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第227話 子供達が描いた顔には

「すっげえなあ……。」


 家の中に入って、廊下らしき場所に立ち。

 周りを見渡すロッシェ。

 廊下は、長さ約10メートル弱と言った所。

 その両側に、1つずつドアが有るのだが。

 ドア以外の壁にびっしりと、子供が描いたらしき絵が貼ってある。

 突き当りまで、隙間無く。

 その内の1枚をジッと眺めるロッシェ。

 人の顔だろうか。

 ピンクっぽい色で、縦横30センチの紙からはみ出しそうな大きさ。

 口が大きく開いているので、笑っているのだろう。

 ロッシェはそう感じた。

 他の紙も、多くは笑顔が描かれている。

 絵でも教えているのだろうか。

 この世界でも、染料や顔料は有る。

 それを用いて衣服の色付けをしたり、装飾品を彩ったりしている。

 それでもそれ等は、子供が簡単に扱える物では無い。

 何か特殊な物を用いないと、これだけの絵は描けない。

 突き当りに在るドアから香って来る臭いに、その秘密が有る様だ。

『お邪魔しまーす』と小声で呟きながら、恐る恐るロッシェがドアを開けると。

 そこには、見た事の無い物ばかりが置かれていた。

 かなり面積の広い、金属製の平たい机。

 正面突き当りの壁の真ん前に、ドンッと置かれている。

 その上に乗っている、透明な入れ物の数々。

 瓶も有れば、箱の様な物も有る。

 筒の様な細長い物も有るし、粉の重さを量る道具も見える。

 正面の壁には棚が有り、部屋の右隅には暖炉と煙突が。

 左右の壁には、大きな窓。

 換気用なのか、来客を確認する為の物なのか。

 その割には、少々部屋の中が油臭い。

 部屋のあらゆる物に、興味津々のロッシェ。

 対してクライスには、見慣れた風景。

 錬金術を扱うには、ごく自然な物ばかり。

 しかし、扱っている物質が少々特殊な様だ。

 医薬を作る為の薬品は見られない。

 寧ろ、染料や顔料の元となる物質が多く並んでいる。

 机の上にも、壁の棚にも。

 床を良く見ると、染料のこぼれた跡が幾重いくえにも重なっている。

 相当な数、実験をこなしているのだろう。

 そこでふと、ロッシェは思う。

 透明な瓶の中で、グツグツ煮えたぎった物質。

 ついさっき、仕込んだみたいだ。

 と言う事は、この家の主である町長は今……。




 ガタンッ!




 ドアの左側で、急に物音がした。

 ビクッとなって、警戒心を露わに振り向くロッシェ。

 そこには、うずくまっている老人が。


「いやはや、驚かすつもりは無かったんじゃが。急に入って来られてのう。」


 頭を掻きながら、立ち上がる老人。

『こっちに転がって行ったんじゃ』と言いながら、左手に握り締めた物をロッシェに見せる。

 それは直径1センチ、長さ7センチ程の青い棒。

 思わず尋ねるロッシェ。


「あのー、これは……?」


「見た事が無いかね、若者よ。【クレヨン】じゃよ。」


「くれ……よん?」


「そう。色の付いた粒を、棒状に固めた物じゃよ。これをこうすると……。」


 何処からか紙を取り出し、スルスルッと描く。

 5ミリ程のラインで、綺麗な青の円が鮮やかに現れた。

『おおーっ』と思わず歓声を上げるロッシェ。

『手に色が移るのが難点でな』とボヤく老人。

 そこへクライスが。


「側面に紙を巻けば良いのでは?」


「『それだと、短くなった時に紙を破くのが面倒臭い』と、子供達に文句を言われてのう。」


 頭を悩ます老人。

 試作品では不評だったらしい。


「なら、無色の練り物で側面を包み込むしか無いですね。」


「おお!その手が有ったか!確かに。」


 クライスのアドバイスに、納得する老人。

 クライスの手を取り、ブンブン振って礼を言う。

 早速試作に取り掛かるか。

 そう思った瞬間、何かを忘れている様な感覚を覚える老人。

 少し考えて……。

 そうじゃった!


「済まぬ。お客人でしたな。実験に夢中になっておったわい。」


 謝る老人。

『分かりますよ、その気持ち』と頷くクライス。

 実験に夢中になり過ぎて、アンの事をほったらかしにした事多数。

 その度に怒られたが、『錬金術師の定めだ』と適当に言い訳した過去を持つクライス。

 老人に同意するのも当然。

 ロッシェは困惑。

 クライスの波長と合う人間は珍しい。

 ロッシェにとっては、厄介な人物が増える事を意味するのだが。


「流石に、ここで話すのは気が引ける。客間へ移動するかの。」


 老人にそう促され、一旦廊下へ出る2人。

 改めて、玄関から見て左側の部屋へと案内された。




「まあ、適当に掛けて下され。」


 部屋に入るなり、そう勧めて来る老人。

 突き当りの部屋と違い、客間と称したこの空間には物が少ない。

 客人用であろうソファと。

 フルーツ盛り合わせのガラス皿が乗った、木製のテーブル。

 木目が鮮やかに見えて、中々の一品に思える。

 テーブルを挟んで、ソファの反対側に。

 年代物の様に見える、質素な飾りの椅子。

 この世界では珍しく、脚は4つでは無く6つ。

 その脚は、龍の形に彫られている。

 まるで龍を従わせている様な造形。

 それに越し掛け、話を始めようとする老人。

 既に着席している2人に向け、自己紹介をする。


「儂はこの町の町長をやっている、【ペント・オウレン】と言う者じゃ。この町の子供は誰も名前で呼ばず、単に『じい』と呼ぶがの。」


 続いて自己紹介する2人。

 クライスのフルネームを聞いて、『おお!』と驚きの声を上げるペント。


「これはこれは、宗主家の方でありましたか。みっともない所をお見せしましたのう。」


 恐縮するペント。

 それに応えるクライス。


「いえ。察しますに、子供達の為なのでしょう?」


 ロッシェも、それは気付いていた。

 廊下に貼られている絵。

 クレヨンなる物を作っている光景。

 それ等を考慮すれば、自ずと行き着く。

 恥ずかしそうに答えるペント。


「せめて何かしてやりたくて、子供達の為に絵画教室を開いておりますのじゃ。」


『向かいの部屋で、いつもは子供達が集まっておりますじゃ』と説明を受ける。

 話を聞くと。

 町の住民は今、忙しい。

 エッジスの方へ物資を運ぶ軍関係者へ、食事を運んだり。

 寝床を用意して、世話をしたり。

 皆、子供に構ってあげられない。

 ならば、町長として。

 相手をしてあげよう。

 そこで思い付いたのが、絵描き。

 そこには、子供達の心理状態が現れる。

 張られていた絵に笑顔が多いのも。

 親が早く家で落ち着いて、自分達と笑い合える様に。

 切実な願いが込められていた。

 たまたま錬金術師をしていたので、その研究を生かして。

 クレヨンを作った。

 レシピは何処からか《飛んで来た》らしいのだが。

 その通りに作ったら、出来てしまった。

 初めは赤、青、黄色の三色。

 子供達に『もっといろんな色を』とせがまれ、せっせと作っては絵描きを教えた。

 何だかんだで、充実しているらしいが。

 本音は。

 こんな事を必要としない時が、早くやって来て欲しい。

 ロッシェはふと漏らす。


「そんなに奥が深かったなんて……。」


 ただの落書きでは無かった。

 やはり意味は有ったのだ。

 そしてその願いは、これからの俺達の行動に掛かっている。

 そう考えたロッシェは。

 衣装に付いて、ペントへ願い出る。

『そう言う事でしたか』と、ペントは了承した。

 傍に垂れ下がっている紐を引くペント。

 すると、大きな鐘の音が町に響いて。

 誰かが家の中へやって来る。


「どうしたの、おじいちゃん?」


 部屋に慌てて飛び込んで来た影は。

 見かけはロッシェと同い年位。

 素朴ながら、キリッとした顔付きの少女。

 頭の後ろで束ねられているが、艶やかな黒髪なのは良く分かる。

 体型もシュッとしていて、町の中で人気者になりそうな風貌。

 ペントは少女に話し掛ける。


「済まんが【メロ】、今から言う物を用意してくれんかのう?お客人が必要とされておるのじゃ。」


「お、お客さん!それを先に言ってよ!」


 慌ててクライス達の方を向き、お辞儀するメロ。

 クライス達も立ち上がり、お辞儀を返す。

 ごにょごにょとペントに言われ、『分かったわ』と頷くメロ。

 再び2人に会釈した後、部屋を出て行く。

『器量は良いんじゃが、慌てん坊でのう』と呟くペント。

 このまま待っていても暇なだけ。

 クライスはペントと、錬金術関連の話をし出す。

 話に付いて行けないのは分かっていたので。

 メロが戻って来るまで、廊下に出ている事にしたロッシェ。

 改めて、貼られた絵の顔をジッと見つめる。

 それぞれ、たくさんの思いが込められているんだな。

 そう感じ、責任感が高まるロッシェ。

 その見つめる先は、遥か遠く……。

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