第28話 エミルの特別任務
シウェからヨーセを経由して、モッテジンに向かう一行。
この《一行》と言う言葉に違和感を感じる人が居たなら、それは正解。
何故なら、シウェを立つ時に別行動を取った者が居るからだ。
そう、妖精エミルである。
エミルは、ラヴィの疑問を解消する為に。
一足早くセントリアに向かっていた。
ラヴィは思っていた。
侵略の情報を得てからかなりの時間が経つのに、陥落したとの知らせはまだ無い。
セントリアの首都【テュオ】は検問を兼ねて国境沿いに作られた町なので、戦争も想定して堅固な造りになっている。
籠城戦に持ち込んだのも、その方が援軍の到着を待つまで耐え凌ぐ事が出来るからだ。
でも実際はラヴィがその報を知って驚いた様に、中央まで情報が来ていない。
つまり、援軍は来ないと同然なのだ。
孤軍奮闘する味方、苦戦する敵。
想像は出来るが、戦況は殆ど動かない。
これが疑問なのだ。
セントリアは中央への伝令を送らず、敢えて膠着状態を作り出し。
時間稼ぎをしている様にしか思えないのだ。
しかもそれは、敵の思惑に乗っかっているからだと推測出来る。
セントリアも実は、敵と通じているのか?
それとも別の理由があるのか?
気になって仕方無いので。
クライスと相談して、最も適任であるエミルが情報集めに走る事となった。
姿が見えないエミルなら、敵陣に潜り込んでもスルーされるだけで支障は無い。
もう1つ、エミルに頼んだのには《セントリアが抱える事情》も有った。
それは何か?
クライスは、それこそが疑問を解く鍵だと見ていた。
「うちだけの特別任務だー。頑張るぞー。」
エミルは張り切っていた。
それは勿論。
クライスに、《お前にしか出来ない、人間には無理な事だから》と特別扱いされたから。
妖精の女王である母が認める、特別な人間のクライスにだ。
テンションが上がりまくり。
なので、いつもはあっちにフラフラこっちにフラフラと脱線状態になるのが。
一目散にテュオを目指していた。
果たして、このテンションは何時まで持つだろうか?
「まだ着かないなあ。」
『結構飛んでる筈なのになあ』と思うエミル。
シウェはセントリア寄りの町なので、すぐに着くと思っていた。
寄っているだけで、実際は結構距離が有るのだが。
幾つか小さな村を通過したので、道のりには或る程度のアクセントはあった。
それでもそろそろ飽きて来る頃合い。
その時、境界を示す立札を見つける。
「やったあ!」
また元気を取り戻すエミル。
ここからは、情勢がこれまでと異なる。
のどかで平和な雰囲気が、何時崩れるとも限らない。
それでも楽しみなエミルだった。
セントリアに入っても、のどかな空気は変わらない。
戦争が起こってるなんて嘘みたい。
『テュオから遠いからなのかな』とエミルは思っていた。
普通に暮らす人達。
のんびりくつろぐ犬や猫。
争いから縁遠い風景が広がっていた。
流石に『おかしい』と感じ始めたエミル。
『何か有るんじゃないか』と勘繰り始めた矢先。
『敵軍が駐屯している』と思われる村が見えてきた。
入り口には、仰々しく掲げられたヘルメシア帝国の国旗。
村の中に入ると、酒盛りで騒いでいる兵士達。
給仕の為に慌ただしく動き回る村人達。
しかし、無理やり働かされていると言う雰囲気では無い。
戦闘状態とは思えない和みっ振り。
このままではらちが明かないので、偉そうな人間の後を付いて行く事にした。
付き纏って更に偉そうな人間へと乗り換えて行けば、何時かは軍の大将に辿り着ける。
エミルなりにそう考えた。
何人かに乗り換えた後。
大きなテントが張られている広場へ到着。
あそこかな?
ヒューーーッとテントまで飛んで行き、チラッと中を覗く。
そこには豪華な飾り付けがされた椅子と、左右に豪華な旗が置かれていた。
間違い無い、ここが本陣だ。
エミルは確信した。
今、椅子の所有者は留守の様だ。
これ幸いと、エミルは中をじっくり見て回る。
『何かヒントが有るかも知れない』と考えていた。
案の定、あちこちにそれを示すサインが。
軍の作戦会議に使っているであろう、大きなテーブルには。
セントリアの地図が有ったが、その場に放置されているだけ。
攻めの方策を練っている形跡が、まるで無い。
その他にも。
略奪した戦利品の様な物は無く、質素な雰囲気。
これが、領地を奪おうとする者の所業なのか?
妖精の森へやって来る、強欲ばった人間を数多く見て来ただけに。
不思議に思えてならなかった。
うーん、うーん。
悩んで辺りをくるくる飛び回る。
その時。
「何だ!」
テントの入り口から大声が。
慌てて振り向くエミル。
そこには、豪華な甲冑を来た若者が立っている。
年はクライスより10才程上だろうか。
その凛々しい顔は、兵士とは別格の品位を感じさせる。
どうやら大将で間違い無さそうだ。
顔は確認した。
これ以上は長居は無用。
男の脇を通り抜けて、ここから去ろうとした時。
「このっ!」
男は何と、エミルを捕まえ様としたのだ。
それは《エミルが見えている》事を意味する。
そんな筈は無い。
純真無垢な子供でも無く、クライス達の様な特別な人間にも見えない。
何故うちの位置が分かる?
エミルは一瞬混乱する。
その虚を突かれて、むんずと捕まえられてしまった。
「イタ!イタタタタタ!」
もがくエミル。
それを見て、男は慌てて手を放す。
すかさず距離を取ってジッと睨むエミル。
こいつ、怪しい!
警戒心のエミル。
すると意外な事に、男は頭を下げた。
「済まない!妖精だと思わず虫か何かと、つい……。」
「妖精!うちがはっきり見えるのかい!」
「そうだ。俺には見えるんだ。」
「え!声も聞こえるの!」
「ああ。俺だけ特別な。」
明らかに大人の男。
声まで聞こえる筈が無い。
なのに会話が成立している。
何故……?
そこに、答えをくれそうな者が現れた。
「何だい、騒がしいな……げっ、妖精!」
それはセントリアが抱える事情の大元、そこに暮らす《小人族》の男だった。




