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第264話 チンパレ家の孤独

 怪物と化したセメリトが消滅する前後。

 チンパレ家の屋敷では、てんやわんやの大騒ぎ。

 屋敷より少し離れた所に建っている蔵。

 その中に。

 ナラム家屋敷の蔵に設置された物と、同じ形式の転移装置が有る。

 普段は、屋敷の召使いさえも寄り付かない。

 なのに、急に蔵の中から虹色の光が溢れ出すと。

 何かプルプルした物が、蔵の天井を突き破り。

 ギュルルルルッ!

 ヅオウへ向かって伸びて行く。

 鈍く黒光りするそれは、しばらく虹の様なアーチを描いた後。

 シュルルルッ!

 勢い良く縮み出す。

 それは速度の制御が出来ないのか。

 ギュルンッ!

 加速しながら、一気に蔵へと叩き付けられる。

 バグォンッ!

 破裂音の様な、破壊音の様な。

 入り混じった音を周囲に立てながら、蔵は完全に崩壊。

 当然、中に有った転移装置もぶっ壊れ。

 そして辺りには。

 ブヨンブヨンと揺れ動く、不気味な金属が撒き散らされた。




 その全てを、屋敷の2階に在る書斎の窓から。

 呆気に取られて見ていた、チンパレ家当主〔オフシグ〕。

 手元に置いている、セメリトの寄越した《奴》が。

 急にそわそわし始めたので。

 セメリトが何かを転移させて来るのか?

 そう考え、窓から観察していたのだ。

 しかし、その予想はくつがえされ。

 反対に、蔵から飛び出て行く物体。

 少し後で逆戻りして来たかと思うと、蔵を完全破壊。

 セメリトは何をしたかったんだ?

 その意図を探ろうと、奴に尋ねるが。

 ここへ連れて来る前から『溜めろ、溜めろ』としか呟かない。

 他に居るのは、弱り切った転送用の魔物。

 茶色い小鳥の姿をしたそれは、部屋の隅でじっとしている。

 さながらその様子は、お腹を空かせたスズメと言った所か。

 ……こいつに聞いても分かるまい。

 オフシグは一旦、真相の追及を諦めた。




 それから数時間後。

 日が傾こうとしている、その時。

 気持ち悪さと、得体の知れなさから。

 放置されていた、ブヨブヨが。

 一斉に弾け消えた。

 辺りに、虹色の粒子を振り撒きながら。

 書斎の椅子で、うとうとし掛けていたオフシグは。

『ギイヤアアアァァァァ!』と言う、奴の奇声で飛び起きる。


「な、何だ!何だ!」


 書斎の中を見回しても、変わった風には見られない。

 くそう、驚かせやがって……!

 安心すると、机の脚を蹴り飛ばす。




 元来から、怒りっぽい性格のオフシグ。

 ちょっとでも気に食わない事が有ると、辺りに怒鳴り散らす。

 なので、召使いからさえも避けられる存在。

 それは両親を亡くし、一人っ子であるオフシグが当主となってから。

 更に増長。

 いつの間にか、孤独の中に身を置いていた。

 しかしそれは、邪魔者も近くに居ないと言う事。

 そう割り切り、オフシグは独りの生活を満喫していた。

 そんな生活を急に破り去ったのが、セメリト。

 両親が健在な頃から、屋敷には出入りしていた。

 派遣業務を計画していたのも知っている。

 自分はそれを受け継いだだけ。

 屋敷から指示するだけで良い。

 そう言われていたので、呑気に構えていた。

 それが突然、『拠点をあちこちに設けるから、自ら飛び回れ』と言われた。

『面倒臭い』と返答すると。

『これを使え』と、セメリトからスズメの魔物を渡され。

 蔵へと連れて行かれる。

 自分のあずかり知らぬ中設置されていた、転移装置。

 今でも覚えている。

『習うより慣れろだ』と、初めて無理やり転送された時の事を。

 あの時は、転送先で頭がグラグラ状態となり。

 1日中寝込むと言う失態を演じた。

 あんな事はもうこりごりだ。

 何回か転送を繰り返す内、『自らそれを望めば酔いも少ない』と分かった。

 コツさえ分かれば。

 意外と、派遣業の営業活動は面白かった。

 こちらが12貴族と知った途端に平伏する。

 そんな連中を見下す事へ、一種の快感を覚えていた。

 だから熱心に活動し。

 結果、勢力範囲も拡大させた。

 それはヘルメシア外にも及び、着々と帝国乗っ取りが進む。

 かに見えた。

 そう、つい最近の評議会で。

 とうとう、裏の計画がバレた。

 王族の暗殺が未遂に終わり、こちらへの嫌疑も増大した。

 そして次々と良くない事態が。

 極め付けは、白いカラスがもたらした手紙。

 魔法使いが皇帝側へ付き、最早反対派は孤立。

 その上、軍の招集も掛かった。

 恭順のポーズだけでも取って置かないと、この機会に制圧されてしまう。

 でもまだオフシグは、諦めていない。

 それはこちらに居る、奴。

 セメリトが貸し出した、こいつさえ居れば。

 後は従順な振りをして、暗殺の機会をうかがおう。

 そう考えていた。




 その奴が、変な声を張り上げたので。

 さっきみたいな、異常な事が起こる!

 そう思ってオフシグは、咄嗟とっさに身構えたのだ。

 しかし、奇声を発したのは一度きり。

 拍子抜けし、再び椅子へ座り直す。

 そこへ、そろーっとドアを開ける者が。

 転移の手助けを命じられていた、白装束を纏う少年。

 名は【ホオタリ】、年は14。

 彼はヘルメシア帝国外で、セメリトにスカウトされた者。

 錬金術の才能に溢れ、純真無垢な心。

 利用する側からすれば、これ程都合の良い者は居ない。

 だから簡単な術だけをまず授けて、散々こき使った後。

 それでもケミーヤ教への忠誠心が厚ければ、幹部候補として育てるつもりだった。

 チンパレ家への奉仕は、言わば研修。

 幹部に値するか見極める為の。

 要職に就けられれば、故郷に残して来た家族を楽させる事が出来る。

 そう信じてホオタリは、今まで尽くして来た。

 しかし、痩せ細って行くスズメの魔物の姿を見て。

 自分の現状と重ねる。

 するとまるでそれが、自分の未来であるかの様に感じた。

 そこから、ケミーヤ教へ対する疑念が生まれる。

 果たして彼等は本当に、自分を仲間だと認めているのだろうか?

 ていの良い労働力としてしか、見られていないのでは?

 この魔物の様に、努力が報われる事も無く使い捨てられるのでは?

 一旦疑問が湧くと、純粋な少年の心は止まらない。

 不安が増大。

 それが顔に表れていたのだろう。

 覗かせていた顔をオフシグに見つかり、早速怒鳴られる。


「何だ!用も無いのに勝手に開けるな!」


「い、いえ!ご主人様に、重大な異変を知らせに参りました。」


「何だと!異変だぁあ!」


「う、うっ……。」


 余りの怖さに、引っ込みそうになるホオタリ。

 しかし伝えねば、余計に怒られる。

 慎重に言葉を選び、事態をオフシグへ話す。


「蔵に落ちました物体が、ただ今消滅しました。」


「き、消えただと!」


 ガタッと椅子から立ち上がるオフシグ。

 ひっ!

 思わずドアから後ずさりするホオタリ。

 オフシグはツカツカと、ドアまで歩いて来ると。

 ホオタリの顔を、右手人差し指でつつきながら。

 声を荒げて命ずる。


「案内しろ!早く!」


「は、はい!」


 2人は蔵へと急行した。




 蔵は、綺麗さっぱりと無くなっていた。

 ブヨブヨが掛かっていたのだろう、周りの木や草の中で。

 枯れている部分がある。

 魔力を吸い取られた形跡と考えられる。

 他に白装束は3人居たが、一連の事態に対する見解は一致していた。

 術の発動主であるセメリトが、何らかの理由によって《死んだ》。

 そう考える他無い。

 あ奴が倒されただと!

 信じられん!

 相当な錬金術の使い手が、皇帝側に居るとしか……。

 そこへ白装束の1人が、ひそひそとオフシグへ耳打ちする。

 何っ!

『幻の錬金術師』だぁと!

 あれはただの噂では無かったのか!

 だとすると、益々不味い……。

 グスターキュ討伐にかこつけて、奴を使って逆転を狙わねば。

 さて、どうするべきか……。

 少し考えたオフシグは。


「お前達!来いっ!」


 普段は屋敷の外で待機させる白装束達を、屋敷内へと入れる。

 そして、これから取るべき行動を探る。

 悔しいが、誅殺においてはこいつ等の方が上手うわてだ。

 恥を忍んで、知恵を借りるしか無い。

 これも生き抜く為。

 そう心に決め。

 オフシグと。

 白装束、総勢4名と。

 切り札の、奴。

 これらを1階の応接間へ集め、作戦会議を始める。

 その一方で、放置されたスズメの魔物は。

 弾け飛んだ虹の粒子を、こっそり掻き集め。

 体力の回復を図り、屋敷からの脱出を考え始めていた。

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