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第229話 忌まわしきトンネルへと

 クライスとロッシェがヒーケルを出て、エリントへと向かう頃。

 ラヴィ達はウイムを後にし、トンネルの入り口へと向かっていた。

 帰路の旅の途中、十字路で見送ってくれたシェリィは。

 ウイムには居なかった。

 ドグメロの復興状況を見て来る様、フサエンに頼まれたらしい。

 コンセンス家屋敷の前で待ち構えていたフサエン達が、そう教えてくれた。

 これも魔法使いの指示だとか。

 それもそうだろう。

 ついこの間、北から南へ。

 グスターキュ側へ向かっていた者達が、再び同じ方向から歩いてきたら。

 頭が混乱するだろう。

 シェリィの挙動から、変な噂を立てられるかも知れない。

 メグなりに、気を遣ってくれたのだ。

 そのメグの指示で。

 スコンティとワインデューとを結ぶ街道の、拡張工事が行われていた。

 どうせ大挙して行軍するので、木を切り倒し幅を広げて適当に整地するだけ。

 後は軍が踏み鳴らして、街道に相応しい形へと変えてくれるだろう。

 その程度の認識。

 人2人分の幅だった細い道は、こうして3倍程に広げられていた。

 街道の途中で、トンネルへと向かう道と交わっている箇所は。

 そう言う訳で、前より目立っていた。

 急ピッチで行われている工事を見て、ここを通ろうと考える行商人は居ない。

 何かが起こる前触れに思えるから、危険だと判断する。

 それが通常の思考。

 逆にラヴィ達が目立つ事となる。

 フサエン達は、その懸念を拭い去る為。

 服を隠す『或る物』を用意してくれていたのだ。

 それは。




「何か臭い気がするんだけど……。」


 ボヤくラヴィ。

 行商人で疑われるなら。

 労働者の格好になれば良い。

 そう考えて、コンセンス家が用意してくれた服装は。

 給仕達の親戚が使用していた、お古の服。

 森の奥へ分け入る時には、新しい服では勿体無いのでお古を使っている。

 丁度拡張工事から戻った所だったので、無理を言ってそのまま拝借したのだ。

 適度に汚れも付いているので、カモフラージュには持って来い。

 コンセンス家屋敷の陰で、パパッと着替えると。

 フサエン達に一礼して、とっとと退散した。

 ゆっくりする時間は有った。

 何せ本来の時間のラヴィ達は、まだアウラスタに向かう途中。

 1泊しても問題無い。

 それでも急いだのは、ソーティの存在のせい。

 彼を早くグスターキュ側へと導かないと、色々不都合が生じる。

 申し訳無く思うソーティ。

 身体の汚れも落としたいだろうに。

 自分のせいで……。

 うな垂れるソーティを見て、アンが諭す。


「気に病む事は無いわ。これも必然よ。」


「そうでしょうか……。」


「そうよ。愚痴なら、アリュースさんと言い合いなさい。」


「……分かりました。」


 吹っ切れてはいないが、今の境遇を無理に納得させた。

 自分が早く兄さんの元へ辿り着ければ、彼女達の肩の荷も下りる。

 なら、そう尽くそう。

 そう自分に言い聞かせた。




 トンネルへと続く交差路へと到着したラヴィ達。

 そこはスコンティの西の端。

 ここまでは流石に、工事が終わっていなかった。

 途中で現場監督らしき人物から、『何処へ行く!』と止められそうになったが。

『先の様子を調査して来いと言われたもので』と、口から出まかせのアン。

 首を捻ったが、何と無く了承された。

 相変わらず、口が上手いわね。

 感心するラヴィ。

 少年少女の軍団が、工事の先へ分け入るのだ。

 普通は何としても止める事案。

 そうでは無かったのは。

 工事が突発的で、しかも納期が短かった為。

 軍関係の仕事と命じられては、文句の言い様も無い。

 言われるままに働くだけ。

 その忙しさが、ちょっとした判断力を鈍らせた。

 人手が足りないから、こんな子供に頼んだのだろう。

 現場監督は、そう思い込んでしまった。

 今頃嘘だとバレて、彼は誰かに怒られているかも。

 解任されないと良いけど。

 少し気の毒に思うラヴィ。

 しかしその気持ちを遮る様に、セレナがラヴィの腕を掴んで引っ張る。

 ボーッと立ち尽くしている風に感じたセレナが、早く姿を隠す様に促したのだ。

 引きられる感じで、トンネル方向へ倒れ込むラヴィ。

 地面に付く寸での所で、ソーティに支えられる。


「ありがとう。」


「いえ、これ位しか出来ませんから。」


 言葉を交わす2人。

 それは敵対する王族同士の会話とは思えない程、やんわりとしていた。




 更に細い道を、歩いて行くラヴィ達。

 元々ここには道は無かった。

 トンネルを完成させる為に出来た物。

 ヘルメシア軍が敵領地へ侵入した痕跡を隠す為、一旦は潰された。

 適当に雑草を生やし、木も何処からか移植された。

 しかし事態が変化し、再利用される事に。

 アリュースからの使者がここを利用する様になって。

 獣道程度の禿具合となった。

 それは人1人が通れる程度の幅。

 だから隊列は縦。

 先頭はセレナ。

 その上空にエミル。

 続いて後ろにソーティ、ラヴィ。

 一番後ろはアン。

 使い魔を背負っている2人が内側なのは、その特殊性故に。

 変な連れが居る王族なので。

 列の端を歩かせる訳には行かない。

 側面だけを気にしていれば、動物が襲って来ても使い魔の力だけで撃退出来る。

 そう言う判断。

 考えたのは、珍しくセレナ。

 アンでは無かった。

 補助ではアンが上だが、防衛ではセレナが上。

 なので、セレナの考えを採用した。

『ラヴィが立案しないとおかしいのよ』とは、アンの弁。

 人の上に立つと言う事は、高い判断力を要求される。

 それをラヴィに求めていた。

 でもそれは、今は酷なのかも知れない。

 何せ、クライスの事を結構気に掛け。

 余裕が無さそうだったから。




 トンネルの入り口に到着したラヴィ達。

 そこでアンが確認する様に言う。


「あれは持ってるわね?」


 それに応える様に、皆が差し出した物は。

 小さな木の板に、金の文字が書かれている。

 クライスがアリュースの使者へと持たせた、通行手形と同じ物。

 トンネルの中は、変な輩が通過しない様。

 クライスが仕掛けを施している。

 通行手形はそれを発動させず、すんなり通過する為の物。

 それを各自懐に仕舞い込んで、トンネル内へと入って行く。

 エミルは、アンの背中にピトッと張り付く。

 そうしないと、妖精の自分単独だと仕掛けが発動して弾かれるから。

 妖精に対しても容赦無し。

 それがクライス。

 あらゆる事象に対する備えなので、流石のエミルも『仕方無いなー』と割り切る他無い。

 ここを通る時、大体の者は篝火かがりびを掲げ前を照らしながら進む。

 つまづく物が無いと分かっていても、足元が覚束無おぼつかなくなるから。

 今回は、使い魔が松明たいまつ代わり。

 身体を発光させて、周りを照らす。

 すると、壁や天井のあちこちで煌めきが確認出来る。

 クライスが忍ばせた金だろう。

 それがあたかも、夜空に輝く星の如く輝いている。

『へえ』と言う感想を漏らしながら、進んで行くラヴィ。

 同じく、ため息を漏らすソーティ。

 窓から眺める空はいつも、こんなだったなあ。

 屋敷に閉じこもりがちだったソーティは、そう思い返す。

 これからは、自分の足で世界を知りたい。

 そう望む様になっていた。




 そうこうしている内に。

 無事、トンネルを抜けた。

 メインダリー側の入り口付近の壁には、こう彫られていた。

『〔メンティ〕から、無事開通』。

 メンティとは、小人族の大叔父様であるジューが前にエミルへ語った地名。

 掘り進める前は、そこはスコンティでは無かった。

 別の誰かの領地だった。

 領主が居なくなり、土地も荒れ果てたので。

 地名は忘れ去られていた。

 そしていつの間にか、スコンティへ組み込まれた。

 それをジューが痛み、『自分だけは覚えておこう』と敢えてそう呼んでいる。

 だから、その様な文章が刻まれている事に首をかしげるエミル。

 エミルから『ねえねえ、これどう言う事?』と尋ねられる。

 刻まれた地名に関する説明をエミルから受け、ラヴィ達も悩み出す。

 少なくとも、王族反対派の協力者だったのだろう。

 でなければ、国の為とは言えこんな事業を認可する筈は無い。

 何故なら。

 軍事機密に相当する、重要な施設を完成させたら。

 口封じとして消されるのは間違い無いからだ。

 事実、誰かが暮らしていた痕跡は。

 向こう側には無かった。

 逃げ出したのか、反対派に裏切られ消されたのか。

 ただ誰かは生き残ったらしく、忘れ去られるのが嫌で銘文の様に刻んだのだろう。

 そして誰も、これを消さない。

 通過して行った筈の、アリュース率いる精鋭部隊も。

 ならその理由は、アリュースの周辺に聞けば分かる。

 そう言う結論に至った。

 エミルの疑問は、アリュースの元へ向かうソーティに託される事となった。

 ソーティがエミルに言う。


「必ず疑問は解決するよ。」


「じゃあ約束ね。」


 姿はボーッとしか見えず、ラヴィ達を経由してでしか会話が出来ないが。

 それでもエミルの方へ手を差し出すソーティ。

 その手をギュッと握るエミル。

 相容れないかも知れない2人を、1つの約束が結んだ瞬間だった。




 こうして、メインダリーの都市〔パラウンド〕へと入ったラヴィ達。

 今回はハウロム卿と面会はせず、直接目的地へと向かう。

 ソーティはメイを伴って、セントリアへ。

 ラヴィ達はサファイを経由して、シルフェニアへ。

 だからソーティとは、ここでお別れ。

 お互い旅の無事を祈って、固い握手。

 そしてそれぞれ、向かって行った。

 ソーティの顔は凛々しく、逞しくなっていた。

 アリュースはきっと、驚く事だろう。

 急な来訪者に。

 その顔を見るのが楽しみな、ソーティだった。

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