第263話 敵味方、その動き
う、うーん……。
え、ええと……。
確か、魔法使いから魔力が供給されて……。
俺がそれを地面に……。
……。
はっ!
ど、どうなった!
バッと飛び起きるワイリー。
そこは、誰かの家の中。
ベッドの上で横たわっていた。
しかも少年の姿で。
魔法使いがこっそり、魔力を授けてくれたのだろう。
蛇の姿のままだと、丁重に扱ってくれないと気遣って。
砂漠が緑化した事に比べたら、外見など住民にとってはどうでも良い事だが。
「「「気が付いたー!」」」
「うわっ!」
ワイリーの上に飛び乗る子供達。
『凄かったよー!』『カッコ良かったよー!』と、興奮気味に話し掛けて来る。
その顔は皆、笑顔。
つられて、ワイリーも笑顔になる。
ああ、良かった。
何百年もここに居た甲斐が有った。
でも早く迎えに来てくれよ、旦那ー。
俺、神に祭り上げられそうだよー。
困惑しながらも、オアシスの平穏を取り戻した事に貢献出来。
嬉しいワイリーだった。
その頃。
砂漠からシルバに入ってすぐの町〔シッティ〕に留まっていた、スラード家とイレイズ家の連合軍。
砂漠が緑化されるので、その時から進軍を開始する事とする。
その様に、とある騎士から指示されていた。
それと同じ内容が。
白いカラスから齎された、ユーメントからの手紙にも書いてあった。
なので、その時をジッと待っている。
すると、見張りの兵が何かを見たらしく。
伝令の兵が、司令部を置いているテントへと。
慌てて入って来る。
スラード家当主〔ティス〕と、イレイズ家当主〔モーリア〕の前で傅き。
発言を許可されると、興奮気味に話し出す。
「申し上げます!砂漠が突如、森へと変わった模様!」
「何だと!それは真か!」
報告内容に、思わず椅子から立ち上がるモーリア。
伝令が続ける。
「間違い有りません!複数の兵が、その様を目撃しております!」
「これは……!」
「まさか、本当になるとは……!」
ティスとモーリアは顔を見合わせ、テントから飛び出すと。
馬へと飛び乗り、シッティの入り口に備えていた櫓へと登る。
双眼鏡を見張りの兵から借りると、砂漠の有った方向を見やる。
確かに、砂地は見当たらず。
代わりに、緑の眩しい森林地帯が。
成就をしかと見届けた後、櫓から降り。
ティスとモーリアが相談する。
そこへ、『自分もその目で確かめたい』とやって来た者。
自分でも半信半疑だったが、そう12貴族へ伝える様申し渡されていた騎士。
ユーメントの旅に同行した3騎士の1人、【ハヤヒ・バイエム】。
旅では〔ヘス〕と言う偽名を名乗っていたが。
スルスルと櫓を登り、双眼鏡で遠くを見ると。
『おおーっ!』と歓声を上げる。
あんなに苦労して渡って行った砂漠が。
見事に変わっている。
陛下もさぞ、お喜びになる事だろう。
満足感と、これからに対する気の引き締めとが混在しながら。
櫓を降りる。
その時には、ティスとモーリアの間で結論が出ていた様だ。
ハヤヒが両者に尋ねる。
「これから、どうされますか?」
「是非も無し。このまま出立する。」
ティスがそう答える。
奇跡の様な出来事が、眼前で起こったのだ。
世界は、こちら側が制する事を望んでいる。
陛下の進まれる道が正しい、そう考えるのが当然。
ならば、その御心に従うまで。
モーリアが駐屯している連合軍へと通達する。
「これより南進する!今すぐ支度を整えよ!」
そして、こう付け足す。
「世界は、陛下と共に有り!我々も続こうぞ!」
おーーーーっ!
町中から、兵士達の歓声が上がる。
そして急に、郡内の雰囲気が忙しくなる。
さて、我々も準備をせねば。
馬に跨り、颯爽と駆けて。
司令部のテントへと戻る、12貴族の2人だった。
「どうした?あらぬ方向を見て。」
そう女に声を掛けるのは、アストレル家当主〔エルス〕。
クライス達が使者としてダイツェンを通過した後、首都の〔ナイジン〕で沈黙を守っていた。
我干渉せず、それを貫く様に。
しかし白いカラスが、皇帝からの手紙を持って来た。
グスターキュ側を攻撃するので、兵を連れ参上する様に。
そう書かれていたが。
エルスは信じなかった。
これはきっと罠だ。
兵を連れて行った所で捕らえられ、部下の目の前で処刑される。
そうに決まっている。
かと言って、出向かなければ。
反逆の意有りと判断され、追撃の兵力を差し向けられるだろう。
従っても従わなくても、手詰まり状態。
一体、どうすれば……?
完全に、疑心暗鬼に陥っていたエルス。
その尻を叩く様に、嗾ける女。
ケミーヤ教から遣わされ嫁いで来たエルスの妻、【ジェーン・ゴウ・アストレル】。
「あんたの眉間のしわが付きっ放しになってるからさ。部屋の何処かに、変な虫が居るのかと思ってね。」
「辛気臭い顔だとでも言いたいのか?まあ正解だろうな。」
エルスは、ここの所ずっと。
どう動けば自分の命が助かるかを、ひたすらに考えていた。
対して、気の強いジェーンは。
何時までも屋敷でじっとしている事に、我慢ならなかった。
ジェーンがエルスに尋ねる。
「あんた、結局どうしたい?何を望んでいるのかい?」
「『何を』って、それはまあ……。」
自分が助かる方法。
そんな事、口が裂けても言えない。
妻だとは言え、こいつはケミーヤ教の関係者。
しかも偶にフラーッと外へ出かけては、何日も帰って来ない事が度々。
怪しい挙動が多過ぎる。
だから、ジェーンとの間に子を儲けてはいない。
アストレル家をその子に継がせるとなれば、『用済みとなって消される』と考えたのだ。
そんな事はさせない。
断固、阻止する。
ジェーンからの誘惑に、敢然と立ち向かう。
その点だけはしっかりしていた。
その事も、ジェーンの苛立ちに関係しているのだろう。
『もう良い』と言った風に、ジェーンがエルスへ宣言する。
「じれったいねえ。あんたが動かないなら、あたしがアストレル家代表として陛下の御前へ向かうよ。良いね!」
「い、いや……。勝手な事をされては……。」
「い・い・ね!」
「うっ、ううっ……。」
ジェーンの迫力に気圧されて、了承せざるを得ないエルス。
黙って頷くのみ。
それを見て、気分が高揚して来ると。
早速、旅支度を始めるジェーン。
何を着るか、召使いと相談をしている。
その様子を横目で見ながらも。
もう二度と戻って来るな!
この屋敷へ、俺の領土へ!
冗談半分、本気半分で。
そう願う、エルスだった。
同じ頃。
ナラム家当主〔パップ〕の率いるヅオウ軍が、〔オフォエ〕の町で。
ムヒス家当主〔メルド〕と。
ユーメントの旅に同行していた3騎士の1人で、〔ホム〕と言う偽名を使っていた者。
【アゲイレント・カレム】と合流。
そのまま、プレズンの首都〔ペイド〕へと入っていた。
そこで休むヅオウ軍。
その合間にパップは、クメト家当主〔ムッソン〕と会見を行っていた。
パップが強く迫る。
「これを機会に、こちらへ付かぬか?」
「いや!俺は何方へも付かん!」
きっぱりと断るムッソン。
更に高圧的に、上から目線でパップが迫る。
「仮にも12貴族であろう?プライドと言う物は無いのか?」
「そのプライドに賭けて!俺は中立を保つと言っているのだ!」
「何故だ?何故そこまで保身に固執する?」
「当然!それは、俺が《12貴族だから》だ!」
この地位を、この富を。
失いたく無い。
だからここで、様子見をさせて貰う。
こちらは既に、かなりの損害を出している。
鉱床は潰され、あちこちの町が麻痺している。
その矢先の、白いカラスが持って来た手紙。
堪ったものでは無い。
厄介事をしょい込む事は、もう無理だ。
だからこその日和見。
じっとパップの目を見つめながら、ムッソンが話す。
「お主は。自分の支配地域がどうなってるか、的確に把握しているのか?」
「何を藪から棒に……。」
「恐らくだが、大局は陛下の方へ流れているぞ。本当は分かっているのではないのか?」
ムッソンの推測は当たっていた。
皇帝側へと付いた、魔法使いの存在。
そしてプレズンに入ってから聞いた、〔幻の錬金術師〕の噂。
それ等を総合すると、王族反対派が相当不利な状況に追い込まれているのは明白。
理解しているからこそパップは、物資輸送を担当しているクメト家を取り込もうとしたのだ。
しかしそれも叶わぬ様だ。
屋敷を後にする際、パップがムッソンに漏らす。
「それでも我等は屈せぬ。逆転して見せよう。それを見て、こちら側で無かった事を後悔しても遅いからな。」
「是非とも、成し遂げて貰いたいものだ。」
ムッソンに、成就を願う気持ちなど少しも無い。
お主が後悔する事になろう。
そう言う意味を込めた、皮肉を言ったまで。
パップも重々承知していた。
ここで強がり1つ吐いてもいないと、この先やってられないからだ。
薄々、もうすぐ終結すると感じているのかも知れない。
これまでの闘争が。
言葉を交わした後、パップもムッソンも。
目を合わせる事はしない。
黙ってヅオウ軍へと戻って行くパップ。
その背中を、ムッソンが見送る事は無かった。
こうして、ヘルメシア帝国内が動いて行く。
その頃、チンパレ家では。




