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第230話 逃避行、一段落す

 ソーティが無事、グスターキュ側へ到達したので。

 その先の事にも少し、触れておこうか。




 ラヴィ達は幻の湖を旅立った後も、行商人の格好をしていた。

 それは服装をそれしか持ち合わせておらず、仕方無かった面も有るが。

 その恰好の方が動き易いと言う点も有った。

 長旅も覚悟して、各地を売り歩くのだ。

 丈夫で長持ち、それでいて着心地の良さはずっと続く。

 意外と便利だったのだ。

 それに対して、ソーティは。

 筋肉だるまから解放され、体の大きさがしぼんでしまい。

 服がブカブカになってしまった。

 その恰好のまま、クライスやテノは背負っていたので。

『それでは歩きにくいだろう』と、メグが小屋から服を引っ張り出して来てくれた。

 メグの暮らしは来訪者も居なく、退屈ではあったが。

 歴史の邪魔にならない程度で、町へこっそり行っては。

 服を買ったり食事をしたりして、ストレスを発散していた。

 なので、或る程度の衣服を無駄に所有していたのだ。

 その内の1着をソーティは譲り受け、ラヴィ達と行動を共にした訳だ。

 勿論、ラヴィ達の服装に近い物でないと違和感が生じる。

 疑いの目が向けられる。

 そこでメグは、自分で一番地味だと思う服を与えた。

 それでも『派手だ』と言われ、アンに錬金術で模様を直されたが。

 ここまで違和感無く辿り着けたのは、それ等の工夫があってこそ。

 トンネルを抜けた後すぐ、ラヴィ達は。

 労働者の服から、元の行商人の服へと着替えていた。

 ソーティも同じく。

 地味目な服へと戻っていた。

 王族の威厳の欠片すら感じさせない服装に。

 こうしてラヴィ達と別れた後。

 メイを右肩に乗せ、ソーティは町を抜け街道を進んで行った。




 来た事の無い道を、1人で歩く。

 孤独では有るが、メイの存在がそれを助けていた。

 元々セントリアを受け持っていたメイは、この辺りの地理に明るい。

 だから特徴的な何かを見つけては、ソーティが恐れを抱かない様解説をして。

 ソーティの気を紛らわせていた。

 使い魔とは言え、仲間が居るのは心強い。

 絆の重要性を改めて感じていた。

 そうこうしている内に。

 セントリアの首都〔テュオ〕が見えて来た。

 城塞都市と聞いていたので、いかつい外見と思っていたが。

 それは妄想の範囲内だった様だ。

 ソーティの想像は、ガティに在る別荘や王宮を基準としている。

 だから屋敷と聞けば、巨大な建物を。

 城と聞けば、ごつい感じの物が思い浮かぶ。

 しかしグスターキュ側へと辿り着き、町を廻ってみると。

 それしか知らなかった事が恥ずかしくなる。

 一般人まで同じ様な暮らしをしている筈は無いと、頭では分かっていたが。

 自然と過大評価をする癖が付いていたらしい。

 筋肉マッチョだった頃の記憶は、余り無い。

 頭の中でモヤがかかった状態。

 なのでスラッジの子供達と遊んだ事も、はっきりとは思い出せない。

 仕方無かったと言えばそれまでだが、それが余計に罪の意識を強くしていた。

 もうそんな事はうんざりだ。

 何でも知っておきたい。

 素が聡明なソーティは、旅の記憶をドンドン蓄えて行った。

 これまでの人生で欠けてしまった部分を、必死に補う様に。

 メイの話も、それを助けていた。

 悪戯いたずらに話し掛けていた訳で無いのだ。

 補佐役としての、メイの使命。

 それもまあ、テュオへ到着するまでだが。




 街道の終着点。

 テュオへの入り口へ到達。

 そのまま入れてくれるだろうか……。

 ソーティは心配したが、メイは気にせぬ素振り。

 その態度で、覚悟を決める。

 普通の人には何て事無くても、ソーティには勇気の要る事。

 そーっと町へ足を踏み入れる。

 そして辺りを見回す。

 意外と城壁は低い。

 他の都市からすると高い方だが、ソーティの基準はガティの王宮だ。

 規模が違う。

 それでも、立派な造りに感心するソーティ。

 取り敢えず、町中をうろつく事にする。

 メイを肩に乗っけている事も有るが。

 ここにはアリュースだけでは無く、その身辺を警護する騎士達も暮らしている。

 それこそ、顔見知りも。

 自分がアリュースの屋敷を探すより、向こうに見つけて貰った方が早い。

 そう思ったのだ。

 そしてその作戦は功を奏した。

 ソーティの姿を見て、近寄って来る者有り。

 一応警戒する、ソーティとメイ。

 その姿は次第にはっきりとして来て。

 大体の人物像が分かると。

 ソーティはホッとする。

 そして、近付いて来た影から声が飛んで来る。

 驚いた様な声が。




「メイ!メイなのか!それを肩に乗せている少年、何処かで見た事の有る様な……あっ!」




 そして慌てて駆け寄る影。

 傍まで走って来ると。

 開口一番。


「王子!ソーティ王子ではありませんか!」


「や、やあ。元気そうだね、ビンセンス。」


 そう。

 ラヴィ達の報告の旅へ同行し、そのままセントリアで別れて。

 アリュースの元へ戻っていた、トクシーだった。

 思わず『あちらへ向かったのでは無いのか?』と、メイへ尋ねるトクシー。

『その辺は後で説明するわ、取り敢えずあのボンボンの所まで連れてって頂戴』とメイに言われ。

『了解した』と、一旦疑問を飲み込むトクシー。

 思いがけずアリュースの屋敷へと案内する事になり、珍しく焦る。

 王宮でクライスから、反転の法に付いて解説があったので。

 多少諦めてもいた。

 なのに。

 化け物と化した筈の王子が、こうして普通の少年として町を歩いている。

 それも使い魔を連れて。

 意外過ぎて、少々混乱気味。

 情報過多は、時に障害となる。

 今のトクシーがそうである様に。

『知らなくて良い事も有るのよ』とメイに言われ、納得するソーティ。

 情報の取捨選択の難しさを、思い知る事となった。




 何とか無事、アリュースの暮らす屋敷へと着く。

 早速お目通りを願う。

 控えし騎士達も半信半疑だったが、喋る猫を間近で見て信じざるを得なかった。

 奥の執務室らしき部屋へ案内されるソーティ。

 部屋に入ると、満面の笑みを浮かべた青年が立っていた。


「良くぞここまで来た。嬉しいぞ。」


「兄さん!」


 アリュースへ抱き付くソーティ。

 ギュッと抱き締め返すアリュース。

 その力加減で、苦労してここまでやって来た事を悟るアリュース。

 優しくソーティの頭を撫でてやった。

 気持ちが落ち着いたのか、無邪気な少年から王族の一員へと顔付きが戻る。

 これまでの事を報告するソーティ。

 皇帝である長兄が直々に動いている事。

 これで全てけりが付く事。

 そして、魔法使いと面会した事の自慢。

 ついでに、エミルと再会の約束をした事も。

 キリッとした顔の下から時折覗かせる、緩んだ表情。

 良い事も有ったのだな……。

 アリュースはそう思いながら、黙って聞いていた。

 トクシーも化け物化した事は話していなかったので、ソーティも打ち明けるつもりは無かった。

 それを知ってしまえば。

 熱心にアリュースへ手紙を書いていたのが自分では無い事が、兄にバレてしまう。

 自分が責められるのは良い。

 ただ、兄をがっかりさせたく無い。

 悲しませたくは無い。

 そこから出た配慮。

 メイもその思いを汲んで、何も話さなかった。

 ただ1つ、メグが発したメッセージだけを伝える。


「ご主人がおっしゃるには、【終わりは始まりにある】だそうよ。」


 それをどう解釈するか。

 アリュースは、以下の様に受け取った。

 国が生まれ、それが巨大になるにつれ。

 確執を生み始めた。

 ラヴィはそれを解消しようと、世界統一を掲げた。

 ならば、それこそが平和へと繋がる終着点ではないか?

 国境を設けず、自由に人が往来出来。

 貧富の差を無くし、身分での差別を撤廃する。

 簡単な事では無いが、人の上に立つ身分として遂行せねば。

 その第一歩を示せば、混乱の世は収まる。

 新しい関係を始める事で、それまでの不穏な空気を一掃し。

 終わりを告げさせる。

 その様に。

 その意見に、ソーティも同意した。

 ただ不本意なのは、自らの力を貸す事が出来ない点。

 黙って待つしか無い存在である身。

 兄貴と、勇敢なお姫様。

 そしてそれを取り巻く優秀な者達。

 鍵を握るであろう、生ける伝説。

 他力本願となってしまい、悔やんでも悔やみきれない。

 そんなアリュースに、メイが声を掛ける。


「あんた達がこうして安全な所に避難してるから、兄である皇帝は思う存分動けるのよ。」


 あんた達の行動は、決して無駄じゃない。

 ちゃんと貢献している。

 そう言いたかった。

 それに対して『ありがとう』と繰り返すしか無い、2人の王子だった。




 こうしてソーティの逃避行は、一先ひとまず区切りを迎える。

 メイは出来る限り、ソーティの傍で過ごす事にした。

 それが、セントリアの治安に繋がると考え。

 そして、亡命メンバーの情勢が落ち着いた頃。

 クライス達は……。

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