第276話 ルビィとシーレ、それぞれの1泊
ダイツェンの北部に位置する〔ステイム〕に到着した、ブラウニー達。
1週間以上野宿を繰り返したので、この町で宿を取る。
久し振りに風呂浴びをするルビィ達。
その間にブラウニーは、子供服の調達へと動く。
ボロボロになった上、極度に汚れてしまい。
そのままでは不潔さにより、病気を招くかも知れない。
これからの旅の妨げになろう、そう考慮に入れての行動。
大人の服は。
道中すれ違う商人との物々交換で、替えを手に入れる事が出来た。
その際にルビィが差し出した装飾品。
かなり高価な物と見られ、複数着譲り受ける事に成功。
大事そうに持っていたが、今は非常時。
背に腹は代えられない。
その時に、子供の服も欲しかったのだが。
『需要が少ない』と、商人の売り物には入って無かった。
なので、ステイムの町で停泊する時に揃える事とした。
風呂上がりでさっぱりしていると思いきや。
小難しい顔付きのルビィ。
その心中は、穏やかでは無かったのだろう。
次の町へ到達するまで、結構な日数を要した。
追い駆けて来るシーレは、差を詰めているに違いない。
そう苦々しく思いながら。
これまで着ていたドレス風の服を、ビリビリと引き裂き。
愛着がこれっぽっちも無い風に、ポイッとあっさり捨てるのだった。
時は前後して。
ノーレンとシーレを乗せた馬は、曽て砂漠だった森の中を駆け抜けていた。
ひたすら南進。
シーレが目撃した話によると。
先行しているルビィ達は、荷車に乗って進んでいるらしい。
そこからノーレンは推測する。
荷車と言う事は、行商人の持ち物である可能性が高い。
商人は疑り深い人種。
急に緑化された砂漠地帯を、すんなりと通り抜けようとはしない筈。
必ず遠回りルートを進む。
ならばこちらは直進して、ショートカットを狙おう。
何故そう簡単に決断出来たのか?
理由は簡単。
その辺の事情も、アイリスは王宮へ知らせていたのだ。
王族に有利な情報を流し続け、大きな貸しを作る為。
すんなりとオアシスへ到達出来、アイリスの情報の正確さが実証されたので。
ノーレンの中で、アイリスの株が上がって行く。
それはアイリスにとって、思い通りの展開だった。
馬を休ませる必要が出て、オアシスで1泊する事にしたノーレン達。
町は急速に姿を変え、エリアも拡大し。
名前も、【ワイラード】と命名されている。
何でも、緑化に貢献した魔物が由来とか。
魔物は『この町には本当の名が有る』と主張したが、住民の同意は得られなかった。
未来を見据える彼等にとって、それは過去でしか無く。
目の前で起こった奇跡が全てだった。
だから『元の名で呼ぶ』などと言う考えは、初めから選択肢に無い。
この町の救世主とも言える魔物の功績を、後世まで讃える為。
どうしても魔物の名を絡めたかったのだ。
熱心な住民の言い様に、魔物も根負け。
『せめて、もじってくれ』とリクエストを出し、それが通った結果。
町の名が決まるまでの流れを、宿の主人は得意気にノーレン達へ語る。
主人の子供も、魔物と仲良くさせて貰っているらしい。
その自慢を兼ねて、訪れる旅人みんなに聞かせている様だ。
話し方がこなれている。
今までどれだけの人数に聞かせていたのだろう。
そう考えるノーレン。
カウンターの前に在る広間、そこに置かれた椅子に座らされ。
主人の熱心な話はまだまだ続く。
ふと窓の方を見やるシーレ。
何と無く目に入ったモノ、そのせいで。
『ビリッ!』と、背筋に緊張が走る。
額を冷や汗が伝う。
明らかに動揺しているシーレ。
一体、窓の外に何を見たのか?
ノーレンは、熱心に話し込む主人の眼差しから目を背けられなくて。
その様子に気付かない。
数十秒の後。
シーレがバタッと、前のめりに倒れ込む。
顔は青ざめ、少し体も震えている。
『だ、大丈夫ですか!』と、慌てて主人が駆け寄る。
自分の長話のせいだと思ったのか、すぐに水を取りに行く。
ノーレンが抱き起し、シーレに大声で問い掛ける。
「しっかり!気を確かに持って!」
するとシーレが、こんな事を呟く。
「ごめんなさい……許して……下さい……。」
「どうしたんです!誰に謝っているのです!」
何度も問い掛けるが、それ以上の反応は無し。
『これを!』と主人が、水入りのコップを持って戻って来る。
それを渡されると、ノーレンはゆっくりとシーレに水を飲ませる。
コクコク、コクコク。
緊張の余り乾いていた喉元が、潤ったお陰で。
多少、気も落ち着いて来た様だ。
ホッとするノーレン。
『申し訳ございませんでした!』とすぐに、主人が部屋へと案内する。
ノーレンに負ぶられて、シーレは1階にある一室へと入り。
ベッドに寝かされる。
主人が下がると、改めてノーレンが尋ねる。
「急に倒れられて、どうなさったのです?」
「申し訳ございません。窓の外に、見かけたものですから……。」
「何をです?」
ノーレンの問い掛けに。
唇を噛み締めながら、シーレは声を絞り出す様に答える。
「少年です。赤い目をした……。」
「少年?それが何故あなたを、こんなに怯えさせるのです?」
「外見は、です。本当の姿は《白蛇の魔物》でしょう。」
「魔物?先程の主人の話に出て来た者ですか?」
「でしょうね。ここに居るのは、それしか心当たりが無いですから。」
「尚更不思議ですな。あなたと何か関係が?」
ノーレンの言葉に、目を伏せるシーレ。
そして、ゆっくりとした口調で答える。
「あの魔物に対して、我が一族が背負う【罪】。それが源流です。」
「うーん……。」
良く分からないノーレン。
彼には、そこまで深い話をしていなかった。
ただ、ルビィが何をやろうとしているかを伝えただけなので。
ノーレンの頭の中には、モヤがかかった状態。
『一族』と言う単語が出て来たので。
そこまで立ち入って聞くのも、無粋に感じた。
これ以上追及はしまい。
知りたい気持ちは有るが、それが今後の妨げになる様では困るからな。
そう考えたノーレンは。
『今夜はゆっくりとお休み下さい』とだけ告げて、自分の部屋へと向かった。
そして一夜が過ぎた。
宿に1泊して。
ステイムを出るブラウニー達。
ワイラードを離れるノーレン達。
両者の差がどれ程縮まっているか。
これからはっきりする事となろう。




