第272話 追いつ追われつ
帝国軍分隊が橋を渡って〔キョウセン〕の町を通過し。
〔アイリス〕の支配地域へと差し掛かる頃。
分隊を追う様に進む者達が。
ブラウニーが操る荷車に隠れた、ルビィと王女達。
それを追い駆ける女。
更に、アイリスを目指すノーレン。
三者三様、それぞれが南を目指す。
「あれっ?この辺りって、こんなんだったかなあ……?」
シルバを離れ、砂漠からの道と遠回りルートが交わる箇所で。
悩むブラウニー。
来る時は遠回りルートでやって来たが、その時点では南方に砂漠が見えた。
しかし帰りの今回は、それが確認出来無い。
砂漠の途中に設けてある、オアシス。
そこへ通じていた石橋が、地面にめり込んだ形。
周りは見事なまでに、緑の森が広がり。
全く違う場所へ来た様だ。
砂漠の在った方から来る旅人に、話を聞くと。
皆口を揃えて、『少し前、急に森が出来上がった』と言う。
一体何が?
荷車がずっと止まっているので、怪しんだルビィが荷車から顔を出し。
ブラウニーへ尋ねる。
「どうされたのです?」
「いやあ、向こうに砂漠が広がっていた筈なんだけど。景色が変わっちゃったみたいでさあ。」
「それは好都合ではありませんか。早く進みましょう。」
「簡単に言うなよ。何でそう言う事になったか分からないんじゃあ、進み様が無いよ。」
「しかし……!」
せっつくルビィを、ブラウニーが諫める。
「焦るのは分かるけどさあ。ここは遠回りルートを選ぼう。何か途中に、危険なモノが潜んでいるかも知れないからね。」
ブラウニーが、遠回りルートへ通じる西側を見ると。
続々と行商人がやって来る。
対して、砂漠の有った方からは。
同業者は全く来ない。
『何か変わった事が有ってはいけない』と、警戒しての事だろう。
当然と言えば当然。
リスクはなるべく避ける、それが商人。
『何ならここで降りても良いけど?』とブラウニーに言われ。
渋々従うルビィ。
『良し、決まり!』と、ブラウニーは馬を西側へ向け。
荷車を走らせ始めた。
その頃、馬を駆るノーレンは。
シルバ内の町〔ルーゼ〕を抜け、〔シッティ〕へと通ずる街道に入った。
そこを少し進むと、街道沿いに植えられている木へと寄りかかる女の姿が。
何処かで見た事が……。
目の前で馬を止め、降りて女に近付くノーレン。
その姿をはっきりと捉えたと同時に、思わず叫んでしまう。
「あなたは!【シーレ】様ではありませんか!」
そう、王女達を追い駆けて走り続け。
この場所で力尽き、動けなくなっていた女。
ルビィが連れていた、実子では無い1人の王女の実の母。
それがシーレだった。
驚くと共に、すぐに水を飲ませるノーレン。
喉がカラカラだったのだろう、水をがぶ飲みし。
『ふう』と一息付くと、立ち上がってまた進もうとする。
それを強制的に止め、ノーレンはシーレを木陰に座らせる。
「いけません!まだ十分に体力が回復しておりませんぞ!」
「でも、早く追い付かないと……大変な事に……!」
「分かりましたから!取り敢えず、事情をお聞かせ願いませんか!」
ノーレンが必死になって止めるので、観念したのだろう。
シーレが『他言無用ですよ?』と念を押し。
内訳を話す。
「そ、そんな……。」
「ですから、早く追い付かねばならないのです。」
シーレの話を聞き、事の重大さを思い知らされるノーレン。
ノーレンがポツリと漏らす。
「その話が本当であれば、尚更協力を仰がねば……。」
「誰にです?」
ノーレンの眉を顰める表情に、不思議そうに尋ねるシーレ。
答えるノーレン。
「或る諜報機関です。あ奴等なら、助けとなりましょう。」
「信用に足るのですか?その組織は。」
「確かです。現に今、まことしやかに《ある噂》が語られているでしょう?」
「『陛下がお怒りになって、敵国を攻める』と言う、あれですか?」
「左様にございます。その噂を流したのが、その者達なのです。」
「あの噂は、何らかの意図があると?」
「はい。あの噂は、陛下のお考えに沿った物。つまり今から向かう先は、陛下の協力者なのですよ。」
敢えて打ち明けるノーレン。
こちらも、『他言無用』と予め念を押して。
何と無く納得したシーレ。
どうやら利害が一致している様だ。
そう判断し、ノーレンに願い出る。
「私を一緒に連れて行って貰えませんか?」
「宜しいので?」
「ええ。その方が近道と考えました。どの道、南を目指すのでしょう?」
ノーレンの指し示す組織に、心当たりが有る。
だからシーレはそう告げた。
『承知致しました、それでは』と右手を差し出すノーレン。
それを掴み、起き上がるシーレ。
2人は馬に跨り、一路南へと駆け始める。
その後。
ブラウニー達は遠回りルートを進み。
ダイツェンへの玄関口に当たる〔ステイム〕へ達するまで、1週間以上を要する事に。
一方、ノーレンとシーレを乗せた馬は。
シッティを駆け抜け、砂漠だった森をそのまま南進。
リスクを承知で、オアシスだった町へと向かう。
両者は異なるルートを選び。
結果、どれ位かは分からないが。
差が詰まる事に。
この事が未来に、どう作用するのか?
今の時点では、誰にも分からなかった。




