第228話 寄せ集め、だがそれが良い
1枚1枚、丁寧に眺めるロッシェ。
壁に貼られた絵は、大小100以上ある。
それぞれに込められた願いへと。
思いを馳せながら、心に刻んで行く。
全てを見終わる頃には2時間近く経ち。
丁度メロが、2人の男を連れて家の中へ。
男達は、両手で衣装の山を抱えていた。
『手伝います』とロッシェも、一部を抱え。
皆で、町長のペントが居る部屋へ持ち込む。
テーブルから邪魔な物を退け、衣装を置いて行く。
それ等は、鎧のパーツと。
青いマント。
そしてフード付きの、黄色いローブ。
早速試着してみる。
ロッシェはガタイが大きい。
鎧も一式では無く、何通りかの寄せ集め。
なので、ロッシェの体に合わないパーツもあった。
そこは男達の出番。
トンテンカンテン。
腰に下げていた金槌で、修正を加えて行く。
男達は鎧職人では無いが、大工に近い仕事をしていた。
家の修繕はお手の物。
その要領を鎧へ応用したまで。
これで、ロッシェの鎧姿も整った。
後は腰程の大きさのマントを、背中に羽織って出来上がり。
だが寄せ集めなので、何処か不格好。
パーツによって。
色が銀色に輝いていたり、鈍い黒だったり。
ロッシェは統一感など気にしない。
寧ろ人間の団結を表現した、唯一無二の物の様に感じる。
満足するロッシェ。
一方クライスは。
羽織っては見たものの、首の辺りが少し窮屈。
後、裾が膝より長い。
袖も、手首がはみ出す程に微妙に短い。
それを見て、メロがローブを受け取ると。
修正を加える。
話では、『子供達の服をしょっちゅう直しているので、これ位は簡単です』との事。
子供達の面倒見が良いのは、ペント譲り。
スルスルと手直しをして行く。
そしてクライスがそれを試着。
何回か繰り返した後。
漸く完成。
結局、裾は膝より少し上に。
袖は、肘が隠れる程度に短くした。
ローブは誰かのお下がりらしい。
所々に継ぎ接ぎが有る。
宗主家が身に付ける物としては、相応しく無いのかも知れない。
でも今の立場では、立派な物を身に付けない方が良い。
目立たない格好としては、丁度良いのかも。
そうクライスは考えた。
着こなす2人の姿を見て、うんうん頷くペント。
安堵の表情を浮かべる、メロと男達。
「ありがとうございます。助かりました。」
そう言って頭を下げるクライス。
続いてロッシェも。
場に居る者達は皆恐縮する。
クライスは考える。
何か礼をしないと。
そこで、丁度良い物を思い付いた。
クライスはペントに尋ねる。
「出来そこないと言うか、失敗作のクレヨンは有りますか?」
「ええ。いっぱい有りますじゃ。」
「ではそれを用意して頂けませんか?」
「宜しいですが、何をなさるので?」
「それはまあ、お楽しみと言う事で。」
クライスにそう言われ。
研究室の様なあの突き当りの部屋へと、いそいそと足を運ぶペント。
付き添うメロ。
『それでは仕事に戻ります』と一礼して、男達は家を出た。
そのまま立っている2人。
ロッシェの着ている鎧は、端が鋭く尖っている部分を持ち合わせている。
ソファを傷付けまいとするロッシェの気遣い。
『それでは大変だろう』と、クライスが滑らかにしてやる。
『別に良いのに』とロッシェは言うが。
『これからの旅でもずっと立ち続けるつもりなら、それでも良いさ』と、クライスに返され。
何と無く了承する。
そしてストンとソファに座る2人。
2人のやり取りから数分後。
6本のクレヨンを携えて、ペントとメロが部屋へ戻って来る。
「こんな物で良いじゃろうか……。」
そう言ってペントは、テーブルへ1本1本置いて行く。
長さも太さもバラバラ。
色は、何ともどす黒い感じ。
これでは子供達に使わせられない。
なるほど、立派な失敗作だ。
それぞれにそっと、右人差し指を押し当てるクライス。
すると、どす黒かった色が金色へと変わった。
金色のクレヨンの出来上がり。
思わず『おおーっ!』と歓声を上げる、ペントとメロ。
作ろうと思えば作れるのだが。
肝心の金粉が、この辺りでは手に入らない。
全て貨幣用として回されてしまうのだ。
クライスがペントに告げる。
「これを使って、子供達が笑顔になってくれれば良いのですが。」
「十分です!子供達も喜びましょうぞ!」
ペントは満面の笑顔。
メロがポツリと零す。
「『使うのが勿体無い』って言われるかも。」
「そこは適当にだな……『親達が元気になるおまじない』とか何とかで良いじゃろ。」
「強引ね、もう。」
そう言って顔を見合わせ、微笑み合うペントとメロ。
その光景を見て、ロッシェは思う。
手を取り合って、みんな仲良く笑って暮らす。
人々の生活は、こうあるべきなんだ。
その普通を取り戻す。
頑張ろう。
そう心に言い聞かせた。
『是非また寄って下され』と、家の前で2人を見送るペント。
メロはペントの食事を取りに、自分の家へ戻る。
ペントは錬金術の研究をしているので、敢えて独り暮らし。
近所に暮らす息子夫婦達から、食事の提供を受けているのだ。
それは、家族に対するペントの気遣い。
錬金術の研究過程では、有害な物や毒の様な物も扱う。
万が一事故が起こっては、顔向けが出来ない。
そう考えての事。
今となっては。
クレヨン製造に没頭して、危険物の取り扱いは殆どしなくなったが。
まあ、それで生活が成り立っているなら。
家族も気にしない事にしたらしい。
ほのぼのエピソードなのか、そうで無いのか。
それは受け手に判断して貰おう。
ペントに手を振りながら、町の北を目指して歩いて行くロッシェ。
ふと、左隣を歩くクライスに尋ねる。
「俺はさあ、クライスの家に行った事が無いから分かんないんだけど。」
「何か聞きたい事でも有るのか?」
「いやあ。錬金術師って、みんなあんな感じの暮らしなのか?」
「研究一筋って事か?」
「そうじゃ無くって。『家族と離れて住むのが普通なのか』って事だよ。」
「そんな事は無いさ。家族ぐるみで研究している奴も居る。ただ、それは幸せな事例さ。」
「『危険と隣り合わせの場合は違う』って事か?」
「それも有るな。後は、『世間様に石を投げられる様な研究に、取り組んでいる場合』とかな。」
「うーん、良く分かんねえな。場合に因るって事か。」
「今はそう受け取っていてくれ。」
「分かったよ。」
クライスの答え方から、ロッシェは察する。
石を投げられるケースが有ったのだろう。
元より、金を生み出せると言う特殊能力を持っているのだ。
世間を避け、孤立して生活する。
それがクライスの日常だったのだろう。
ラヴィ達と旅に出て、かなり心境の変化が有ったらしいな。
妹であるアンの反応を見たら、嫌でも感付くさ。
だからロッシェは思う。
良かったな。
それだけを。
ヒーケルの北から、街道が延びている。
それは、町の出入り口が2つである事と同義では無い。
出入口は北に1つ。
そこからすぐ、北西と北東に真っ直ぐ延びている。
街道の途中に三叉路が有る訳では無く。
『町を出たら、とっとと行き先を決めやがれ』と言うメッセージ。
北西側をジッと見つめる2人。
どちらかと言うと、行き交う人は北東側の方が多い。
それは恐らく、ノイエル家の指示。
カラスの使いが来た事によって、ヅオウからの侵入を警戒しているのだろう。
迂闊に手薄にしてはならない。
陛下からの命とは言え、ナラム家も全軍を向かわせる事はしないだろう。
ある程度の戦力は置いて行く筈。
領土防衛の為に。
それはこちらも同じ事。
だから警戒を解かない。
状況がそう示している。
早くエッジスへ到達しないと。
そうクライス達は考え、一路エリントを目指し歩き始めた。




