第240話 エミルの旅での成長が
ざわざわとした、シルフェニアへの入り口。
木の枝が不規則に動いている。
風で靡いているのでは無く、自らの意思で通せんぼするかの様に。
その前で、ふよふよ浮いているエミル。
そして、森へ向かって叫ぶ。
「うちだよ!エミルだよ!旅から帰って来たんだ!だから中へ入れて、お母さん!」
すると、その声に呼応する形で。
木々の揺れはピタッと止み、もっさりと生えていた草むらも消え。
初めてラヴィ達が訪れた時と同じ様に、薔薇で出来たアーチが出現。
中から、エフィリアの声がする。
『良くぞ戻りました、エミル。他の方々も、さあ。お入りなさい。』
早速、ピューッと飛んで行くエミル。
ラヴィ達は一礼して、薔薇のアーチを潜って行った。
キラキラと木漏れ日が差し込む中。
ラヴィ達は進んで行く。
妖精が木の枝に、草の中に。
姿を見せては、エミルの方へ手を振る。
無事の帰還を喜んでいる。
そして妖精達の笑顔は、ラヴィ達へも向けられている。
始めて来た時は、好奇心と猜疑心の目で囲まれていたが。
今回は温かい眼差しで包まれている。
妖精の友人として、認められた様だ。
ラヴィとセレナは、それがちょっぴり嬉しかった。
森の中心まで、またしてもかなりの時間を要した。
そこに在る太い幹の大木に、その根元の可愛らしい屋敷。
その前では、エフィリアが直々に出迎えている。
周りに何人かの妖精を従えて。
母の姿を見つけて、居ても立っても居られなくなったのか。
その胸へ、一目散に飛んで行くエミル。
「お母さーん!」
ボフッ!
小さな妖精の胸の中で顔を埋める、更に小さな妖精。
すりすり、すりすり。
母の感触を堪能し、満足すると。
顔を上げて、母の顔をジッと見つめる。
そして、凄い勢いで喋り始める。
「あのね!あのね!いろんな事が有ったよ!凄かったんだよ!」
「これこれ、落ち着きなさい。皆が呆れてますよ。」
そう言って、ラヴィ達の方を見るエフィリア。
微妙な感じの微笑み。
苦笑にも見える、何とも複雑な表情。
それで我に返り、顔がカッと赤くなるエミル。
ふふふと笑う、お付きの妖精達。
コホンと咳払いをするエミル。
仕切り直しと言う意味だろうか。
緩んでいた顔を引き締めて、エフィリアへ話し出す。
「うちがこの旅で経験した事を話すね。それで、試練に合格なのか決めて欲しいんだ。」
森の外でしか手に入らないモノを持ち帰ると言う、妖精の試練。
帰路へ就く前の話し合いで、恐らく認められると言う結論にはなったが。
それはちゃんと、エミルがエフィリアを納得させた場合。
説明すべき事項は全て説明する。
それがエミルに課せられた使命。
話を脱線させる余裕は無い。
ここまで来ると、流石のエミルも呑気にフラフラとはしていられない。
妖精の未来がかかっている。
そして、大事な友達の運命も。
だからしっかりとした口調で、エフィリアに語り掛けるエミル。
この様子なら大丈夫だろう。
ラヴィ達はそう思った。
エミルの話は長引きそうだ。
その間ラヴィ達は、シルフェニアに存在する泉へと案内された。
何でも風呂の様に温かく、体内の血流や疲労状態も正常になるとか。
普段は妖精しか入れないが、エフィリアから特別に許可が下りたのだ。
エミルが元気に旅から戻って来た事への、礼のつもりなのだろう。
竹と薔薇で出来た垣根に囲まれ、外から泉の中は覗けない様になっている。
『ごゆっくり』と、案内役の妖精が近くの木陰へ下がる。
安心して、服を脱ぎ脱ぎ。
ゆっくりと足から、チャポン。
一旦ザバーッと頭まで潜った後、肩まで浸かった状態へと体制を戻すラヴィ。
たったそれだけで、髪のつやが鮮やかになった。
それを見て、真似をするアンとセレナ。
すると2人共、髪がサラサラに。
この泉、温度が風呂並みにポッカポカなだけでは無く。
強力な洗浄と回復の効果も有るらしい。
現に、浸かっているだけなのに。
肌の表面がツルツル。
洗ってもいないのに、いつの間にか綺麗さっぱりと汚れや臭いが取れ。
しかも良い香りが漂っている。
何と素晴らしい場所なのだろう。
3人はエフィリアに感謝する。
何か思い付いたのか。
ラヴィが試しに、来ていた衣服を泉に浸けてみる。
予想通り、洗濯したかの様にピッカピカに生まれ変わる。
ついでに他の2人の衣服も、勝手に浸けてしまう。
後でラヴィは、その軽率な行動を後悔する事となる。
服まで綺麗になったのは良いが。
泉から上がった後、ビチャビチャに濡れた服を着て暫く過ごす羽目となった2人。
どうやって乾かすかと言う事までは、考えていなかったラヴィ。
『少しは頭を働かせなさいよ』と言う冷たい視線を、必死に我慢するしか無かった。
エミルの話は、多岐にわたった。
町の様子や人々の暮らし、その中で生まれた問題をどうやって解決したか。
旅の中で出会った、様々な人物。
悪い奴も居れば、良い人も居た。
意外だったのは、妖精が見える人間を多数目撃した事。
それが示している事は。
人間も満更じゃ無い。
ご先祖が人間達と仲睦まじく暮らしていたのも、分かる気がする。
だからこそ、今迫っている危機に。
妖精と人間が手を取り合って、何とかするのが大事。
その点を特に、エミルは力説した。
話を黙って聞いていたエフィリア。
一段落ついたエミルに、こう話し掛ける。
「良い経験をして来ましたね。今のエミルなら、一人前と認めるに十分でしょう。」
「じゃあ、試練は……?」
エミルの問い掛けに、ニコッと笑って。
エフィリアが告げる。
「合格です。良くやりましたね。」
「わーい!」
くるくるくるくる、嬉しさの舞。
周りに居た、お付きの妖精からも拍手が。
エミル、試練に合格す。
それを祝うかの様に、森全体に優しい風が吹き。
サラサラと葉のさざめく音が、あちこちから聞こえる。
そして拍手する妖精の数が、森一面へと広がった。
それはエミルが正式に、女王の後継者と認められた瞬間だった。
「話は終わったのー?」
冷たい視線を浴びたまま、ラヴィが屋敷の前へと戻って来る。
その足取りは、心なしか重い。
その後ろには。
プンスカ怒っているアン。
ちょっとした呆れを心の中で留め、敢えて表情には出さないセレナ。
『おやおや、そのままでは風邪を引きますよ』と、エフィリアが。
3人の周りに風を纏わせる。
すると、あっと言う間に服が乾く。
『お願い、もう許して』と、2人へ懇願するラヴィ。
『仕方無いわねー』と、エフィリアの顔に免じて許してあげるアン。
内心ホッとするセレナ。
エフィリアに着席する様促され、木の切り株に座る3人。
まずエフィリアが、3人へ感謝の意を表する。
「エミルにここまで良くして下さって、ありがとうございます。」
頭を下げるエフィリアに、スクッと立ち上がって頭を下げ返す3人。
「こちらこそ!エミルには助けられてばかりで……!」
「いえ。同じ位迷惑も掛けたのでしょう?お気遣い無く。」
「そ、そうですか……。」
返答したラヴィの心を見透かした様に、エフィリアが応じたので。
そのままストンと座ってしまう。
それを見てフフッと笑うエフィリア。
「良い関係を築きましたね。エミルは幸せ者です。」
親として、子供の成長が見られて。
こんなに喜ばしい事は無い。
その恩に報いなくては。
ここからとうとう、本題が始まる。
妖精と人間の共闘に付いて。
腹を割った話し合いが。
その口火を切ったのは、エフィリアだった。




