第268話 念願、成就
ケミーヤ教の本拠地は壊滅し、セメリトも倒れた。
クライスとロッシェは、役割を果たした。
クライスは、次の戦場へと向かう。
その前に、ロッシェの後日談でも少し語ろうか。
ロッシェはロバータを右肩に乗っけて、一路ヘンドリへと向かう。
そして到着すると、何やら物々しい雰囲気。
何でも、街道から戻って来た傭兵達がベイスの屋敷へと乗り込み。
留守を預かっていた妻を人質に取って、デンドへと向かったらしい。
ヅオウの重要人物と考えられたのだろう。
ベイスを通し、ナラム家から報酬をせしめる算段。
何と浅はかな考え。
それを聞いて、ロッシェとロバータは激高。
ふざけるな!
やっと安住の地を見つけたと言うのに!
自らの利益の為に人の人生を踏みにじる奴は、絶対に許さん!
1人と1体は、急遽デンドへと向かった。
デンドまでの道のりの中。
行先方向から逃げて来る人々。
皆、戦々恐々の顔付き。
傭兵達は、かなり派手に暴れているらしい。
要注意だ。
デンドに近付くにつれ、慎重になる心。
その度合いに反比例して、進み具合が遅くなる。
到着する頃には、忍び足となっていた。
町の入り口で、中をそっと覗き。
注意深く観察する。
すると、町の或る箇所が異様に賑やか。
あれが騒動の中心だな!
ロッシェとロバータは顔を見合わせ、コクンと頷く。
そしてゆっくりと、人集りが有るであろう方向へと歩き出した。
そこでは何やら、小競り合いが起きている。
家の陰からジッと見つめるロッシェ達。
傭兵らしき奴等と対峙しているのは、白装束を着た者達。
どうやらケミーヤ教の残党が、ナラム家屋敷を守っているらしい。
無理にでも入ろうとする傭兵達を、門の前で食い止めていると言った構図。
白装束達にとって、ナラム家は最後の砦。
セメリトは変なブヨブヨに襲われて、消えてしまった。
孤立状態なので、早く援軍が来るのを待っていた。
対して傭兵達は、ルーシェらしき女性を抱え込んだまま。
更にナラム家の家族を人質に取り、身の安全を図ろうと考えた。
やってしまったからには、もう止められない。
12貴族に逆らったも同然だからだ。
ヅオウ軍の大半は、ナラム家当主パップと共に。
残りも殆どはまだ、ベイスと共に街道の修復を。
つまり今、ヅオウ内の戦力はほぼゼロなのだ。
それを分かっているからこそ、傭兵達は賭けに出た。
上手く行けば、ヅオウを乗っ取れるかも知れない。
何故その様な、愚かな考えに至ったのか?
その元凶は、セメリトの生み出したブヨブヨ。
あれを見て、『今は何が起こるか分からない』と考えた。
それで、勘違いしてしまったのだ。
俺達も今なら、何か凄い事が起こせるかも知れない。
そんな、斜め上の方向へ。
気が動転していた中での、脳筋による思考なので。
変な発想へと辿り着いた。
それ故の蛮行。
ただ1つ言えるのは。
白装束達も傭兵達も、切羽詰まっていて。
お互いに、『ここからは一歩も引けない』と言う心理状態へ。
置かれていたと言う事。
だからそこに待つ結末は、悲劇しか無い。
このままであれば、と言う前提だが。
しかし今は、ロッシェとロバータが居る。
彼等は果敢に立ち向かった。
まずロッシェが、傭兵達へと槍先を向ける。
その形相は、迫力満点。
立ち塞がる奴は、全員敵だ!
そう訴えるかの様に睨み付ける。
一方、ロバータは。
ロッシェの肩から降り、地面を走って。
スルスルと人混みを抜け、白装束の側へ回る。
或る者の身体を駆け上がり、頭頂へ到達後。
上方へジャンプすると。
白装束達の魔力を吸い取り、巨大化。
体長は見る見る内に伸び上がり、5メートル程となる。
『ブワアッ!』といきなり姿を見せたので、傭兵達は混乱。
その隙にロッシェは、人混みへと突入。
掻き分け入って女性の姿を見つけると、ガシッと左腕でその身体を抱える。
そしてゴミゴミした中から外へ抜けると、傭兵達に向かって一喝。
「人質は返して貰った!もうお前等は終わりだ!」
ロッシェの叫びに呼応する様に、膨れ上がったロバータが。
グワアアアォォォォォッ!
人混みの方へ叫びながら、傭兵達と白装束達の間へと落下。
咄嗟に後ろへ飛び退く、傭兵達。
怪物にギョロリと睨み付けられ、踏ん張りが利かず全身の力も抜ける。
「今だ!取り押さえろ!」
ロッシェが町中へ向かって叫ぶ。
物陰から見ていた町の住民が、一斉に飛び掛かる。
あっと言う間に傭兵達は押さえられ、縄でグルグル巻きにされた。
一方白装束達は、ロバータに魔力の大部分を吸い取られ。
こちらもダウン。
全員お縄についた。
これで取り敢えず、デンドでの騒乱は落ち着いた。
ストンと女性を、地面に下ろすロッシェ。
『ふう』と一息付いて、その後すぐに。
「ロッシェ!ロッシェなの!」
「やっぱり!姉さんか!」
お互いにそう声を掛け合い、抱き締め合う2人。
情報通り、ベイスの妻は《ロッシェの姉本人》だった。
ルーシェは可憐な乙女となり。
ロッシェは精悍な騎士となった。
お互いの変わり様に、笑いながらも。
その健在さに、喜び合う。
吸い取った魔力を開放して、元の姿に戻ったロバータも駆け付ける。
「リリィ!生きてたの!」
ロバータの姿を見つけ、歓喜するルーシェ。
クライスの言葉通り、ルーシェはロバータの事を覚えていた。
こちらのルーシェの記憶では。
セメリトに連れて行かれるのを嫌い、何処かへ逃亡した事になっていた。
『自分は見捨てられたのか』と、その時は思ったが。
『何処かで無事に居てくれていたら、それで良い』と思い直し。
その後を過ごしていたらしい。
だから姿を見た途端に、涙が溢れて来る。
良かった……。
安堵すると同時に、『自分だけ幸せになっても良いのか』と言う後ろめたい気持ちが消え。
『もう離れないで!』と、思わす叫んでしまう。
それに対しロバータは、静かに頷くと。
こう言った。
「実はルーシェに1つ、嘘を付いていたんだ。」
「えっ?」
びっくりするルーシェ。
『何だろう?』と不安になるが。
続きを聞いて、にっこり笑う。
「俺の名前は、本当は〔ロバータ〕ってんだ。〔リリィ〕じゃ無いんだ。ごめんよ、訂正する機会が無かったんだ。」
「良いよ……気にしなくて……。私にとっては、《あなたが傍に居る事》が一番大事なんだから……。」
ルーシェの目に再び、涙が溢れる。
そしてロバータを抱えると、暫く頬擦りし続けるのだった。
事態を聞いて、漸くデンドへ駆け付けるベイス。
ロッシェと仲睦まじいルーシェの姿を見て、悟る。
ああ、ここにも家族は居たのだな。
あの時逃がして、本当に良かった。
他の少女達も、無事で居ると良いが……。
そう思いを馳せ、ベイスもロッシェ達の輪に加わった。
こうして、ロッシェの姉探しの旅は終わった。
何日かベイス邸で、近況を語り合った後。
ロッシェはヘンドリを後にする。
それは、これから最終決戦へ望むであろう仲間の為。
俺は願いを叶えた。
次は、みんなの願いを叶える番。
出来るだけの事をしよう。
それが、俺に与えられた役目だから。
『見届け語り継いで行く』と言う、魔法使いが指し示した役目。
全うさせて貰おう。
その時にはクライス、お前の抱えている秘密も……。
立ち去るロッシェのその後ろ姿に、頼もしく思いながらも。
早くロッシェにも、平穏が訪れます様に。
そう願う、ルーシェとロバータだった。




