第243話 不思議な不思議な、妖精の棒
シルフェニアへ入ってから、幾日か経ち。
マリーとエリーが宮殿から消えた夜。
その翌朝、アンが実家を後にしてすぐに消えた時期。
それ等のチェックポイントを、漸く越えた。
これで、ナキド卿の待つ領地〔ネシル〕へと向かう事が出来る。
時間的辻褄合わせの面倒臭さ。
もうこりごりと言った、アンの感想。
それに同意する、エリー。
再び〔セレナ〕として、アンと共に旅支度を始める。
マリーはエミルと、色々話し込んでいた。
旅の途中で怖がらせてしまった事への謝罪が、まずマリー側から有り。
続いて。
人と妖精、それぞれの頂点にこれから立つであろう者達の。
未来に関する相談。
エミルにとっては、まだ遠い話かも知れないが。
しておく分には、時期尚早も何も無い。
話は脱線をしながら、それでも突き詰めて行く。
その光景を傍で見ていて、頼もしく思うエフィリアだった。
もうすぐ旅支度も終わりと言う頃。
セレナの服の裾を引っ張る者が。
振り向くと、フワフワ浮いた3体の妖精。
3体共、エミルと同じ位の年に見える。
そして3体で、1本の棒の様な物を抱えている。
妖精達の内の1体が、セレナに話し掛ける。
「お菓子作り、楽しかったよ。ありがとう。」
「こちらこそ。またやりましょうね。」
そう言って、頭をなでなで。
嬉しくて宙返りしそうなのを、グッと堪える。
そして3体は、抱えている棒をセレナに差し出す。
「これ、お礼。あ、ちゃんとエフィリア様には許可を貰ったよ。」
そう言われて、受け取るセレナ。
これは何だろう?
長さ1.5メートル近く、太さは直径3センチ程。
色は茶色っぽく、特に凹凸も無い。
やはりただの棒にしか見えない。
端の方を掴んで、軽く振ってみるが。
長さ程の重量は感じず、羽の様に軽い。
今度は真ん中付近を持って、ヒュンヒュンと頭上で回転させる。
特に変化無し。
うーん。
妖精がくれるんだから、何か仕掛けは有るんだろうけど。
悩むセレナに、3妖精の内の1体が声を掛ける。
「ただ振り回すだけじゃ駄目だよ。これ、ただの棒だって思ってるでしょ。」
「やっぱり違うの?」
「棒だと思ってるから、棒のままなんだよ。例えばさあ、剣!剣だと思って、ギュッと握ってみなよ。」
「え、ええ。分かったわ。」
言われるままに、剣の様に棒の端を持つセレナ。
これは剣。
剣よ。
そう思い、握る右手に力を込めると。
シュンッ!
空を切る音と共に、棒は剣の姿へと変化した。
重量は軽いまま、形だけ諸刃の剣へ。
柄もちゃんと付いている。
ただの棒よりも掴み易く、セレナが理想とする剣を再現。
驚くセレナ。
別の妖精がセレナに言う。
「次は槍!槍にしてみて!」
また言われるままに、槍をイメージ。
すると瞬時に、剣が槍へと変化。
今度は長さが、剣の時よりも伸びている。
イメージを変えると、槍の長さも変わる。
残りの妖精が、更に言う。
「これ凄いんだよ!盾にも成るんだ!」
そう言われると、試したくなる。
盾をイメージすると。
棒は一旦、平べったい円形状の板となり。
その後、取っ手の付いた盾へと変わった。
前へ突き出た反り返りがあり、攻撃を確実に受け流せそう。
そこへ。
『やあーーーっ!』と、3妖精が突っ込む。
咄嗟の事で思わず盾を前に出し、身を守るセレナ。
3妖精は、物凄い勢いで突進して来たにも係わらず。
『ボイン!』と弾かれ、地面ヘストン。
セレナへ伝わったその衝撃は、ほんの少し。
衝突した表面をセレナは確認するが、傷1つ付いていない。
身体を張った、強度試験。
慌てて棒へと戻し、地面にそっと置いて。
3妖精を気遣い、セレナはオロオロする。
ヨロヨロと立ち上がる妖精達。
泣きそうな顔のセレナを見て、『てへっ!』と笑い。
『大丈夫!』とアピールする。
「こ、これで分かっただろ?こいつの凄さが。」
「分かったわ!分かったから、無茶はしないで……。」
まだ涙目のセレナ。
少しやり過ぎた?
ボソボソと話す妖精達。
でも、これ位しないと受け取ってくれない。
そう考えていたので、ある意味成功かも。
そう言う結論になった。
妖精が口々に言う。
「これからの事に必要だと思ってさ。」
「要らなくなったら、返しに来れば良いから。」
「遠慮無く使って。おいら達も、その方が嬉しいんだ。」
セレナの周りをクルクル飛びながら、優しく声を掛ける。
涙を拭って、ニコッと笑い。
地面に置いていた棒を手に取って、セレナは言う。
「ありがとう。大事に使わせて貰うね。」
「「「うんっ!」」」
喜びの宙返りをする妖精達。
それを見て、ホッとしながらも。
大事にしなきゃ。
そう考える、セレナだった。
「あっ!」
思い出した様に、3妖精の中の1体が声を上げる。
ナニナニ?
今度は何なの?
心配になるセレナ。
しかし予想に反して、妖精が口にしたのは。
「その棒、名前が無いんだ。この際だから、付けてあげてくれる?」
「え?良いの?」
「うん。その棒も、喜ぶと思うよ。」
そうだよなー。
おいら達、ずっと『棒』って呼んでたもんなー。
丁度良いね。
他の妖精達も、そう言っている。
なら。
セレナは決めた。
棒の名称を。
「【チャーミー】って言うのは、どうかしら?《お守り》を意味する言葉に因んでるんだけど……。」
セレナがそう、恐る恐る言うと。
棒がピカッと光った。
妖精達は言う。
「そいつも気に入った様だよ。」
「中々じゃないかな。」
「良かったね、チャーミー。」
それ等の言葉に反応して、またピカッと光る。
照れくさそうなセレナ。
こうして、ただの棒は。
『チャーミー』と言う、妖精の不思議道具へと格上げされた。
そろそろ出発の時。
屋敷の前で、エフィリアとエミルが浮いている。
ここでお別れと言う事。
感謝の言葉を述べるラヴィ。
そしてエフィリア、エミルと。
握手する。
続いて、セレナとアンも。
最後に1つだけ。
エミルは、はっきりさせたい事が有った。
元スラッジに在る、あのステンドグラス。
そしてそこに伝わっていた、救世主伝承。
この世界が大変になった時現れるとされた、金色の騎士。
元が妖精発祥なら、知っている筈。
エミルはそれ等を改めて話した後、エフィリアに尋ねる。
「あれってさ、やっぱりクライスの事だよね?」
それに対する、エフィリアの返事は。
ラヴィ達も、固唾を呑んで見守る。
そこへ、オッディがやって来る。
そして、『時が来た様じゃ』とエフィリアに告げる。
神妙な面持ちとなるエフィリア。
そしてとうとう、口にする。
「私はそう聞いています。過去の歴史に現れた魔法使いがそう告げたと。あれは『金を生み出す錬金術師』を表しているそうです。」
見送りに集まっていた妖精達にも、動揺が広がる。
あの子は、救世主様だったのか!
道理で凄いと思った!
ざわつく妖精達を制して、エフィリアが言う。
「そうだとしても、私にとっては【友人である】事に変わりありません。それ以上でも、それ以下でも無く。」
「ありがとうございます。兄様が聞いたら、大層喜ぶ事でしょう。」
深々と頭を下げるアン。
妖精の女王が《友人》と断言してくれた。
特別扱いする事無く、一人の人間として接してくれる。
これ程嬉しい事は無い。
その思いは、他の仲間も同じ。
特にエミルは、友達関係が壊れるのを恐れた。
だから敢えて女王である母親に尋ね、これからも関係性は変わらない事を確かめたかったのだ。
安心するエミル。
満面の笑みで、ラヴィに頷くオッディ。
それに対し、心を込めたお辞儀で返すラヴィ。
妖精達も、その思いを汲み取り。
これからも、クライスは友達。
ずっと、ずーっと。
そう言い合った。
「またねー!」
『さよなら』では無く、そう言って見送るエミル。
これは今生の別れでは無い。
また会おうね。
そう願っての言葉。
手を振りながら、出口へと向かうラヴィ達。
エミルの顔は、最後まで笑顔だった。
シルフェニアの西の端まで来たラヴィ達。
エフィリアの話によると、この方面から人の接触は無いらしい。
道が無い可能性もある。
でもそれは願ったり叶ったり。
敵に悟られず、ネシルへ向かう事が出来るからだ。
目の前に薔薇のアーチが現れる。
そして後ろから、エフィリアの声がする。
『行ってらっしゃい。』
静かに頷き、アーチを潜るラヴィ達。
その目の前には、草むらが広がっていた。
ここはもう、ネシルの中。
中心都市【キーヌ】へ向かって、草を分けながら。
地理に明るいアンを先頭にして進み出す、ラヴィ達だった。




