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第257話 禍々(まがまが)しい者共

「術のあるじ戯言たわごとを。」


 呆れ顔で呟くセメリト。

 凄味をかせて、何を言い出すのかと思えば。

 拍子抜けもはなはだしい。

 しかし、用心に越した事は無い。

 目の前の男から、異様な雰囲気が感じ取られる。

 更に距離を置こうと、ゆっくり後ろへ下がるセメリト。

 男はロッシェに向かって叫ぶ。


「その人を連れて、森を抜けろ!早く!」


「わ、分かった!後は頼んだぞ、〔クライス〕!」


 ロッシェはそう言って、ローブを掛けられたルーシェを背負う。

 そして右手に槍を持ったまま、北へ向きを変える。


「させるか!」


 セメリトが突き出した右手のひらから。

 手の形をした光が、シュルルルとロッシェの方へ伸びて行く。

 だが男が、光に向かって手をブンッと振りかざすと。

 スパッと途中で切り取られ、光の手は霧散して行く。

 こいつ、今何をやった!

 セメリトは、切り取られた辺りを凝視する。

 すると、空気がやたら煌めいて見える。

 これは……金粉?

 何故こんなに密度が高いのだ?

 ……待てよ?

 金?

 金だと!

 確かあの騎士もどきが、〔クライス〕と呼んでいたな。

 まさかこいつが、フレンツの言っていた錬金術師だと言うのか?

 ならば、相当手強いぞ……!

 取り敢えず、様子を探るか。

 こっちには、これが有るしな。

 そう思い、セメリトはチラリと右手の球体を見やると。

 男へ向かって大声を張り上げる。


「クライスとやら!」


「何だ?」


「フレンツとやり合ったのは、お前だな!」


「何時の話だ?」


「スラッジで!あ奴にやり込められた筈だ!覚えがあるだろう!」


「ああ、あの《自滅野郎》か。」


「自滅だと?どう言う事だ!」


「そうか。お前らは知らないんだったな。」


 セメリトの心の中に、動揺が見える。

 《自滅》と言う言葉に、異様な反応を示した。

 意外な単語だったのだろう。

 誰かにやられたならまだしも。

 王族としてのプライドの塊だった奴が、自ら消し去るなんて考えられないからだ。

 クライスが答える。




「あいつは己のわきまえず、巨大な力に魅了され過剰に力を行使した。だから自ら滅んだのさ。あの後にな。」




「自惚れが過ぎて、魔力の闇に飲み込まれたとでも言いたいのか!」


「そうとも言えるな。そしてそれは、お前も同じだがな。」


『手遅れだ』と、クライスは言いたいらしい。

 セメリトももうすぐ、フレンツと同類になる。

『自ずと崩壊の道を辿る』と。

 それは、俺が愚者だと名指ししている様なもの。

 許さん!

 馬鹿にしやがって!

 あんなボンボンと一緒にされたく無いわ!

 はらわたが煮えくり返って来るセメリト。

 怒りの増幅に比例して、周りの魔力が渦を形成し。

 竜巻の様にギュルルルと回転しながら、中心に位置するセメリトの体内へとドンドン流れ込む。

 益々のパワーアップを感じる。

 全身がみなぎって来る様だ。

 ここまで魔力が上昇すれば、もうこいつは必要無い。

 中の魔物を取り出し。

 力でねじ伏せ、無理にでも従わせてくれよう。

 俺の力は、この魔物さえも凌駕した!

 セメリトは右手を力一杯握り締め、リリィの結界を割ろうとする。

 虹色の光が球体内部から漏れ出し、ピシピシッと割れる音がする。

 ロッシェに背負われ、現場から遠ざかりながらも。

 その光景を目の当たりにしたルーシェは。

 左手を思い切り伸ばしながら、思わず叫ぶ。




「止めてーっ!嫌ーっ!」




 ピシピシピシッ!

 ビキッ!

 バリバリッ!

 亀裂の入る音が、不吉さを増して行く。

 そしてとうとう。

 バキンッ!

 完全に球体は破壊され、リリィの姿は消し飛んだ。

 ああっ!

 リリィ!

 リリィが!

 ああああああああああ!

 ロッシェの背中で、ルーシェの慟哭が響く。

 魔物とは言え、数年にわたり共に暮らした中。

 家族同然に感じていた。

 それが目の前で失われた。

 そのショックで、ルーシェはぐったりとなる。

 ロッシェが森を進みながら声を掛ける。


「姉さん!しっかりしろ!姉さん!」


 既に自分の姉と信じて疑わなかったロッシェが、そう呼び掛けるが。

 ルーシェは気絶し、意識が飛んでいた。




「フハハハ!」


 勝ち誇った様に笑うセメリト。

 その上空には、真っ黒の煙の様な塊が。

 それは徐々に凝縮し。

 この世界で『龍』と呼ばれる物へと形を成した。

 禍々しい雰囲気を放つ、真っ黒なそれは。

 ワニの様に口が出っ張り。

 先に付いた鼻の穴の両脇に1本ずつ、長いひげを生やしている。

 頭にはシカの様な角を生やし、眉は白く太長い。

 胴体は蛇の様に長く、恐らく15メートルは有ろうか。

 背中に白く、馬のたてがみの様な毛をなびかせる。

 その下に見える、魚の様にうろこで覆われた皮膚は。

 黒光りし、とても堅そうだ。

 胴の途中から1メートル弱の手足が、2本ずつ外へ伸びている。

 胴体の幅1メートル程よりは細く、手足の幅は40センチと言った所か。

 ただただ不気味。

 どす黒い負の感情の塊みたいに感じられる。

 セメリトは右手を天に掲げ、魔物へ向かって叫ぶ。


「これから俺がお前の主人だ!俺に従え!」


 クライスに対して、ニヤリとするセメリト。

 こいつを使って、お前を速攻で消し去ってやる。

 俺に楯突たてついたのが運の尽きだったな。

 あの世で後悔するが良い!

 そんな物が存在するならばな!

 あばよ!

 掲げた右手をブンッと、クライスの方へ振ろうとする。

 しかし、感覚が無い。

 肘から先の。

 ん?

 ふと右手を見やるセメリト。

 と同時に、『ぎゃあああ!』と絶叫する。

 キッとセメリトが魔物を睨むと。

 むしゃむしゃとセメリトの右腕を食らう、魔物の姿が。

 興奮し過ぎて痛みの感覚が麻痺し、食われた事に気付かなかったのだ。

 余りに不味かったのか、魔物はすぐにペッと吐き出し。

 セメリトを一睨みして言い放つ。




「我は誰にも従わん。それに我は、【龍の王・光龍】と言う立派な名を持っている。敬意を持って呼ぶが良い。」




「何を、生意気な!腕がもがれようとも、今の俺には!」


 セメリトは強がりの様な言葉を発し、右手の方へ魔力を集中し。

 失われた右腕の部分を形作る。

 それは、禁忌である『魔力の圧縮による物質化』に近い。

 違うのは、完全に復元出来た訳では無く。

 揺らめきの様な存在に留まった事だが。

 そしてそれを、光龍とやらへと伸ばし。

 胴体をガシッと掴み、同化しようとする。


「無駄だ、人間よ。おのれ如きでは、我は御しきれん。」


「黙って!俺に!従ええええっ!」


 セメリトと光龍とのせめぎ合い。

 何故か手出しせず、その様子を傍観しているクライス。

 一進一退の攻防、その結果は。

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