第280話 設営
ウイムから延びる西への街道を、帝国軍分隊が進む。
スコンティからワインデューへと移動し、半日程進んだ場所で。
三叉路へと行き着く。
と言っても。
そのまま西へ進み、ワインデューの中心都市〔ジューレ〕へ到達する街道は。
獣道の様に細いままで、大軍が歩むには不向き。
『どうせ通らないから広げなくて良い』と判断したのか。
それとも、『軍隊が侵入し易い様道を整備すると、逆にワインデューが危なくなる』と考えたのか。
ともかく、こう言う現状なので。
実質、交差点とは言えなかった。
進軍するには、そこからやや南西よりに方向を変えるしか無く。
一帯を支配するヤフレ家の思惑通りなのか、無駄に町へ軍を入れる事は避けられた。
新しく切り開かれた様な、真新しい道を進む分隊。
ところが、或る地点まで進むと。
いきなり道が途切れていた。
周りの木々を切り倒そうとして、途中で放棄された感じ。
切り株が除かれないまま、あちこちに残されている。
先頭を進んでいたハヤヒは、この状況を怪しみ。
ティスとモーリアに、先方の索敵を進言。
了承されると。
奥に何か不審な物が有るか、3人の兵士に調査させる。
その間、軍は物音を控える。
奇襲する前に、敵側へ軍の存在がバレる事を恐れたのだ。
傭兵達はそこまで考える頭が無く、空気が読めない可能性が有ったので。
『戦が始まれば先陣を譲るから』と、行列の後方へと回していた。
予想通り奴等は、止まった途端に騒ぎ始めたが。
先頭からはかなり離れているので、それ程危険な事には繋がらないだろう。
胸を撫で下ろすハヤヒ。
一方。
そんな事はお構い無しに、馬車の中で『退屈だー』と騒いでいるジェーン。
外まで響かない為、ティスは放置している。
黙る様文句を言うと、逆にもっと騒ぎ立てる。
そんな気がしたので、敢えて。
行軍の中で、どんどんジェーンの化けの皮が剥がれている様な気がする。
ティスとモーリアも、ハヤヒと同様に。
ジェーンに対して警戒心を抱き始める。
そもそも、あんな格好で帯同しているのがおかしいのだ。
しかもこれから、周りが戦闘状態へと突入するかも知れないのに。
緊張感と言うか、怯えたり焦ったりする様子が全く見えない。
まるで1人だけ目的地が違い、迎賓館へ向かっているかの様だ。
目を離さない方が良いだろう。
2人はこっそりと話し合い。
部下を4人、ジェーンの監視に付けた。
行軍が止まって、1時間程経過。
調査へ向かっていた兵士達が戻って来た。
皆、興奮が収まり切れていない様子。
或る程度、状況を察するハヤヒ。
その前にかしづき、兵士達が報告を行う。
兵士の内1人が、ハヤヒに向け発言する。
「申し上げます!どうやら、国境付近まで近付き過ぎた模様!」
「やはりか。して、その根拠は?」
「はい!敵軍の鎧を身に着けた兵士が3人1組で、警戒に当たっているのを確認!」
「それは真か?」
「間違いありません!目に付いただけでも、4組は発見致しました!」
別の兵士が発言する。
どうやら軍が置かれている状況は、想像以上だった様だ。
ワインデュー側も、熱心に道を造る余り。
国境まで寄ってしまった為、慌てて逃げ帰ったのだろう。
ハヤヒは兵士達を下がらせ、自らティスとモーリアへ報告する。
悩む2人だが、決断は早急に下された。
後方へ指示し、元来た道を戻り始める。
意図せずして行列の先頭になった傭兵達は、『弱腰だ』とブーイングの嵐。
しかし、『戦が頓挫したら、報酬は無いぞ』と直々にハヤヒから言われ。
渋々従う。
結局、1日掛けて三叉路から進んで来た道を。
再び1日掛けて戻る事となった。
道が途切れていた場所には幸いにも、木々を切り倒す道具が残されていたので。
それを回収し、持ち去った。
そして三叉路に、拠点を設ける事とし。
道具を使って、辺りの木々を切り倒して行く。
『競争だ!』と叫びながら、力を持て余している傭兵達が真っ先に取り組む。
『これも余興よ』と。
退屈でしょうが無かったジェーンが、『伐採をした木の数だけ報酬を積む』と約束したのだ。
張り切る傭兵達。
その様子を見た兵士達は、テントを張るなどの準備を。
傭兵達によって、短時間で辺り一帯が更地となる。
そこへ兵士達が、テントなどを設営して行く。
拠点が出来るのも、時間の問題。
それは帝国軍本隊が本拠地を築く頃と、丁度重なっていた。
こうして帝国軍は。
本隊と分隊双方が、拠点を築いた。
後は、仕掛ける機会を探るだけ。
なのだが。
調査に出た分隊の兵士達は、まんまと騙されていた。
道が途中で終わっていたのも。
警備兵らしき者達がうろついていたのも。
全ては作戦の範囲内。
国境の警備らしき振る舞いをしていたのは、グスターキュ側から運び込まれた鎧等を着た《ワインデュー軍》。
分隊に、『国境へ迫り過ぎた』と思い込ませる為。
途中で道造りを放棄したのも。
この地点が国境の傍だと言う風に錯覚させて、軍を下がらせる為。
ハヤヒも、そこまでは知らされていなかった。
ユーメントがそう判断したのでは無い。
寧ろ、『3騎士には詳細を伝えるべき』と主張していた。
しかしクライスは聞き入れなかった。
何故か?
ワルスの正体が、未だに分からなかったからだ。
皇帝自ら、大規模行動を起こす。
それはワルスにとって、願っても無いチャンス。
必ず自分の手で、暗殺を成し遂げようとする。
だから何らかの形で身分を偽装し、軍に紛れる事は。
容易に想像が付く。
そうクライスから説明され、3騎士に対して『済まない』と思いながらも。
作戦の概要を決定した。
ワルスは、3騎士の傍で観察しているかも知れない。
こちらの愚かさを嘲笑いながら。
しかし、ワルスは気付いていない。
自分が高笑いをしている時、クライスもまた高笑いをしている事を。
帝国軍が配置に付いた頃。
ルビィ達を乗せた、ブラウニー率いる荷車は。
〔ナイジン〕を通り、〔金属製の橋〕を渡って。
〔キョウセン〕の町へと行き着いていた。
ルビィ達は、ノーレンが途中でシーレを拾った事など知る由も無い。
それでも、シーレが迫って来ている気配を感じない事に。
安堵の表情を浮かべる。
そしていよいよ、〔アイリスの本拠地がある森〕へと突入するのだった。




