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第250話 成れの果て

 ロッシェがまず目撃したのは、だだっ広い空き地での悲惨な光景。

 倒れている、白装束の集団。

 その服は真っ赤に染まり。

 20人分以上はあるであろう死体の全てが、脳を吹き飛ばされた状態。

 持っていた賢者の石も全部破棄され、1箇所にその残骸がうずたかく積まれている。

 流された血の色から察するに、半日も経っていない。

 ロッシェは目を覆いたくなるが。

 逆にクライスは。

 何か手掛かりが残されていないか、1体1体入念に確認する。

 敵による、『記憶から事情を探られない為の対策』。

 脳無しの遺体は、絶大な効果を発揮している。

 大した嫌がらせだ。

 クライスはふと思う。

 すると、或る遺体の下から少年が現れる。

 年はアンよりやや下、ワンズ王子より少し上に見える。

 白装束では無く、一般人と同じ格好で半袖半ズボン。

 全身血だらけだが、自分の物では無い様だ。

 五体満足らしい。

 しかし目の前で残虐な行為を目撃したのか、体をガタガタと震わせ縮こまっている。

 何かを話そうと必死なのが分かる。

 ロッシェがその両肩を力強くガシッと掴み、無理に引き起こすと。

 真正面から少年の目を見つめ、諭す様にゆっくりと話し掛ける。

『俺達は味方だ』、そう言い聞かせる感じで。


「言いたい事が有るなら、まず深呼吸をしろ。気持ちが落ち着くまでな。」


 そして一緒に深呼吸をし出す。

 それにつられて、少年もスウーッと息を吸う。

 ロッシェと共に、ゆっくりと少しずつ息を吐く。

 それを何回か繰り返した後。

 漸く真面まともに話せるレベルまで、気持ちが鎮まって来たらしい。

 顔が高揚していたのも、段々と冷めて行く。

 その段階で、ロッシェがまず少年に名乗る。


「俺は〔ロッシェ〕ってんだ。あいつは〔クライス〕。お前、名前は?」


 少し戸惑っていたが、一言二言話し出す少年。

 まずは名前から。


「僕は【シュウ】。」


「ここにずっと居たのか?」


「ううん。何日か前に、デンドから連れて来られたんだ。」


「デンドが故郷なのか?」


「売られて来たんだ。元は【チェイル】って町に居たんだけど。」


「チェイル……聞いた事が無いなあ。」


「だよね……ここに居る人、誰も知らなかったから。」


「遠いのか?」


「ここから、うーんと向こうの方。」


 そう言って、東の方角を指差すシュウ。

 どうやらチェイルと言う町は、ヅオウの管轄よりも外側の領域に在るらしい。

 この世界には、2つの大きな帝国と言う枠組みが存在する。

 しかしまだ、その影響下に無い地域も現存する。

 そんな遠方からも、チンパレ家は奴隷を買い付けていると言う事か。

 奴隷売買を通じて、勢力範囲を広げて行く算段。

 そんな意図が、シュウの話から垣間見られる。

 ロッシェと言葉を交わす内に、心が砕けて来たらしい。

 急に泣き出すシュウ。

 涙を目からポロポロ落とす。


「怖かったよう……。」


「思い出したく無かったら、まだ話さなくて良いぞ。」


 ロッシェはそう言って、頭を撫でる。

 血が乾いて髪の毛がガサガサしたが、そんな事を意に介さず。

 嬉しかったのか、切羽詰まっているのか。

『良いよ、話すよ』と、シュウはここで起こった一部始終を話し出す。

 その概要は、以下に。




 セメリトが魔物召喚に成功してから。

 ケミーヤ教の錬金術師達が、必死に抑え込もうとする。

 当然魔物は言う事を聞かず、中々押さえ付けられない。

 そこでセメリトは、或るモノを呼び出す。

 それは、リスの様な魔物を右肩に乗せた女性。

 これこそ、セメリトの持つ《切り札》。

 リスの魔物は、女性から【リリィ】と呼ばれていたらしい。

 セメリトが女性に、『リリィを使う、今すぐ渡せ』と要求した。

 女性はそれを拒絶、リリィも姿をくらまそうとする。

 するとセメリトは、今度は女性の身柄を拘束。

 リリィに或る事をする様、無理やり強要。

『従わなければ、こいつを殺す』と脅して。

 大抵の魔物は、『誰がどうなろうと関係無い』と言った態度を示す。

 シュウがケミーヤ教の中で働かされる合間に見かけた魔物は、全てそうだった。

 だから勝手に人の身体を乗っ取り、自由に操ろうとする。

 セメリトは言葉巧みに、その状況を利用しただけ。

 でもリリィは違った。

 女性と仲良くしている光景を、ちらほら見かけた。

 シュウと女性は、一緒のグループで連れて来られたのだ。

 魔物が怖くて、シュウは女性に近寄れなかったが。

『変わった人も居るんだなあ』と感心して。

 魔物と仲良く出来る女性を、離れた所から見ていたそうだ。

 女性を殺されたくない理由でもあるのか、リリィも渋々従う。

 その役目とは。

 リリィはまばゆい光の玉となり。

 黒々とした大きな雲の塊を、すっぽりと覆うと。

 ギュンッと一気に、手のひらサイズまで縮まる。

 そのままコロンと、茶色い縞々の球体となったリリィを掴み。

 セメリトは勝ち誇る。

『やっと!やっと手に入れたぞ!』と叫ぶ顔は、満足気。

 そしてすぐに、本部を離れようとする。

 当然、教団員である白装束達も後に続こうとするが。

 セメリトは素早く、白装束の頭をススッとなぞって行く。

 数秒後に頭が、次々と爆発。

 何の事か分からず、オロオロする下っ端。

 白装束の世話をしたり、錬金術の準備をしたり。

 そうやって働かされる都合の良い人間も、ここには少なからず居た。

 そんな下っ端を、『邪魔だ』と言わんばかりに。

 セメリトが纏めて、錬金術で硬直させ。

 この周りに張り巡らしている帯へと、一斉に放り込む。

 シュウは直前に、倒れて来る白装束の死体に押し倒され。

 そのまま動けなくなった事で、偶然回避。

 だから1人だけ助かったらしい。

 放り込まれた下っ端がその後どうなったか、シュウも分からない。

 わっさぁと伸びては縮む木々の中へ消えた所までしか、見えなかったとの事。

 後はセメリトへ必死に感付かれない様、ただ縮こまる。

 暫くして、周りから人の気配が感じられなくなった。

 セメリトは、女性も一緒に連れて行った。

 シュウはその時、聞いたらしい。

『おい!何してる、【ルーシェ】!お前も来るんだよ!とっとと歩け!』と、女性に命令する声を。

 そこで初めて、女性の名前を知ったらしい。

 本名かどうか分からないが。

 その後どうしようか、考える内に。

 身体が血で染まって行く。

 ゾッとすると共に、『もうここで死ぬんだ』と諦めかけていた時。

 死体を誰かに剥がされた。

 身動きが取れないまま。

 ロッシェに肩を掴まれ、起こされた。




「頑張ったな……!」


 涙を浮かべながら、話し終えたシュウを抱き締めるロッシェ。

 その力は、自分が考えているより強かったらしい。

『痛いよー!』とシュウがもがく。

『す、済まん!』と慌てて離すロッシェ。

 その態度が気になって、クライスがロッシェに尋ねる。


「どうしたんだ?変に力が入っていたみたいだが……。」


「そ、そうだ!シュウ!確認したいんだ!」


 ロッシェは再びシュウの肩を掴み。

 シュウの身体を揺すりながら、大声で尋ねる。


「その女性は!〔ルーシェ〕って呼ばれてたんだな!」


「う、うん。はっきりそう聞こえたよ。」


 戸惑うシュウ。

『落ち着け!』と、クライスがシュウからロッシェを引き剥がす。

 その態度で何となく気付くクライス。

 敢えてロッシェに尋ねる。


「お前が探している姉も、そうなんだな?」


「え?お姉さんが居たの?同じ名前の?」


 シュウが目を丸くして、ロッシェに尋ねる。

 静かにロッシェが答える。




「そう。奴隷として売られてった姉さん、彼女も〔ルーシェ〕だった。」




「やはりか……。」


 納得するクライス。

 やっと手掛かりを掴んだと考えたのだろう。

 しかしそれはまだ、早急な判断。

 本人だと確認が取れた訳では無い。

 それでも今は、すがるしか無い。

 僅かな可能性に。

 そうロッシェが決意した時。

 シュウが大声を上げる。


「見て!周りが!」


「何っ!」


 ロッシェが空き地の外側を見やると。

 さっきより、帯が中央へ近付いている。

 侵入者を感知したら、輪の半径が縮まる仕組みだったのか。

 確実に、ロッシェ達の方へ向かって来ている。


「どうしよう……!」


 オロオロするシュウ。

 ロッシェがクライスに向かって叫ぶ。


「脱出する方法は有るんだろうな!」


「当然!」


 クライスは賢者の石の残骸をガバッと抱え込む。

 そして。


「シュウ!ロッシェの腰に、思い切りしがみ付け!」


「う、うん!」


 クライスの言葉に従う他無いシュウは。

 ギュッとロッシェの腰に抱き付く。


「これ位は我慢しろよ!そおれっ!」


 クライスはそう叫び。

 抱え込んだ残骸を、バサアッとロッシェに浴びせ掛ける。

 残骸まみれになる、ロッシェとシュウ。

 そして、ここへ侵入した時と同じ様に。

 クライスが、ロッシェの胸当てに左手を付ける。

 ゴホゴホッとむせながら、ロッシェは察する。

 これから起こる事を。

 パアアッと虹色の光を放ちながら、クライス達の周りを淡い揺らめきが覆う。

 ドンドン迫り来る、勢い良く伸縮する木々の帯。

 白装束の死体を飲み込みながら、空き地の真ん中に立つクライス達へと近付いて来る。

 そしてとうとう、それは。

 ケミーヤ教本部だった場所の中心へと覆い被さり。

 眩い輝きが一閃。

 辺りに放たれ、帯は消失。

 その後には、魔力を失い枯れ果てた木々の惨めな姿が残されていた。




「どうやら、消し飛んだ様だな……!」


 ほくそ笑むセメリト。

 右手に、丸まったリリィを抱え。

 左手は、抵抗するルーシェの右腕を掴んでいる。

 大人の男には、流石に抗えない。

 それでも必死に、リリィを奪い返す隙をうかがうルーシェ。

 そんな気持ちを見透かす様に、嘲笑あざわらうセメリト。

 お前は言う事を聞くしか無いんだよ!

 あいつ等の様に成りたくなければな!

 そう思いながら、セメリトが向かう先は……。

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