第241話 シルフェニアの選択
敵勢力と対峙する為の、妖精と人間の共闘。
それに付いてまず、エフィリアから話を切り出す。
「とうとう、魔法使いが動き出した様ですね。」
「はい。」
ラヴィが返事をする。
その目は真剣になっていた。
エフィリアが続ける。
「大昔にも同じ様な事が有りました。あの時はとても辛い思いをしたものですが。」
「魔法使いから話は聞きました。まさか錬金術師が、そこまで深く関わっているなんて……。」
黒歴史の真実を知り、妖精に対して申し訳無い気持ちになっているアン。
それをエフィリアが宥める。
「仕方有りません。誰でも過ちは犯すものです。そこから何を学び取るか、それが重要なのですよ。」
「理解しています。二度と同じ過ちは繰り返させません。宗主家の名に懸けて。」
それが自分の責務だと、改めて決意するアン。
更に続けるエフィリア。
「魔法使いが表舞台に出て来ると言う事は、恐らくこれで終わりなのでしょうね。」
魔法使い、その存在の意味を良く理解している。
だから、今の状況が切羽詰まった物だと実感する。
殆ど姿を現さない、人から離れて生活している者が。
こうして思い切り、存在感を出して来ている。
その行動は即ち、《この世界で、何か大きなモノの終わりが迫っている》と告げているに等しい。
それが何かまでは分からない。
しかし終わりの切っ掛けとなる事柄が、シルフェニアにまで及ぶ可能性は有る。
何せ敵は曽て、妖精が持つ道具を欲し。
執拗に追い回した挙句、大量虐殺を敢行したのだ。
錬金術師との連合軍でそれを打ち破ったが。
反ってそれが逆恨みを拗らせた。
攻め滅ぼすターゲットに、シルフェニアが加えられているのは必然。
幾ら中立の立場を強調しても、敵は信じない。
それどころか、恨みを募らせるばかり。
ならばこちらも、防衛体制を取らざるを得ない。
こう成る事は、最初から分かっていたのかも知れない。
世界統一を掲げた王女が、ここを訪れた時から。
だから敢えて問う。
「心優しき王女よ、覚悟は有りますか?」
「どんな覚悟でしょう?」
「何かを失っても、平和を取り戻す覚悟です。」
エフィリアが何を言いたいのか、ラヴィには何と無く分かっていた。
何の犠牲も払わずに、野望が達成される事は無い。
それなりの対価を支払う事になるだろう。
誰も、何も失いたく無い。
それは贅沢で、傲慢な願い。
出来れば被害を最小限に留めたいが。
それは最後の最後に、取捨選択を迫られると言う事。
何を捨て、何を守るか。
何を勝ち取り、何を諦めるか。
人間は万能では無い。
全知全能でも無い。
守れるモノは限られている。
だからこそ、覚悟が必要なのだ。
それを今、問われている。
少し間を置くラヴィ。
考えに考え。
出た結論は。
旅立つ前と同じだった。
「覚悟が無ければ、今まで旅を続けていません。今も、昔も。」
エフィリアに答えるラヴィの眼差しは本物。
芯の通った眼をしている。
悲壮感が漂っているのも見逃さなかったが。
それ故に、決意も強くなっているのだろう。
そう感じた。
エフィリアの考えは決まった。
ラヴィにこう告げる。
「協力しましょう。妖精と人間が、手を取り合って。自由と平等の為に。」
「ありがとうございます!」
ガタッと立ち上がったラヴィは、エフィリアに対して深々と頭を下げる。
涙目になっているのを見られまいと。
それは嬉し涙か、それとも辛い涙か。
本人にもそれは分からなかった。
ラヴィの傍へ、スーッと寄って行くエミル。
ボソッと囁く。
『良かったね。頑張ろう、お互い。』
エミルの言葉に、ラヴィは応えようと無理にニコッと笑う。
それで涙が収まったのか、漸く頭を上げる。
晴れ晴れとした表情のラヴィ。
その顔を、苦しさと切なさの入り混じった感情で見つめるセレナ。
ラヴィとセレナの関係性が、旅の中で変化して行くのを見ていたアンは。
2人の間に、家族以上の絆を見出していた。
シルフェニアへの協力は取り付けた。
と言っても。
防衛に徹して貰い、後顧の憂いを無くす約束だった訳だが。
エミルとはここでお別れ。
しかしまだ、ナキド卿の待つ〔ネシル〕へは向かえない。
ラヴィの父である国王アウラル2世に報告した日まで、まだ何日か先行していたのだ。
隠密行動でここまで来たのは、それが理由。
折角なので、その期日が過ぎるまでシルフェニアに滞在する事となった。
アンは手作りの飴を、妖精に振る舞う。
世話になる礼とばかりに。
エミルに評判だった物だが、他の妖精も気に入ってくれたらしい。
何個も強請る姿に、微笑ましさを感じながら。
要求に答えるアン。
それを遠くから、ボーッと眺めているラヴィ。
ああは言ったものの、やっぱり悩む。
何を失う事になるのか、不安は有る。
でもそれを考え出すと、止まらなくなる。
それはきっと、これからの行動に悪影響を及ぼす。
頭では分かっているが、今一割り切れない。
そんな心境を察してか、背中越しに抱き付くセレナ。
その優しい包み方で、心が解れて行く。
そうだ、私には仲間が居る。
この人達が居るなら、きっと乗り越えられる。
そう思う様になった。
身体の緊張が解け、筋肉が緩むのを感じ取ったのか。
スッとセレナは離れる。
そしてラヴィから少し、距離を置く。
それは、ラヴィと同様の悩みを抱えている事を悟られぬ様。
励ました手前、感付かれたくなかったのだ。
こうして三者三様、シルフェニアで過ごしていた。
クライスが前に過ごしていた家で、寝泊まりする3人。
その初日の夜。
ラヴィの夢に、久し振りにキーリが現れる。
「どうしたの?今頃。」
旅がもうすぐ終わると言いた気のラヴィ。
今更、顔を出されても……。
そう思うラヴィだったが、今回のキーリは今までとは違う。
何処か寂しそう。
キーリが弱々しい声で話す。
『どうやらこの世界に来れるのも、そろそろ最後っぽいんじゃ。』
「え?どう言う事?まさか、魔法使いが関係してる?」
『お、大分鋭くなって来た様じゃの。そうじゃ。あ奴のせいじゃ。』
「何でそうなるの?魔法使いがこの世界から離れる、それだけじゃないの?」
夢の世界は関係無いだろう。
ラヴィはそう言う見解。
しかしどうやらそうでも無いらしい。
キーリは続ける。
『あ奴の動向には注意した方が良い。《次元の隙間を埋める》と言うのが何を意味するのか、あの小僧にもきちんと確認するんじゃな。』
「え?クライスは知ってるの?」
『ああ。あ奴は【最初の方から】関わっているからな。儂があ奴を化け物呼ばわりした事も、それで納得行くじゃろうよ。』
「本人に聞けって言われても……。」
『その感情は分かるが、お主の野望とやらにも関わって来る問題なのでの。まあ今は、目の前の事に専念するが良い。また来るよ。じゃあな。』
「え!ちょ!ちょっと!」
ラヴィが引き止める間も無く、キーリの姿は消えていた。
昨夜の夢は何だったんだろう?
考え込むラヴィ。
次の日も、アンは妖精達と菓子作りをしている。
セレナは、それの手伝い。
ラヴィは、キーリの言葉が気になって。
独り離れて座っていた。
そこへ、老けた顔の妖精が近付いて来る。
神妙な顔をしているが、果たして……?




