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第275話 唐突な馬鹿騒ぎ

 十字路を西へ折れ。

 帝国軍分隊は街道を進んで行く。

 途中で2泊し、3日目でようやく〔ウイム〕へと到着。

 予定より1日遅く到達した訳は。

 途中で加入した傭兵達のせい。

 夜になる度、酒盛りをし出す。

 今日は、もうこれ以上進まねえぞ。

 そう主張する様に。

 ハヤヒが『何とか行軍させたい』と説得しようとするが、まるで聞く耳を持たない。

 こいつ等には、騎士としての威厳も通じないのか。

 何と下衆な。

 そう侮蔑ぶべつの気持ちを抱えながら、仕方無く。

 傭兵達の直接の雇用主であるジェーンに、説得して貰おうとする。

 しかしジェーンは、『放って置きなさい』と突き放す。

 無理に言う事を聞かせようとすると、ここで暴れ出すわよ?

 ジェーンはそう言いたいらしい。

 こうしてハヤヒの目論見は見事に潰され、余計な時間を掛ける事となったのだ。




 傭兵達の騒ぎ様に、兵士達の士気が下がっている。

 これは不味い。

 そう考えたティスとモーリアは、早速コンセンス家屋敷を訪れる。

 ジェーンはさっさと宿屋へ直行。

 ハヤヒは傭兵達の動向を監視しながら、兵の取りまとめに努める。

 屋敷では。

 当主の〔フサエン〕では無く、前当主の〔エルベス〕が出迎える。

 何でもフサエンは、幼馴染と共に両親の墓参りへと出かけているらしい。

『こちらへ』と、給仕長の〔ストース〕に屋敷内を案内され。

 客間へと通される。

 そこでは既に、エルベスが待っていた。

 設置されているソファに対面形式で座る、エルベスと2人。

 案内が終わり、ストースが下がって。

 部屋の中は3人だけとなる。

『当主不在で申し訳無い』と、まずエルベスが謝罪の弁を述べる。

 その代わり、兵士達を《もてなす》準備は出来ている。

 そう告げるエルベス。

 もてなす?

 意味が分からない2人。

 更に話を続けるエルベス。


「兵の士気が下がっているのであろう?その景気付けに、料理や酒を振る舞おうと言うのだよ。」


「ど、どうして士気の事を?」


 驚くティス。

 傍に寄る様、2人に促すエルベス。

 何事か?

 他人に聞かれたくない事でも?

 顔を近付ける2人。

 ひそひそ話し出すエルベス。


『これは、魔法使いからの指示なのだよ。』


『この事態を事前に把握していたと?』


 思わず聞き返すモーリア。

 答えるエルベス。


『その通りだ。そして、その先の事も。』


『何と!』


 つい声を張り上げてしまうモーリア。

 自分達は、未来に関する事など知らされていない。

 でもコンセンス家は、一部ではあるが伝えられている様だ。

 その差に、疑問と屈辱の念を抱くティス。

 何故魔法使いは、12貴族内で格付けする様な行為に及ぶのか!

 明らかに不満そうな顔をしていたらしい。

 エルベスにたしなめられる。


『お主等と儂等とでは、負うている役割が違うのだ。理解されよ。』


『そうかも知れませんが……。』


 まだ納得が行かないティス。

 誇り高き12貴族として、『はいそうですか』と素直には従えない。

 しかし、次の様にエルベスが呟き。

 2人は漸く、心奥深くへと飲み込む。




『お主等が羨ましいよ。儂は黙って、ここで見ているしか無いのだから。』




 そうだ。

 エルベス殿も、陛下の元へ馳せ参じたい筈。

 それを魔法使いから与えられた役割の為、敢えて自重している。

 悔しく無い訳が無い。

 こうやって行軍出来る自分達は、幸せな方なのだ。

 ティスがエルベスに告げる。


『エルベス殿のその思い、陛下へしかとお伝えしましょう。』


『宜しく頼む。』


 そう言って、エルベスとティスはかたい握手を交わす。

 上から自分の手を重ねるモーリア。

 3人はこうして、自分の役割を全うする事を固く誓い合った。




 会談の後。

 客間から、窓を通じて外を眺めるティス。

 町中まちなかではもう、お祭り騒ぎが始まっているらしい。

 兵士達の歓声が聞こえる。

 ハヤヒには、ストースが詳細を伝えに行った。

 ジェーンは宿屋に陣取っているらしく、町へ繰り出している様子は無い。

 ティスとモーリアは。

 エルベスの好意に甘えて、屋敷へ泊まる事となった。

 何せ道中泊が続いていたのだ。

 馬で移動しているとは言え、心的疲労も蓄積していた。

 建物の中でゆっくり出来るのは、とても有り難い事。

 ここで英気を養おう。

 そう考え、久し振りのベッドでの眠りに就く2人。

 外は、夜通し大騒ぎだった。

 これまでの旅で溜まった鬱憤を、一気に晴らすかの様に。




 翌日。

 兵士達は、日が高く昇るまで眠りっ放しだった。

 道端で寝転がっている者、建物に寄り掛かっている者。

 その恰好は様々。

 当然、傭兵達も。

 兵士達は各自ゆっくりと起き出し、旅立つ準備を始める。

 その中に、進んで兵士達と馬鹿騒ぎをしたハヤヒの姿も有った。

 位の高い自分が率先してはしゃがなければ、兵士達も中々羽目を外せないだろう。

 そう考えての事。

 お陰で兵士達の士気は戻った様だ。

 皆顔に赤みが戻り、目もキラキラしている。

 それを確認しながら、町を歩くハヤヒ。

 住民は家の中から既に出ていて、清掃活動に明け暮れている。

『手伝おうか』と声を掛けるも。

『大丈夫です』と返される。

 住民も分かっているのだろう。

 これから軍が直面する現実を。

 出来るだけ気苦労を残さない様に、晴れた気持ちで旅立って貰いたい。

 そう願っての事。

 住民の心遣いに感謝しながら、町を廻るハヤヒだった。




 こちらは、ぐっすりと眠れた訳では無さそうだ。

 不機嫌なまま、ジェーンが馬車へと乗り込む。

 外が騒がしかったからなのか、それとも別の理由が有るのか。

 とにかく、八つ当たりだけは止めて欲しい。

 ジェーンと共に動くダイツェン軍兵士は、そう考える。

 馬車の周りに、傭兵達も集まって来る。

 雇い主を守る様に。

 その実は、金を払わず逃亡するのを阻止する為。

 ジェーンの身を守る事は、自分の利益を守る事と同じ。

 傭兵にとってジェーンは、それ位の存在に過ぎなかった。




 準備が整い。

 ウイムから延びる、道幅の広げられた街道に沿って。

 西へと動き始める帝国軍分隊。

 その先に待ち受けている光景は、どの様な物か。

 兵士達は想像も出来ないまま、ひたすらに進むのだった。

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