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第238話 眠るのも、旅には必須

 流石に色々な事をし過ぎたのか、クライスは休息を余儀無くされた。

 ジェードからの栄養剤補給も、急場凌ぎに過ぎない。

 きちんと体力を回復するには、ぐっすりと眠る事が必要。

 ここに来て自分が足枷あしかせとなる事に、クライスは申し訳無く思う。

 でもロッシェから『今までお前に頼りっ放しだったからな、ちゃんと休んでくれ』と言われ。

 安心して眠る事に。

 寝ている間も、移動の準備は進む。

 クライスはもう、悪夢を見る事は無くなった。

 それは解決したからなのか。

 それとも、全部打ち明ける覚悟が出来たからなのか。

 次にクライスが目覚めた時には、丸2日が経っていた。




「少し寝過ぎたか……。」


 ベッドから起き上がるクライス。

 長老の好意で、屋敷の寝室を借りていた。

 その長老と言えば、レンガ壁のあるあの執務室で。

 これまでの事を詳細に書き綴っている。

 何かに憑り付かれたかの様に、真剣な眼差しで。

 一心不乱に作業する姿を見て、誰も止められなかった。

 高齢であるのに、徹夜をして。

 体にかなりの負担が掛かっているだろうに。

 皆そう思っていたが。

 止められるのは、出来事の中心であるクライスだけ。

 それを証拠に、起きて来たクライスをドア越しに見て。

 途端に長老は眠りこけた。

 ホッとしたのだろう。

 屋敷の使用人が、クライスとは入れ違いに長老をベッドへ寝かせる。

 安らかな寝顔。

 それを見て、クライスは。

 この辺りの平穏を取り戻したんだな。

 そう実感する。

 と同時に。

 ケミーヤ教へ挑む心積もりを、今一度自分に問うていた。




「お、元気になったか。」


 屋敷の外へ出て来たクライスを、ロッシェが見つけ。

 そう声を掛けながら、右手を大きく振って寄って来る。

 ずっとろくに休まず活動して来たのだ。

 何時か反動が来るのは分かっていた。

 だから周りの事を気にしなくても良い様、ロッシェも考えて動き回る。

 いつもクライス頼みになって申し訳無い気持ちは、ロッシェもずっと抱えていた。

 国の大事おおごとにガッツリ絡んでいるのに、自分事の姉探しまで手伝おうとするクライス。

 救える者は、出来るだけ救いたい。

 そんな、一種の使命感の様な物に突き動かされている。

 はたから見てそう思える。

 俺の願いを叶えようとしてくれるなら。

 俺もクライスの望みを手伝おう。

 それが騎士道を極める入り口になると、勝手に思っていた。

 そう考えさせるモノが、クライスの行動から垣間見える。

 だからこそ。

 今クライスと共に過ごせる事が、とても光栄に感じた。

 いろんな思いが、ロッシェの心の中を交錯するが。

 クライスの前では、呑気な奴で居よう。

 彼の気苦労がそれで紛れるなら。

 それだけは、この所ずっと一貫していた。




「準備も、あと少しさ。」


「そうか。済まなかったな、長く寝過ぎて。」


「もっと寝ていても良かったんだぜ?」


 そんなやり取りをする、ロッシェとクライス。

 他愛も無い会話が、良き薬となる。

 今の彼等が、正にそう。

 心なしか、笑顔が戻っている。

 雰囲気も幾らか和らいだ様だ。

 エッジスに入って来た時は、ピリピリした風で何か近寄り難かったが。

 取っ付き易い感じに変わっている。

 子供達の反応を見れば、それは明らか。

 家の陰から見ていただけだったのが。

 クライス達の周りを取り囲んで、錬金術について尋ねまくっている。

 それなりに説明しようとするクライスだったが。

 やはり分かり易く話そうとするのが苦手らしい。

 同年代とそれ程、過ごして来なかったからだろうか。

 ラヴィ達とかなりの期間旅をして来た筈なのだが、中々直らない。

 これからの課題だな、これは。

 子供達に対して苦笑いをしながらそう思う、クライスだった。




 結局旅支度が整ったのは、日が沈みかけた頃だった。

 慌てて準備を行ったので、錬金術師も疲れが溜まっている。

 敵も、それ程素早く体勢を立て直せまい。

 そう判断し、もう1泊する事に。

 錬金術師達は、それぞれ知り合いの家へ厄介になる。

 クライス達は、またも長老の屋敷へ。

 長老は徹夜の疲れからか、まだ眠っている。

 起こすのは忍びない。

 クライス達は、応接室にあるソファで寝る事に。

『ベッドをちゃんと用意しますから』と、長老の使用人に言われたが。

『仮眠程度なので』と丁寧に断った。

 これ以上、迷惑は掛けられない。

 すぐに出立するのに、ベッドを運ばせる様な真似はさせられない。

 それはクライス達にとって不本意。

 その思いを汲み取り、使用人は下がる。

 眠りに着く前。

 ロッシェがクライスに話し掛ける。


「なあ。」


「何だ?」


「上手く行くかなあ?」


「心配なのか?」


「いつも心配さ。俺は騎士見習いだからな。」


「結構、様になって来たと思うけどな。」


「お世辞はよせよ。」


「本音さ。」


「……ありがとよ。」


「それは俺の台詞だ。」


 そこで2人の会話は止まる。

 もう語る必要はあるまい。

 何とかする。

 それだけだ。

 そんな思いを胸に、2人は眠りに就いた。




 次の日の朝早く。

 エッジスからエリントへ向かう街道の始まりに。

 錬金術師達が集合。

 静けさが町を覆っている中。

 ミースェに向け、出発した。

 見送りは不要。

 そうクライスが願い出ていた為、住民はまだ夢の中。

 ただ1人、見届け人として長老が。

 その場に立ち、ジッとクライス達の背中を眺める。

 出立の前、長老はクライスに尋ねていた。

【交わりの子】なのかを。

 クライスはそれを否定した。

 長老は、クライスがてっきり。

 2つに分かれた宗主家の血筋の《交差点》だと思っていた。

 この町に居た、もう一方の宗主家の子孫が。

 ここを離れる前に、その様な事を臭わせていたからだ。

『何時か血筋は1つに戻る』と。

 クライスはその質問に対し、以下の様に答えた。

 交わる事は有りません。

 平行線のままです。

 しかし、共に手を取り合う距離には居ます。

 それが1つの流れを形成して、未来へ導いて行く。

 それで良いと、俺は考えています。

 御理解頂きたい。

 そう言ったクライスからの返答を聞いて、何とも言えない気持ちになったのだ。

 1つになると言うのは、必ずしも合体を意味するのでは無く。

 糸を編み合わせて形成された、1本の縄の様。

 それはあたかも1つに統合された様な振る舞いをし、一層固く強く機能する。

 それで良いではないか。

 血統にこだわるのは無意味。

 そうクライスに説かれた気がした。

 がっかりすると共に、恥の気持ちが生まれ。

 姿が見えなくなると、複雑な表情で。

 長老は屋敷へ戻って行った。




 旅の集団は、総勢40人程。

 その中には、捕らえた10人強の敵側も勘定に入っている。

 例の如く、クライスによって。

 首に、金の輪を嵌められている。

 逃げられない様に、刃向わない様に。

 しかし敵側は抵抗するどころか、寧ろ喜んでいる。

 宗主家の術を体で味わえる。

 至福の時。

 実際刃向ったらどうなるか、実験したい欲求に駆られるが。

 もし死んだら、確認出来無い。

 かと言って、誰かが結果を知るその土台にも成りたくない。

 単に、悔しいから。

 葛藤を繰り返し、結局大人しくなる。

 その光景を見て。

 錬金術師の好奇心とは、何と欲深い事か。

 呆れるロッシェ。

 味方側は、同じくくりにされたく無いのだろう。

 敢えて敵側のリアクションには触れない。

 とにかく錬金術師の行進は、こうして順調となる。

 その先の展開は、一体どうなるか……?

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