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第277話 行商人、再び

 帝国軍の分隊がウイムを出発する、2日程前。

 本隊は、シゴラ内へ入っていた。

 しばらく進んで、〔フタギレ〕の村へ着いた所で。

 シゴラを治めるムヒス家当主のメルドは、本隊から離脱。

 中心都市である〔クジューレ〕へ戻り、兵を連れて来る手筈。

 しかしメルドが再び合流する事は無い。

 住民の安全を確認し、シゴラを守る為。

 そして作戦が本番を迎えた時、戦地から逃げて来るケミーヤ教の残党を拘束する為。

 領地内で待機。

 元々、そう言う事になっていた。

 馬にまたがったままユーメントに目で合図し、軽く会釈して。

 メルドはクジューレへと向きを変え、去って行った。

 頼んだぞ……。

 それをじっと見やりながら。

 メルドがしっかりと役目を果たす事を、心の中で希望するユーメントだった。




 そして更に1日半程掛けて、南西側へと進み。

 行き止まりの町〔ボーデュ〕へと到達。

 奥まった所に位置しているだけあって、町は狭い。

 とてもでは無いが、全軍収容は無理。

 なので、少し無理する事になるが。

 司令塔の地位を一時アギーに預け、軍を先へと進ませる。

 一方ユーメントとロイス、そしてパップとオフシグは。

 ボーデュで一夜を明かす事にした。

 こんな辺ぴな所へ尋ねて来る旅人は、早々居ないので。

 宿らしき建物は無い。

 ヘルメシアの領土の端と言う事もあってか。

 ムヒス家以外の威光も通じない様だ。

 初めにオフシグが、家を借り上げる交渉をして回ったが。

 上から目線の図々しい態度に、住民は辟易して。

 誰も承諾してくれない。

『俺を誰だと思っている!』と叫びながらも、オフシグは役目をパップに譲る。

 パップは金に物を言わせて、従わせようとするが。

 ここは殆ど自給自足で成り立っている為、金の力など効かない。

『この貧乏人共が!』とののしりながら、パップもリタイア。

 ロイスは、この様な交渉事には向いていない。

 だから初めからやる気が無かった。

 残るは、皇帝であるユーメント。

 今晩建屋の中で寝られるか、それとも野宿を強いられるのか。

 全ては、ユーメントの肩に掛かっている。

『やれやれ』と呟きながら、パップ達から距離を取り。

 町の隅で、ユーメントは着替える。

『まだ持っておいて良かった……』と、ふと思う。

 そう。

 ユーメントは、行商人の服装を未だに持ち歩いていたのだ。

 ウタレドを発つ前、アギーが王宮から持参した鎧を身に着けた。

 皇帝と言う威厳を振りかざして、行軍する必要があった為。

 しかし普通の衣服に慣れ過ぎたのか、いささか窮屈に感じていた。

 クライス達との旅が、余程心地良かったのだろう。

 記念として、何時でも着替えられる様手元に残しておいた。

 結果として、それがこんな所で役に立つとは。

 何が有るか分からないものだ。

 そんな事を言えば、メグ殿に何か言われるだろうか。

 先の事を全て知る、あのお方に。

 そう考えながら、着替え終わると。

 付き添って来たロイスに鎧を託し。

 早速、行動を開始した。




 まずは情報収集。

 大軍が通り過ぎた後なので、町中まちなかには緊張が走っているに違いない。

 警戒心も強く、皆ピリピリしているだろう。

 そんな状況の中、鎧姿で近付いても。

 真面まともに取り合ってくれない。

 今までの旅で得られた経験が、そう指し示している。

 ならば、話を聞いてくれそうな人物を探すのが先決。

 どんな人物が理想か?

 ある程度地位が高く、心に余裕のある者。

 そして、それなりの規模の建物を所有している者。

 一通り町を廻り、それに該当する人物へと行き当たる。

 それは意外にも、皇帝より人気の有りそうなモノを信奉する人間だった。




「もし!何方どなたかいらっしゃいませんか!」


 外見が白壁の建物、その中へ向かって叫ぶユーメント。

『はーい!』と言う声が聞こえ、ドアを開けて顔を出す人。

 袖と裾が長い青色のフードを纏った、若い女性。

 年は25才前後だろうか。

 背丈は大きな子供程。

 頭はショートカットで、髪は黒く見える。

 ひょこひょこ良く動く眉は、表情の豊かさを示す。

 笑顔と真顔が同居している。

 説教を住民に良くしているのか、身振り手振りで話そうとする癖が有るらしい。

 ユーメントが何かを話そうとする度、顔や身体が動き回るので。

 尋ねる切っ掛けが掴めない。

 そうこうしている内に。

 ユーメントの後ろから、ややしわがれた男性の声がする。


「こら!【トト】!その方が困っておるではないか!その癖を直さんか!」


「あっ!ご、ごめんなさい!【司祭】様!」


 そう言って、深々と頭を下げる女性。

 どちらに対して謝っているのか分からないが、とにかく反省はしているらしい。

 ユーメントの傍を通り過ぎ、女性の傍まで歩むと。

 振り返り頭を下げる、声の主。

 顔を上げたその顔は、やや年を取っている様に感じた。

 女性とは対照的に、毛と言う毛がことごとく白い。

 青いローブを身に着けているのは共通しているが。

 男性がユーメントへ声を掛ける。


「何か御用ですかな?」


 やっと話を聞いてくれそうな人間に出会えた。

 ここは何としても……。

 そう考え、ユーメントが話す。


「実は、或る偉い方から依頼されまして。『今夜の宿を見つけて来い』と。」


「ほうほう、それは難儀ですな。」


「はい、ホトホト困り果てておりまして。」


「この町には宿など有りませんからのう。ここへ来る物好きなど居りませんから、商売になりませんのじゃ。」


「そ、そうなんですか……。」


 残念そうにうつむくユーメント。

 勿論わざと。

 同情を引く為と。

 こんな奴にどう対応するかで、人物像を見極める為。

 ユーメントを可愛そうに思ったのか、女性が話し掛ける。


「その偉い方とは、どの様な方で?」


「はい、それが12貴族の方々でして。従者として断り切れないのです。」


「まあ!お気の毒に……。」


 同情する様にそう呟くと。

 女性は男性の顔を見る。

 そして、男性と話し出す。


「司祭様。こんなに困ってらっしゃるのです、お助け差し上げたいのですが。」


「そうよのう……。12貴族と言うのが気になるが、困っている人を放っては置けまい。」


 女性の言葉を受けて、男性はユーメントへ尋ねる。


「総勢、何名ですかな?」


「わ、私を含めて4名です!」


 まるで暗い中、一筋の光が差し込んだ様に。

 希望に満ちた顔付きで、ユーメントは答える。

 さあ、どう出る?

 ここで仕掛けた。

 向こうの態度如何によっては、野宿決定。

 ドキドキしているユーメント。

 それが反って、演技を本物に見せた。

 少し考えて、コクンと頷いた後。

 男性は答える。




「それ程の人数なら、部屋も足りましょう。宜しいですよ。私達が御泊め致しましょう。」




「……ありがとうございます!」


 嬉しそうな顔をして、頭を下げるユーメント。

『お顔をお上げ下さい』と述べる男性。

 そこで1つ、条件を出して来た。

 それは。


「帝国軍とやらが通過したせいで、町が少し荒れておりまして。事情を御存じならば、お聞かせ願いたい。」


「それはごもっとも。12貴族の方々がいらっしゃったのも、帝国軍絡みなのです。お聞かせしましょう。」


「そうですか。ならば中でお話を。」


 そう言って、男性は建物の中へ招く。

 入るその前に、ユーメントは自己紹介をする。

 当然、偽名で。


「私は〔テノ〕と申します。宜しくお願いします。」


 それを受け、男性と女性も自己紹介を。


「挨拶がまだでしたな、失敬。私はここの司祭を務めております、【キュレンジ】と言う者です。」


「司祭様の補佐役で、【トテューレ】です。〔トト〕で構いませんよ。その方が慣れてますから。」


「これ!また余計な事を言うんじゃない!」


「す、済みませーん!」


 キュレンジに怒られて、頭を抱えるトト。

 その表情に、愛くるしさを感じたユーメント。

 ここでは再び〔テノ〕として振る舞う。

 キュレンジとトトに続いて、テノも建物へと入るのだった。




 キュレンジは《司祭》だと言う。

 では、彼等が崇めている《モノ》は?

 それを聞いてテノは、運命を感じる事になるのだが……。

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