第234話 門前町の成り立ち
長老の話によると。
時は、四百何十年か前。
ここへやって来た、高名な錬金術師が。
魔境の調査をする為、拠点を構えた。
しかし、流れ込む魔力の濃度が濃く。
普通の人間は疎か、彼の弟子達も滞在に支障を来す事態へ。
そこで普段通りに生活が出来る様、魔力の流れを左右に分断し。
流れを横へ逃がす事によって、わざと濃度の薄い地域を生み出した。
そして居住地域を拡張し、誰もが滞在出来る様に改良を重ねた。
それが、現在のエッジス。
話の大筋は、幻の湖でクライスが語った黒歴史とほぼ一致する。
しかしクライスは大まかな内容で、詳細は語っていない。
ただ、『魔物達と話し合った結果、門を築いた』とだけ。
詳しい部分を語ってくれるか、期待するロッシェ。
使命感からか、その期待に応えようと話を続ける長老。
「この部屋で、何処か一般家屋を違う点は有りませぬかな?」
そう長老から問い掛けられ、考えるロッシェ。
すぐに思い付くのは。
「2つの変な窓と……やっぱり壁かな。そこだけレンガで出来てる。」
「そうです。そこが肝なのです。」
『良ーく御覧なされい』と長老に言われ、壁の間近まで寄るロッシェ。
レンガとその繋ぎ目を、ジッと見つめる。
すると何やら、キラキラした物が。
何かの……粒?
それを指差しながら、長老の方を見ると。
頷いている。
これがその仕掛けなのか?
ロッシェの後ろに近付き、長老が言う。
「これは特殊な鉱物でして。一言で言うと《賢者の石の材料》なのです。」
「ざ、材料!」
「何だロッシェ、原材料も無しに作れると思ってたのか?」
「そんな事、思うか!何でそれで魔力の束を躱せるか、分からんだけだ!」
「ああ、なるほど。」
納得して引き下がるクライス。
代わりに長老が説明する。
「賢者の石は、ごく一部の人間しか作れない事は御承知で?」
「勿論!」
胸を張って答えるロッシェ。
『それなら』と話を続ける長老。
「魔力に愛された者、限られた者しかその資格は有りません。なので弟子達はいつも、材料を粉にして持ち歩いていたのです。」
「荷物運びをやらされていたってのか?」
「それとは少し違います。そのお方に付き添うのは、錬金術を学ぶ為でもありましたが……。」
「でしたが?」
「賢者の石とて、消耗品には変わりありません。弟子達は腕を磨く為しょっちゅう使用し、使い過ぎですぐに壊してしまっていたのです。」
「まさか、便利屋だったのは……?」
「ご想像の通り。そのお方に賢者の石をすぐ作成して貰える様、材料を保有していたのです。」
「何だそれ!ひっどい弟子達だなあ。」
呆れるロッシェ。
要するに、錬金術を会得したいが為に集っていたのだ。
そのお方とやらに。
それだけ弟子達も必死で。
それ程錬金術は、魅力的だったと言う事だろう。
何に使うかは知らないが。
ともかく、改心した後だ。
邪心を持つ者は、帯同を断っていただろう。
錬金術で悪さをされては、堪ったものでは無い。
今現在、そう言う事が実際行われているから。
尚更そう思える。
しかし、そんな特殊な鉱物とやらは何処で手に入れるのか?
そこで登場するのが、妖精。
長老が続ける。
「元々妖精が編み出した術です。材料も、妖精が暮らしている場所でしか手に入りません。錬金術師と妖精は、切っても切れない関係なのです。」
「そうか……ん?でも、妖精の居た場所って……?」
「破壊された、ですか?」
「そう!それそれ!今はどうやって手に入れてるんだ?」
「それは……。」
クライスの方を見る長老。
こちらの方が、説明するのに適している。
そう言う目線。
『やれやれ』と言った顔をし、クライスは答える。
「『妖精を錬金術師が助けた』って話を、前にしたろ?」
「ああ。確かに。」
「その時に取り決められたんだ。『適度な期間で、材料を分けてくれる』って。」
「シルフェニアから、定期的に持って来てくれるって事か?」
「そう。主に2つの家系にな。」
そう言ってクライスが指し示したのは。
1つは、宗主家であるベルナルド家。
もう1つは。
始まりの錬金術師の長男から連なる、別の家系。
長老によると、曽てはこの辺一帯を治めていたらしいが。
ある時期、『使命を果たす時が来た』と言い残し。
自治権をノイエル家へ託し、ここを離れて行った。
その後の行方は、妖精しか知らないらしい。
その家系が大っぴらに表へ出られない関係上、代理で12貴族を務めていたノイエル家は。
こうして名実共に、ウォベリを掌握する事となった。
長男とその一族がここで暮らすのに建設した建物が、今正にロッシェが居るこの屋敷。
その時、魔境の方を向いている壁をレンガ造りにし。
その中に賢者の石の材料を埋め込む事で、魔力の流れを制御した。
レンガの壁は、謂わば要石。
魔境へ通ずる道の脇に建てられたポールも、材料の粉が含まれている。
そうやって二重三重の結界めいた物を張り巡らせる事によって、エッジスの町を守って来たのだ。
そこまでは分かった。
でも結局、話の中では材料の具体的な言及は無し。
そこで更に、クライスへ突っ込むロッシェ。
「あのキラキラした物って、つまり何なんだ?」
レンガを指差しながら、問うロッシェ。
話そうかどうか、少し考えた後。
まあロッシェには使いこなせないから、害は無いか。
そう判断し、クライスは答える。
「結晶だよ。魔力の。」
「え?魔力って塊になるのか?」
「特殊な条件下ではな。」
「お前が金へ変える様に、物が変化したりとか?」
「違う。圧縮されるんだ。ギューッとな。」
「起こり得るのか、そんな事が?」
「だから《特殊》って言ったろ?妖精の暮らす場所では、魔力の渦巻く場所が出来るんだ。」
「あの《黒い球》みたいなのか?」
ロッシェが言及したのは。
〔闇の戯れ〕で見た、魔力が外へ出ようとする時に出来る出口の事。
確かにあれも、圧縮された魔力。
全てのエネルギーが集まるから、黒く見えると説明された。
そんな魔力スポットを、シルフェニアが抱えているのか?
否。
クライスは即座に否定する。
「あそこは閉ざされた空間。行き場を無くした魔力が、仕方無く凝縮されただけだ。ケースが違う。」
「じゃあ、どうなんだよ?」
ロッシェはシルフェニアに行った事が無い。
妖精の暮らしも知らない。
想像出来無いのも当たり前。
クライスは言う。
「シルフェニアの中は、時がゆっくり流れているんだ。でも逆に、時が加速している場所もある。そこで魔力が渦を作ってるんだ。」
「時差のせいで、塊になる……?」
「そんな所だな。」
「やっぱり、頭の中で光景が浮かばないなあ。俺の想像力不足か?」
悩むロッシェ。
クライスの知識では、説明のしようがあった。
雪が降り積もって圧縮され、氷となる過程。
南極大陸にある、広大な氷の塊。
それと同じ。
しかしロッシェに話したところで、理解出来まい。
この世界に、そんな物は存在しないのだ。
氷の大地など。
改めて分かり易く説明する事の難しさを感じる、クライスだった。
エッジスの説明は以上。
これからは本題へと。
魔境からこちらへ、魔物を越させない為の門。
テューアに付いて。
長老は再び語り出した。
その内容とは。




