口に。

 娘達は反発。

 今まで母親を特に嫌ってはいなかったが、こんな事は初めてだったので驚いたのだ。

 3人で固まって、中庭の真ん中で座り込み。

 頑として動かない。

 そこへ。

 大きな物音がしたので、『何か有ったのかな』と心配して。

 中庭を覗きに来るアリス。

 その後ろに素早く回り込み、アリスの目を左手で覆うルビィ。

 すると急に体の力がフッと抜けて、アリスが倒れ込む。

『母様!アリスに何をしたの!』と、大声を張り上げるソウジェ。

 明らかに母親の様子がおかしい。

『怖いよー!』と泣き出すテリス。

 泣き出しそうなのを我慢しながら、キッと母親を睨み付けるミーニャ。

 しかし次々と視界を左手で覆われては、その場へ倒れ込む娘達。

『止めて!』と叫んだソウジェも。

 フッと力が抜けた後、体の自由が奪われてしまった。

『ガリッ』と、ゴツい指輪の当たる感触を肌で味わいながら。




 シーレが異変を感じ取ったのは。

『ワルスの使い』とやらが、ルビィの元へ訪れたのを知った時。

 娘が危ない!

 慌ててルビィの住む別荘へと乗り込む。

 そこには、虚ろな目をしながらボーッと立っている王女達が。

 様子を確かめようと、近付こうとするシーレ。

 それを遮る様に、ルビィが割って入り。

 シーレに対してニヤッと笑った後。

 猛ダッシュで、外へ向かって走り出す。

 この時既に、言う事を聞く様暗示が掛けられていたらしい。

 王女達は、ルビィに続いて駆け出して行く。

 遂にこの時が来てしまった!

 心の中で呟くシーレ。

 かつてルビィと2人、王族を中から切り崩す為に。

 ケミーヤ教の中から選ばれ、先に側室となっていた者の力を借りて。

 先代の皇帝に輿入れした。

 それぞれ子供を儲けてからは、元の目的を忘れ子育てに没頭。

 その中で。

 普通の家庭を築く事、その幸せを噛み締めながら。

 腫れ物が落ちたかの様に、顔付きが柔らかくなる。

 こうしてシーレは、改心して行った。

 守るべき者が出来、それを通してケミーヤ教の危なさに気付く。

 だから、ワルスから命が下されても従わないつもりだった。

 ルビィも、自分と同じだと思っていた。

 しかしそれは、シーレさえも欺く為の芝居。

 ルビィは、ワルスに対する忠誠心を失ってはいなかった。

 本音では、『何故こんな事をしなければならないのか』と憤っていた事だろう。

 ケミーヤ教の幹部の家系でも、一番のこの私が。

 潜入工作などと。

 下っ端の役割だろうが!

 そんな感じに。

 ワルスから『お前にしか出来ない、シーレは囮で本命はお前だ』と直接聞かされなかったら。

 決して、引き受けはしなかった。

 プライドが、それを許さない。

 現在のケミーヤ教幹部、その血筋は。

 プライドが高過ぎて、それを必死に守ろうとする者。

 あっさりプライドを捨ててケミーヤ教を見限り、平穏を求めて努力する者。

 両極端だった。

 前者は、セメリトやルビィ。

 後者は、フサエンの母親〔エスク〕やシーレ。

 シーレは娘を、やっと獲得した平和な生活を取り戻す為。

 単独でルビィを追い駆けた。

 対するルビィも。

 急なワルスからの命に、旅の準備をする暇が無く。

 唐突に子連れの旅へと出た為、着の身着のままで逃亡生活へ。

 身体の自由が奪われた王女達は。

 客観的にそれ等の光景を見ていた。

 そして何も出来ない事へ、深い悲しみを覚えていた。

 旅が長引くにつれ、その気持ちも段々と失われて行く。

 考える事さえも、ルビィは許さなくなっていた。

 それ程、執拗なシーレの追撃に焦っていたのだろう。

 だから荷車に乗り、砂漠から変化した森を抜け。

 〔ステイム〕で1泊した頃から、気が緩んでいた。

 老婆姿のリゼを拾う前、ブラウニーへ状況を少し打ち明ける気になったのは。

 油断していたから。

『もう誰にも邪魔はされまい』と、決めつけていたから。

 結局、それが仇となった訳だが。

 セメリトと言い、ルビィと言い。

 自尊心の高い者ほど、もろくも崩れ去る。

 一旦歯車が狂い出すと、修正がかない。

 身を滅ぼす所まで行き着き、漸く止まる。

 本人にその自覚は無く、そして意思も無い。

 無抵抗に、無残に。

 その醜態を晒すのみとなる。

 面子を保とうとして、逆に面子を潰してしまう。

 それを先に知っていれば、暴走は止められただろうか?




 ルビィの娘達3人は、母親の無残な最期を看取る事は無かった。

『機会を失った』と言う残念な気持ちは、彼女等には無く。

 ただ、もしも生まれ変わる事が有るなら。

 もっと良い人間になって欲しい。

 そう願うだけ。

 シーレとアリスの姿を見て。

 いつの間にかシーレの背中から離れていた3人は、羨ましく思う。

 もう自分達には、味わえない光景。

 考えただけでも悲しくなるが。

 そんな切ない気持ちを感じ取ったのか、3人を抱きかかえるシーレ。

 そして、優しく言う。


「あなた達も、私の大切な子供達よ。何時でも、何時までも。」


 涙を目に浮かべながら、シーレの胸に顔をうずめる3人。

 暫くの間、3人に母親を貸し。

 微笑ましく見つめる、アリスだった。

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