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第252話 セメリト、身を以って

「痛いっ!離してっ!」


「ここまで来て、まだ抵抗するか!」


 腕を掴んでいるセメリトの手を、何とかして振り解こうとするルーシェ。

 揉めているのは、転移装置の在る蔵の前。

 ここを守っている白装束達が、入り口を開けた時。

 中に変な物が有るのを見て。

 あの中へ入ったら、もう逃げ出せない。

 ルーシェはその様に、直感で判断。

 セメリトから命ぜられ、蔵の中へ押し込めようとする白装束達に対して。

 必死に抵抗するルーシェ。

 その甲斐も無く、最後にはポイッと放り込まれる。

 そして変な文字や図形が描かれている床の円陣、その中央に引きられ。

 ルーシェはへたり込む。

 その右側にセメリトが立ち。

 円陣を取り囲む白装束達に向かって、大声を張り上げる。


「この中へ、有りったけの魔力を注ぎ込め!」


 周りに等間隔で立つ、白装束達6人。

 しゃがんで、両手を付き。

 持っている賢者の石を床へ押し付ける。

 すると、石からまばゆい光が放出され。

 円陣内部へ向けて、勢い良く流れ出す。

 どんどん円陣内も光を満たし始め。

 光の円柱が出来上がろうとする時。

 セメリトが、周りを警護している白装束へ向かって『椅子をこっちへ投げ入れろ!』と怒鳴る。

 入り口傍に備えてある、金属製の簡易型椅子。

 見張りが休憩する為のそれを慌てて担ぎ、セメリトへ向け投げ入れる白装束。

 しかし、『あっ!』と思わず叫ぶ。

 勢いが付き過ぎ、セメリトの身体へ激突しそうになる。

 それに対して素早く反応。

 ルーシェから左手を放すと、そのまま椅子へ叩き付ける。

 すると、『シュンッ!』と言う空を切る音と共に。

 椅子が消失。

 呆然とそれを見ていたルーシェだったが、すぐに思い直す。

 今だ!

 セメリトへ体当たりし、リリィを奪おうとするも。

 するりとかわされながら、左手拳で腹を殴られ下へ落とされる。

 ぐっ!

 床に這いつくばるルーシェ。

『者共、下がれ!』と、白装束達に言い放つセメリト。

 それから数秒後。

 蔵から退避した錬金術師達は、或る光景を見た。

 遠くから何やら伸びて来て、『ズジアアッ!』と蔵の天井を付き破る。

 そして『ドーン!』と床を吹き飛ばす轟音と共に。

 伸びて来た物体が、再び縮んで行く。

 それを傍観している他無かった錬金術師達は、すぐに蔵の中を確認する。

 そこには、食い千切られた様な円陣の跡と。

 天井を無くした事によって降り注ぐ、天からの光しか無かった。




 セメリトの策とは、何だったのか?

 前にフレンツが自慢気に語っていた、或る錬金術師との対峙。

 ビヨーンと伸びてからシュルリと縮んだ、ブヨブヨな金色の物質。

 そこから出て来た連中を1人で相手にし。

 相手の錬金術師が持っていた魔物を、まんまとかすめ取ってやった。

 そんな内容。

『下らない』と思いながら、その時は聞いていたのだが。

 セメリトはふと、ブヨブヨの事が気になった。

 フレンツの話では、その中から連中が現れたと言う。

 と言う事は、移動手段として使ったのか……?

 それはそれで、有りだな。

 そう心に留めていた。

 つまりセメリトは。

 クライスがシェーストからスラッジまで移動した方法を、そっくりそのまま再現しようとしたのだ。

 これなら魔物の憑依無く、何人でも纏めて移動出来る。

 大量の兵士を一度に、戦場へと送る事が出来る。

 しかしどれ程の魔力を消費するのか、一度試して把握する必要がある。

 まさかここで、自ら実験する事に成ろうとは。

 まあ俺様の技量なら、再現も容易たやすいがな!

 そう考えていたが、甘かった。

 予想に反して、セメリトもかなり疲弊していた。

 周りから大量の、白装束による魔力供給があったにも係わらず。

 何と膨大な消費量……!

 必要とする魔力が多過ぎて、実戦使用には程遠い。

 改良が必要だな。

 錬金術師としての好奇心が、セメリトの心をくすぐる。

 それもこれも、チンパレ家の屋敷へ着いてから考えよう。

 セメリトは到着まで、じっとする事にした。




 セメリトと共に変なブヨブヨへと飲み込まれた、ルーシェとリリィ。

 周りを薄黒い物質が埋め尽くし、外の景色が見えない。

 こうなると、どうしようも無い。

 助けて!

 誰か!

 お願い!

 そう祈るしか無かった。




「何だ、あれは!」


 ミースェとヘンドリを結ぶ街道で、繰り広げられている小競り合い。

 その中で、ウォベリ軍の兵士が空を見て叫ぶ。

 上を見上げる、ウォベリ側の兵士と錬金術師。

 街道と同じ位の幅を持つ、ブヨンとした液状の物質が。

 シュルルルと、デンドの方角へと伸びて行く。

 ヅオウ側も、同じ光景を目撃。

 戦慄するヅオウ軍。

 当然中には、デンド出身者も居た。

 故郷がとんでもない事になっているのでは!

 そう懸念するのも無理は無い。

 動揺が広がるヅオウ軍。

 これでは戦にならない。


「一旦引くぞー!」


 そう号令を掛ける、司令官を務めるベイス。

 街道を走る、燃えた液体は。

 厄介だったが、何とか封じた。

 時々飛んで来るうるさい棒も、実害が無いと分かった。

 これなら敵を攻め落とせる。

 そう考え、軍を進めた時。

 ウォベリ軍は迷い無く、砦に火を放った。

 それは猛烈な勢いで燃え盛り。

 人を寄せ付けない程。

 このままでは近付けない。

 何とか火を消すか、迂回するしか……。

 方策を模索していた、正にその時。

 あの変な物体が、空を掠めて行った。

 その光景による士気の低下、加えて傭兵の使え無さ。

 筋肉馬鹿で、殴る蹴るしか能の無い連中は。

 錬金術師が表立って攻撃に参加する戦に於いて、邪魔でしか無かった。

 何せ、殴る対象まで接近出来ないのだ。

 かと言って、弓矢の様な飛び道具を使いこなせる程の頭も無い。

 だから、傭兵家業に身をやつしているのだろう。

 そんな奴等が混じった中、これ以上進むよりは。

 ヘンドリへ一度引き返して、体勢を立て直した後に再び攻める。

 これしか無い。

 ベイスはそう考えた。

 流石にあんな気持ちの悪い物を見ては、傭兵も従う他無い。

 ヅオウ軍が下がり始める。

『牽制が成功した』と喜ぶ、ウォベリ軍のジェード。

 一方で、空の物体を『不吉だ』と考えていた。

 すると今度は、物体が勢い良く縮み始める。

 地面へ落ちて来るのでは!

 ウォベリ軍も、ヅオウ軍も。

 その場でしゃがみ込み、頭を手で覆い守ろうとする。

 ブヨンとなっている物体の中で、下界の様子を感じ取っているセメリト。

 案ずるな、お前達の様な小物など相手にしない。

 ただ頭上を通り抜けるだけだ。

 大人しく、この凄まじい光景を見ているが良い。

 そして後に讃えよ!

 この俺の圧倒的な力を!

 フハハハハ!

 高笑いをしそうになる程、気分が高揚する。

 それを苦々しく見ている、ルーシェ。

 祈りはどうやら通じなかった様だ。

 こうなれば、着地点でどうにかするしか無い。

 ごめんね、リリィ。

 必ず助けるからね。

 この身を引き換えにしても。

 そう覚悟を決めた。

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