第239話 激動のヘルメシア
クライス達がエッジスを離れ、エリントへ向かっている頃。
各地で動きがあった。
軍備を整えたヅオウ軍が。
ナラム家当主パップを総大将として、一路ツァッハを目指す。
ヘンドリの町から、スラード家の支配する地域〔セッタン〕に入り。
通過して行く。
総勢約千の行軍の様子は、傍で見ると圧巻。
この世界の人口は。
村で数十、町で数百なので。
それ程の人間、それも兵士が連なる光景は殆ど見られない。
セッタン内部に緊張を齎すには十分。
住民は震え上がり、これからどうなるのか口々に話し合う。
その光景を見て、愉悦を覚えるパップ。
この勢いで、王族丸ごと押し潰してくれる。
そしてヘルメシアを我が手に……!
そんな妄想を巡らせながら。
何事も無くセッタンを通り過ぎ、南の〔プレズン〕へと入って行った。
ヅオウ軍の通過を確認し。
スラード家当主【ティス・ファン・スラード】は、イレイズ家当主【モーリア・フェルト・イレイズ】へ使いを出す。
この2家は、兼ねてから水面下で共闘して来た。
領土と領民を守る為。
そしてこれからは、魔法使いからの命と言う大義名分を掲げて。
軍を率い、進む事になる。
これまでの備えが、今こそ生きる時。
無事に事を解決し、捕らわれの身となっている身内を取り戻す。
ティスの息子で、跡取りと目される〔ミセル〕と。
モーリアの弟で、次期当主の後見人となる〔ヨウフ〕。
実はこの2人がアリュースの元で、元気に働いている事を彼等は知らない。
『アリュースと共に居る』としか。
魔法使いのメグは。
真実を知らせると彼らの行動が鈍ると考え、伏せた。
と言うより、そんなシナリオはこの世界の歴史に無かった。
元々教えるつもりなど無かっただけだ。
肝心な所で傍観者となってしまう事に、不満はあった。
でも自分の性質上、仕方が無い。
それにどうせ、後でガッツリと……。
メグは、そう遠くない楽しみに浮足立っていた。
プレズンで物資輸送に奔走する、クメト家当主のムッソン。
現在保有している財産のキープの為、王族の命に従う他無い事へ。
苛立ちを強める。
しかし皇帝の後ろには、あの魔法使いが控えている。
逆らえば、一瞬で富を消し飛ばされるかも知れない。
皮肉にもその必死さから。
プレズン内での物流が格段に増加し、それと共に領土内で落ちる金額も見る見る上昇。
財産が増加すると言う結果に繋がっていた。
本人は夢中で、今は知る由も無かったが。
ガティへ到着後すぐに作戦発動を知らされた、ユーメントの交渉の旅に同行していた騎士3人。
丁度その報に触れたのは、王宮で皇帝の影武者と面会している時。
『どうして陛下が居らぬのか』と言う問いに、困っていた矢先だった。
これは渡りに船。
『これこれこう言う事だ』と話し出す3人。
ガティへ戻る旅の途中で、3人は話していた。
急に目の前から、陛下が消えた。
魔法使いからの手紙を残して。
そんな事、誰が信じられよう。
どうやって、真実である事を証明するか?
手紙を見せるか?
それだけでは弱い。
何か決定打が欲しい。
相談しながら歩いて来て、結局王宮の前まで来た。
こうなれば、運を天に任せる他無い。
きっと陛下と魔法使いが、何とかしてくれる。
そう願おう。
それは結果的に、天へ通ずる事となる。
後は各自、行動へ移す。
1人はムヒス家当主と共にプレズンでヅオウ軍と合流、その後直ちに皇帝の元へ向かう。
1人はそれを側面から突く為、作戦の詳細を伝えにセッタンへ。
1人は影武者と待機し、シルバからダイツェン等の監視を。
騎士達の目は輝いている。
一世一代の晴れ舞台。
思う存分、力を示そうぞ。
騎士としての誇りを掲げて。
階級としては下の方だったので、大役を仰せ付かった事に感謝し。
胸を張って、未来を見据える。
その心の内は。
緊張はしていたが、慢心は無かった。
ヅオウ内に留まる、ケミーヤ教の本体。
案の定、妖精の暮らした跡で策を練っている。
強大な力を持つ魔物を召喚。
それ自体は成功した。
しかしクライスの読み通り、制御に手こずっていた。
「しっかりしないか!」
幹部であるセメリトの檄が飛ぶ。
懸命に賢者の石を掲げ、抑え込もうとする錬金術師達。
その数、20人強。
セメリト自身は加わっていない。
制御可能となった時、満を持して手綱を握るつもり。
手柄を横取りし、自身が教祖となる。
そして世界を席巻し、我が手に……!
ここにも、身に不相応な野望を抱える者が居た。
それを達成するには、《ワルスと言う存在》と対峙しなければならないのだが。
この魔物を従わせる事が出来れば、ワルス様とて太刀打ち出来まい。
どうも、自信過剰の気が有るセメリト。
抑え込むにはまだ、時間が掛かりそうだ。
万が一のその時は、あの【切り札】を。
セメリトはそう考え。
或るモノを呼び寄せる様、部下へ通達を出す。
それは……?
ツァッハの首都〔ウタレド〕で、待機する皇帝のテノ。
すっかり元の威厳を取り戻し、〔ユーメント〕として振る舞っていた。
そうでもしないと、この身が危ない。
メグが付いているとは言え、何か有った時に力を貸してくれる保証は無い。
そんなユーメントが頼りにしているのは。
プレズン軍を指揮するソインと。
町のあちこちを相変わらず駆け回っている、副司令官のヒズメリ。
ここでの働きが認められれば、成り上がれるチャンス。
ヒズメリはそう捉えているのだろう。
いつも以上に張り切っている様に見える。
それ等を差し置いて、一番頼りになりそうなのは。
寄りにも寄って、つい数日前まで敵だった錬金術剣士。
女騎士のロイス。
クライスの残した言葉。
《陛下に尽くし功績が認められれば、考えを改める。》
ロイスはそれを勝手に、『成果を上げれば傍に置いてやる』と言う風に解釈し。
それだけを糧に、ユーメントの指示通りに動いていた。
その様子を見て、クライスの気持ちが分かったユーメント。
確かに、これは異常だ。
思い込みが強いと言うレベルを超えている。
狂気じみた何か、そうとしか思えない。
彼の願いは叶わないだろう。
何せ、着々と成果を積み上げているからな。
皮肉なものだ。
避けようとすればする程、逆に好かれてしまう。
何たる不条理。
これも彼の持ちし運命なのか?
悲しい事よ……。
クライスに対し哀れみの感情を持ちながら、それを今は利用させて貰うしかない自分に。
ユーメントもまた、不条理を感じていた。
こうして、ヘルメシア帝国の中で情勢が動いている頃。
ラヴィ達は、サファイをこっそりと通過して。
シルフェニアの前まで来ていた。
使い魔のオズとは、サファイで別れた。
元々、メインダリーを中心とした一帯を管轄していたので。
『使い魔は妖精の住む場所へ入れないから』と、オズの方から申し出があったのだ。
別れ際、オズはラヴィに約束する。
「困った事になったら、迷わず俺を呼んでくれよ。すっ飛んで行くからさ。」
「ありがとう。感謝するわ。」
キツネ犬と握手する王女。
それぞれの役目を背負い、離れる事となった。
さて、前は通過だけだったけど。
今回はそうも行かない。
どうやって、協力を頼もうかしら……?
悩むラヴィとは裏腹に。
旅の終わりを感じ、寂しそうな表情をするエミル。
その頭を思い切り撫でてやる、アンとセレナ。
そうだよね、まだお別れじゃ無いものね。
ここからは、うちの出番。
クライスを絶対助けるんだ……!
その決意と共に、引き締まった表情へと戻り。
シルフェニアへの入り口に向かい合う、エミルだった。




