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第235話 遺物の門

 長老が語り、ロッシェが相槌を打つ。

 そうして、テューアの歴史が明らかとなる。




「ここに居を構えたその方は、弟子達を置いて単独で魔境へ向かわれました。」


「独りで?危険じゃねえのか?」


「2つ理由が有ります。1つは、弟子達の技量では反って足手纏いとなる事。そしてもう1つは……。」


「それは?」


「彼が、【始まりの錬金術師の息子である】事です。」


「ああ、あの……。」


 魔法使いと共に、異世界から渡って来た事は。

 黙っていたロッシェ。

 長老もそこまでは、伝え聞いていないかも知れなかったからだ。

 長老は続ける。


「次元の裂け目を安定化させた人物の身内と分かれば、おいそれと襲っては来まい。そう考えたのでしょう。」


「なるほど。警戒心を解く為に敢えて、か。」


「魔境に住む者を全て滅して、人間の手に取り戻そう。そう最初は考えていた様です。」


「物騒な話だなあ。」


「対話出来る相手だと思っていなかったのでしょう。しかし調査を進める内に、考えを改めたらしいのです。」


「その理由は?」


「分かりません。ただ、『同じ生き物だから』だと、伝承では成っています。」


 長老の説明に首を捻るロッシェ。

 そこへクライスが、ひそひそ話し掛ける。


『【魔物が元人間だった】って事は、他では口外されていないんだ。』


『あ、そう言う事か。』


 正体が人間なら、殺し合う道理が無い。

 馬鹿正直にこの世界の住民へ教えると、混乱が起きるのは目に見えている。

 だから敢えて伏せた。

 男の考えが、少し分かったロッシェ。

『続き、宜しいですかな?』と長老に問われ。

『ど、どうぞどうぞ』と慌てて答えるロッシェ。

 コホン。

 咳払いをして、続ける長老。


「そして魔境の偉い者、まあ階級が高いと言う事でしょうな。その魔物と会談を持ち、話し合われた結果……。」


「門を造る事になったんだな?」


「はい。魔物も無暗むやみに人を襲う事は望んでいなかったと、会談で判明したのです。」


「棲み分けって事か?」


「近いかも知れません。しかし確かな規律は、魔境側で持ち合わせていなかった。勝手に人里へ乗り込んでは暴れる者が、後を絶たなかったとか。」


「それで、物理的に遮断する方法しか無かった……。」


「魔力が充満していますから、気性が荒くなっているのでしょう。事の分別が付かなかったのでは?」


 長老はそう言った。

 しかしクライスはまた、ロッシェにひそひそ話して。

 物語の隙間を補完する。


『人が恋しかったんだよ。自分の姿を見て、愕然とする。もう人間に戻れない。そんな絶望感に襲われた結果さ。』


『魔物の気持ちが分かるんだな、お前。』


『元は人間だと知っていたら、それ位は類推出来るだろう?』


『そりゃあ、そうだけどさ……。』


 ぶつくさ言っているロッシェ。

 またも話を遮られて、調子の狂う長老。

 しかし相手が相手なので、文句が付けられない。

 仕方無く、そのまま続ける。


「とにかく。錬金術の《禁忌》にある、【魔力の圧縮による物質化】で障壁を築いたのです。」


「え?それって、さっきの話で出て来た《結晶》と同じ奴?」


「でしょうな。」


「だったら、賢者の石も作り放題なんじゃ……?」


「ですから《禁忌》と申し上げたでしょう?その方法を弟子達に伝えれば……。」


「そうか!乱造されて、変な事に使われるかも知れないって事か!」


「その通り。これにより、勝手に魔境からやって来れなくなったのです。」


「でも魔法使いは、使い魔として呼んでるよな?あれは?」


「空間転移。決まってるだろ?」


 長老の代わりに、クライスが答える。

 魔法使いなら、時空を捻じ曲げる事は朝飯前。

 ただ、それだけのパワーを必要とするが。

 やたらと召喚出来ないのは、魔法使いも同じなのだ。




「本題に戻りましょう。」


 長老が、少しの休憩を挟んだ後また話し出す。

 相槌は変わらずロッシェ。


「こうしてテューアは出来上がりました。ただ完全に遮断出来る訳でも無く、また衰えもするのです。」


「そこが、錬金術師の出番ってとこだな。」


「はい。テューアの監視とは、維持と同義なのです。隙間が出来る度、同じ魔力の塊である賢者の石の材料で埋めていました。」


「ほうほう。」


「ですが逆に捉えれば。隙間を広げてしまえば、その大きさに応じた魔物をこちらへ呼び寄せる事が出来るのです。」


「ケミーヤ教がやろうとしているのは、傷口を広げる事か!」


「ご明察。奴等は巨大な力を持つ魔物を従わせ、この世界に破壊をもたらそうとしているのです。」


「それでヅオウに陣取って、あれこれやってるんだな?」


「しかしそう簡単には行きません。何しろあの方の渾身の作です。隙間が急に広がる事は、余程の事が無い限り難しいでしょう。それに……。」


「それに?」


「今テューアの前では、錬金術師達が交代制で隙間を埋める作業に当たっています。」


「それだけで防衛出来るのか?」


「分かりません。でも遅らせる事は出来ます。広がる《時期》を。」


「時期?気になる言い方だな。」


「それはですね……。」


 急にうつむく長老。

 頭の上に疑問符を浮かべるロッシェ。

『お恥ずかしい話ですが』と断りを入れた上で。

 長老が打ち明ける。




かつて一度だけ、無理やりこじ開けられた事が有ったのです。」




「えーーーっ!」


 驚くロッシェ。

 さっき『渾身の作』だの、『余程の事が』だの言ったばかりなのに。

 一度とは言え、破られてるじゃねえか!

 咄嗟に聞き返すロッシェ。


「誰が?どうやって?何で?」


「無謀にも、一点突破を図ろうとした者が居たのです。その時の衝撃で、テューアに或る周期が出来ました。」


「周期?」


「一定の時が経つと、一瞬障壁が極端に弱まる様になってしまいました。敵はその時を図っているのです。」


「丁度、その時が迫っている?」


「偶然かも知れませんが。」




「いや、あいつ等は知っている。《あれ》の先祖がやらかした事だからな。」




「クライス!何言い出すんだ!」


 思わずクライスの方を向くロッシェ。

 ハッとして、長老も目線を向ける。

 クライスは低いトーンで告げる。


「ケミーヤ教を率いている、《ワルス》って奴の先祖。そいつが魔境に乗り込もうとしたのさ。」


「何でまた、そんな事を……?」


 聞き返したのは長老。

 魔物を呼び出そうとして、テューアに在る隙間を広げようとするなら分かる。

 普通の人間では、あれは越えられない。

 禁忌は、禁忌をもってしか破れない。

 錬金術師の常識。

 しかしロッシェは知っている。

 ワルスの先祖は、テューアを造った男の血筋。

 禁忌を受け継いでいてもおかしくは無い。

 問題は【何処で】だが。

 クライスは1つ、回答を持っていた。

 ここでの言及は避けるが、後に関わる事象でもあるので。

 触れる機会は有ろう。

 それより、今は。

 長老の疑問に答える事。

 クライスが話す。


「恐らく、魔物達の協力を仰ごうとしたんでしょう。『彼の意志です』とか出鱈目を並べて。」


「魔物の軍勢を率いるつもりだったと!」


「あいつ等ならやりかねませんから。でもそれは叶わなかった。魔物の方が拒絶したんですよ。」


「それはそうでしょう。テューアを築いた意味が無くなりますからな。」


「そして、エッジスの向こう側へでも吹っ飛ばされた。その時に気付いたんです。周期性が生まれた事に。」


「何と、狡賢ずるがしこい……!」


『むむむ……!』と言った顔になる長老。

 そこでロッシェが或る事に気付く。


「あいつ等がそれを知ってるなら、こっちに居る錬金術師の中に紛れ込んでいないのか?伏兵が。」


「そう言われれば……。」


 考え込む長老。

 最近、隙間を巡る攻防が生まれている様な気がする。

 広がったり、狭まったり。

 まさか、それは敵の仕業……?

 そう勘繰り始めた時。




 ドーン!




「テューアの方からだ!」


 ロッシェが慌てて、ガラス窓に駆け寄る。

 門の方を見ると。

 人だかりが出来ている。

 何やら押し問答をしている様だ。


「お前さんの読みが当たったみたいだな。」


 後ろから外を見やるクライス。

 オロオロする長老。


「こんな時だけ、当たるんだよなあ!」


 そう言って、『止めるなよ!』と叫びながら。

 テューアへ向かうロッシェ。

 頭を抱えて、その場にうすくまる長老。

 先祖代々、守り通して来た物が!

 申し訳ございません!

 心の中で懺悔する長老。

 その前にしゃがみ込み、肩に手を置いて。

 語るクライス。


「俺達は、奴等の企みを止める為に来ました。大丈夫。」


「お願い……致します……!」


 肩に置かれた手を取り、力の限り握り締める長老。

 その弱々しい感触を刻みながら、長老と共に立ち上がるクライス。

 足早にロッシェの後を追う。

 そのまま見送るしかない長老。

 背中越しに、長老へポツリと呟くクライス。

 それは。




「ありがとう、今まで。後は、俺達の仕事だ。」

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