表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/320

第255話 逆手(さかて)

 ハア、ハア……。

 ハア、ハア……。

 森の中を、必死で駆ける。

 球状となったリリィを抱える、ルーシェ。

 それを後ろから、『待でえええ!』とドモりながら追い駆けるセメリト。

 事を少し、過去へ戻そう。




 千切れたブヨブヨの先が、膜となって広がりながら。

 ミースェとヘンドリの間を、南方へすっ飛んで行く。

 それはやはり、クライスの仕業。

 ジェード達に語った、その方法は。

 人の技を軽々しくパクったので、頭に来て。

 ブヨブヨの途中を、錬金でぶった切ってやった。

 以上。

 要約すると、『ブヨブヨ本体の一部を金に変換して、先の方だけ分離させた』である。

 クライスに射程など関係無い。

 相手がどれだけ高く飛ぼうが。

 把握出来る範囲内なら、金の糸を限り無く伸ばせるのだ。

 届いてしまえば、そこから術を行使するだけ。

 セメリト達が居る先の方だけ切り取り、放置すれば。

 勝手に何処かへ落ちて行く。

 その後は着地点へ向かい、転がっているであろうセメリトの相手をする。

 単純な理論。

 しかし、クライスの話した内容をそのまま実現するには。

 かなり高度なスキルが必要。

 遠方の標的へ、寸分の狂い無く命中させる精密さ。

 そこまで金の糸を伸ばすだけの膨大な魔力を、難無く扱う技量。

 それ等を持ち合わせているクライスだからこそ、出来る芸当なのだ。

 他の錬金術師では、容易たやすく成し遂げられないであろう事象。

 その後、『こちらが本家本元』と言わんばかりに。

 同じ技で街道に飛んで来たのだが。

 その行為については、『むきになってしまった』とクライス自身も反省する。

 ジェードはそんなクライスに驚くと共に、『やはり彼も人間なのだな』と認識を新たにした。




 とにかく敵の本拠地で、クライスは。

 破壊しようと迫って来た魔力の渦を強引に、自身の周りの空間へ閉じ込めた。

 ロッシェ達に賢者の石の破片を撒いたのも、〔闇の戯れ〕と良く似た空間を作り上げる為。

 空中の欠片は共鳴し、一定の範囲で魔力の流れを淀ませる。

 そこへ、半径を縮めて来た魔力の渦が一斉に流れ込み。

 パンパンに満たされる。

 初めは外界に影響を及ぼさない様、ゆっくりと放出するつもりだったが。

 セメリトがやらかしたのであろう、ブヨブヨが。

 デンドへ飛んで行くのを察知し。

 奴の厚顔無恥な所業に、クライスはカチンと来て。

 デンドへ伸び、再びデンドから縮んで行く物体を。

 途中で撃ち落とすかの様に、金の糸をシュッと伸ばす。

 そして一気に、『ズパン!』と金へと変え。

 そこが裂ける時、粘性の違いから『ブチッ!』と言う音を立てた。

 後は、ジェード達が見た通り。

 クライスの怒りを完全に買ってしまったセメリト。

 そうとは知らず、今は……。




「待だないがー!ハア、ハア……。」


 苦しそうな声を上げるセメリト。

 ただでさえ、年が40才代と身体が衰え始める時期。

 更に、錬金術に頼りきりだった生活が。

 セメリトの体力を、一般の大人より衰えさせている。

 楽をして来たツケが、ここで回って来るとは。

 少しは運動をしておくんだった……。

 走りながら反省しても、もう遅い。

 対してルーシェは、20代とまだ若く。

 おまけにずっと小間使いをしていたので、体力は有り余っている。

 両者の差は歴然。

 それを埋める物が有るとしたら、それは《知識》だろう。

 落下した場所は、ルーシェが来た事の無い場所。

 何処へ行けば町へ出られるか、見当も付かない。

 だから闇雲に走るだけ。

 対してセメリトは、ケミーヤ教の本拠地をコロコロ変えていたお陰で。

 この辺の地理には明るい。

 上手くあいつ等を誘導してやれば、こんな疲弊した状態でも捕らえられる。

 セメリトには自信が有った。

 ここから南方は、幻の湖が漂う地域〔シキロ〕。

 確か奥深く進むにつれて、魔法使いからの警告が聞こえる筈。

 そこまで進めば、あいつ等なら。

 声の主を回避しようと、東西方向へ向きを変える。

 球状になっているとは言え、あれは魔物。

 魔法使いも受け入れる訳が無い。

 それはリリィが一番良く知っている。

 ルーシェに指示を出すだろう。

 移動方向を変えた瞬間に、先回りが出来る最短距離を目指す。

 そこで奴等の身柄を押さえる。

 そして再び、力を取り戻す。

 何と完璧な策ではないか!

 心の中で勝手に自画自賛しながら、セメリトはルーシェを追い駆け続ける。

 そう思い通りに行くのだろうか……?




「来るな!」

「帰れ!」


 魔法使いに仕込まれた警告の声が、ルーシェの耳を襲う。

 怯えながらも、夢中で南方へ進み続けるルーシェ。

 そこへ、ブルンと球体が震える。

 思わず落としそうになり、漸くルーシェの足が止まる。

 球体のまま、リリィがルーシェに言う。


「このまま進めば、魔法使いの住まう領域に入ってしまう。方向を変えよう。」


「え?魔法使い?本当に居るの?」


 昔話でしか聞いた事の無かったルーシェ。

 実在しているとは思わなかった。

 でも、魔物のリリィが言うのなら。

 ルーシェは尋ねる。


「どっちに進めば良いの?」


 それに対して、『俺に考えがある』とリリィ。

 魔物が示唆した、その内容とは。




「くっ!お、おかしい!」


 ゼエゼエ息を切らせて、南東方向へ移動するセメリト。

 確かに感じた。

 あいつ等が方向転換したのを。

 東へ舵を切ったのを。

 自信が有る!

 自信は有るが……。

 再び確認するか?

 いや、それは俺の間違いを自ら認める事になる。

 ……くそう!

 今はプライドにこだわっている場合じゃ無い!

 ここでしくじれば、俺の明日が無いんだぞ!

 屈辱的ではあるが、もう一度索敵を……。

 泣く泣く折れて、辺りの気配を探ると。

 しまった!

 やられた!

 おのれ……俺を欺きやがったな!

 セメリトは慌てて、進んで来た道のりを戻り始めた。




「あいつ、見事に引っ掛かった様だな。」


 ルーシェの右手の中で、リリィが呟く。

 未だに半信半疑のルーシェ。

 この子の言う通りになった。

 どうして?

 考えながらも、《真北》へ向かって進む。

 そう。

 真南にドンドン進んでいた所を、真北に向き直って戻っていたのだ。

 セメリトの奴は、ひねくれた考えの持ち主。

 何処かで俺達が東か西へ向きを変えると、勝手に考えている筈。

 真北から追い駆けて来るのだ、普通はそちらへ向きを変える事は無い。

 自ら捕まりに行く様な物だからだ。

 しかしセメリトは今、体力が無い。

 年齢による衰えに加え、あんな術を発動させた後だ。

 体内の魔力も少なく、身体能力を補うだけの量も持ち合わせていまい。

 捕らえる為、斜めに森を突っ切って来るだろう。

 だからここで仕掛けた。

 立ち止まったルーシェに、そこらの石を拾わせ。

 リリィの身体にあてがう様指示する。

 言われるままに、手のひらに収まるサイズの石を拾うと。

 ピトッとリリィへくっ付けるルーシェ。

 ポウッと石が光り、魔力がちょっと充填される。

 沢山魔力を注ぐと破裂してしまう為、程々に。

 セメリトの感知能力を逆手に取り、石を東へ放り投げるルーシェ。

 と同時に、真北へ向き直り。

 一呼吸置いた後、進んで来た場所を戻って行く。

 これで暫く、時間が稼げる筈だ。

 空中をブヨブヨに包まれながら飛んで行く時、リリィは感じていた。

 巨大な魔力の塊を。

 それはグオンと乱れている訳では無く。

 留まっているのがさも当たり前の様に、整然と空中を漂っている。

 こんな芸当が出来る者。

 そして、セメリトが仕掛けた罠が発動したと言う事は。

 ケミーヤ教の側では無い何者か。

 その条件で推定すると、消去法で或る人物に行き当たる。

 ヘルメシアの中でも噂が立っていた《彼》なら、ルーシェを救ってくれる。

 今押さえ付けている【闇の魔物】も、何とかしてくれる。

 ここで開放する訳には行かない。

 ルーシェを巻き込んでしまう。

 俺はどうなっても良い。

 ただ、この娘は助けたい。

 その為には、害の無い場所へ出て。

 彼に処置を託すしか。

 そこまで考えると、魔力移譲で少し疲れたのか。

 リリィの思考が止まる。

 そうとも気付かず、懸命に進むルーシェだった。




 真北へ向かう、ルーシェとリリィ。

 策に溺れ、慌てて方向転換するセメリト。

 そして。

 街道から落下地点へ向かう、クライスとロッシェ。

 果たして、その交わる先は……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ