第258話 制圧
「くっ!人間よ、中々やるな!」
「俺の!方が!力は!上だ!」
光龍とセメリトのやり取りが続く。
しかし光龍の方が、やや劣勢となって来る。
光龍が口を大きく開け、セメリトの方を向いて何かを放とうとする。
すかさず左手のひらから光の手を伸ばし、口の中へ突き刺すセメリト。
「ゴフッ!」
思わずせき込んでしまう光龍。
その一瞬の隙を、セメリトは見逃さなかった。
一気に右手の握力を高めると。
ギリギリと胴体が潰れて行く。
「ギヤアアアァァァ!」
堪らず大声を張り上げる光龍。
胴体が真っ二つに折れようとする時。
遥か頭上から、光龍の頭へ突進して来る光の玉。
『ドスン!』と光龍の右頬に体当たりすると、方向を変え。
勢い良く地面へと突き進む。
その先には、ルーシェを背負ったまま逃げているロッシェが。
クライスが金の拡声器を生み出して、ロッシェに向かって叫ぶ。
「ロッシェ!【アクアライト】を使え!」
「え?何だって?」
良く聞き取れなかったのか、ロッシェはそう返事をして。
後ろを振り返る。
目の前には、遠くから迫り来る光の玉。
それに気を取られて、つい足が止まってしまう。
クライスが更に叫ぶ。
「『ニーデュ家から預かった指輪』だ!さっさと力を籠めろ!早くしないとぶつかるぞ!」
「あ、あわ!あわわわ!」
ロッシェはすっかり、光の玉に怯んでしまい。
頭の中から、指輪の事が抜け落ちている様だ。
その時背中から、ルーシェの右手が回って来て。
ロッシェの右腕を掴む。
そして、女性とは思えぬ力でグッと引き寄せると。
ロッシェの右手人差し指に嵌められている指輪を、ギュッと握る。
すると。
ブワアアアッ!
キラリと輝く青の宝石から、大量の水が噴き出て。
ロッシェ達の前を覆う。
それは直径20メートル程の、ドーム状の円盾と成り。
ぶち当たる光の玉の勢いを殺して、対消滅した。
辺りにかなりの大きさの振動を振り撒いた後。
目の前にポトリと落ちる、影の様な物。
恐る恐る、ロッシェが近付く。
対消滅の衝撃で、ルーシェの意識も回復する。
一連の動きをルーシェは、無意識でやっていた様だ。
緩やかに戻って行く意識の中で、地面に横たわっている者の姿を見て。
言葉を発する。
「リリィ……なの……?」
「姉さん!気が付いたのか!」
背中の方を見やって、ロッシェが声を掛ける。
まだ反応が弱々しいルーシェだが、返事はしっかりと返した。
「ごめんなさいね……まだ少し頭がボーッとして……。」
「良いさ!それより、リリィって『どっち』だい?」
「ん?」
ロッシェにそう言われ。
はっきりとして来る視界の中で、ルーシェが見つけたのは。
「あ、あれ?」
地面に横たわっていた魔物は《2体》。
1体は、体長20センチ程のワニの様な外見の者。
もう1体は、リスと言うよりビーバーに近い姿の者。
これもまた、体長は20センチ程。
毛はフサフサで、パッと見では何の生き物か判別し辛い位。
『もう大丈夫、自力で立てるから』と、ロッシェの背中から降り。
傍まで寄ってしゃがみ込み、ジロジロ見つめてルーシェが確かめる。
すると、『ううっ……』と呻きながら。
魔物達が意識を取り戻す。
2体は辺りを見回すと、ゆっくりと起き上がる。
そしてルーシェの方を向き、後ろ足2本だけで立つと。
ペコリと頭を下げる。
ビーバーの方が、お礼の言葉を発する。
「ありがとう。助かったよ。」
「……リリィ!」
前より少し声が低くなっているが、間違い無い!
リリィだ!
「あの男に破壊されたんじゃ……!」
驚きの声を上げるルーシェ。
その疑問に答えるリリィ。
「閉じ込めた奴の魔力を、許容範囲ギリギリまで吸い取って。割られる寸前で奴を開放して、上空に逃げたんだ。」
「そうだったの……。良かった……。」
「一か八かの賭けだったが、成功して何よりだ。ただ……。」
そこまで言って、セメリトの方を向くリリィ。
「あっちは大変な事に成っちまったがな。」
「す、済まねえ。負の魔力に当てられて、我を忘れちまった……。」
しょんぼりしながらそう言うのは、ワニの姿の魔物。
ツカツカと近付き、同じくしゃがんで。
ワニの魔物を指差し、尋問の様に話し掛けるロッシェ。
「お前、〔龍の王・光龍〕とか抜かしてなかったか?」
「いやあ、あれはその……。」
困った顔をする、ワニの魔物。
それを庇うリリィ。
「こいつも悪気は無かったんだ。そうだよな、【フェイレン】。」
「あ、ああ。門の方から流れて来た負の魔力を、一辺に浴びちまってさ。体がブクブク膨れ上がっちまって、自分でも制御出来無かったんだ。」
リリィに紹介され。
必死に弁解する、ワニのフェイレン。
「その結果が〔龍の王〕発言か?呆れたもんだ。」
ロッシェにそう指摘され、オロオロするフェイレン。
咄嗟に、言い訳じみた事を言う。
「いやあ、何か気が大きくなって……思わず言っちまった。へへ。」
「あんな姿に成れば、デカい口も叩きたくなるわな……。」
フェイレンに理解を示している様で、結局呆れているロッシェ。
対してルーシェは。
無事にリリィが戻って来てくれただけで満足らしい。
『虚言癖など些末な事』と、フェイレンの事など気にも留めていなかった。
ルーシェから、にこやかに微笑みかけられるが。
セメリトの方が気になり、リリィは遠くを見やると。
一言、呟く。
「これからとんでもない物が見られるぞ。覚悟した方が良い。」
その眼差しは、真剣そのもの。
浮かれていたルーシェも冷静さを取り戻し、同じ方向を見やる。
逆に目を背けるのは、フェイレン。
自分が招いた【災厄】を、見たくは無かった。
しかしロッシェに抱えられ、無理やり見させられる。
お前の責任だ、しかと見届けろ。
無言でそう訴えている。
仕方無い、これは俺の罪。
これからどうなるか、想像したくも無いが。
そうやってフェイレンは諦め。
ロッシェから降ろされた後も、セメリトの方を見つめていた。
ロッシェ達の目線の、遥か先には。
龍の姿をしていた者が、バキッと中央で真っ二つにされた後。
V字状に折れ曲がったかと思うと、また黒い煙状へと戻って行く。
そして、輝くセメリトの右手へ流れ込んで行く。
『ジュルルルルッ!』と下品な音を立てながら。
最後に『ズポッ!』と言う音を発し、黒煙は綺麗さっぱり無くなった。
セメリトが勝ち誇る。
「やった!やったぞ!ねじ伏せてやった!従わせてやった!ハハハハハ!」
これで俺はもう無敵だ!
この世界の頂点だ!
セメリトはそう確信する。
しかし、クライスのセメリトを見つめる目は。
終始、変わらなかった。
哀れみの目。
勝利を確信し喜ぶ余り、それに気付かないセメリトだった。




