第225話 王族反対派、その現在
リゼやノイエル家へ、白く輝くカラスが来訪している頃。
他の12貴族の元へも、それは届いていた。
ガティにある別荘で暮らしていた、ムヒス家当主メルドの元へも。
心配そうに見つめる、娘のハリー。
メルドは旅の支度を始める。
そしてハリーに告げる。
「この時が来た様だ。長年の因縁に、けりを付ける時が。」
「分かってる。止めても行くんでしょう?」
「ああ。済まないな。」
「いえ……。」
好んで行くのでは無い。
あたし達を守る為。
だから止められない。
無事を祈って、ここで待つ事しか出来ない。
傍に居るリンツの手を、ギュッと握り締めるハリー。
気持ちが痛い程伝わって来るリンツ。
彼も同じ様に、メルドに対しては何も出来ない。
でも無力とは違う。
お嬢様を守る為、ここに残る。
そう言う決意。
メルドは、ウィドーに念を押す。
「くれぐれも、頼んだぞ。」
「ああ。きっちりと守ってやるさ。安心すると良い。」
魔物のウィドーは、カラスを見て畏れ慄く。
使い魔となって、魔法使いからこちら側への滞在を許されるのが慣例だが。
そうでは無い身。
その魔法使いから、ここでの護衛を命ぜられた。
言いなりになるのは癪だが、ここで恩を売って置けば自身の身も安泰となる。
そう言う打算が、ウィドーの頭の中に有った。
ハリーはウィドーに、父親の護衛を頼みたかったのだが。
魔物を連れていると、逆に怪しまれる。
なのでウィドーも、事実上の留守番。
後は、そろそろガティに到着するであろう3騎士の迎えを待つだけ。
彼等も町中で、作戦発動を聞きつけている事だろう。
足取りも早くなっているかも知れない。
そこは焦らず、じっくりと。
居ても立っても居られなくなり、メルドの旅支度の手伝いをするハリーだった。
同じ頃。
青ざめた顔をしている者達が。
支配地域〔ヅオウ〕の中心都市、〔デンド〕。
そこに屋敷を構える、支配者のナラム家。
その当主【パップ・エス・ナラム】と。
王族反対派として、斡旋業者の元締めとして。
ナラム家の屋敷に出向いていた、チンパレ家当主【オフシグ・ノイン・チンパレ】。
両者はケミーヤ教幹部〔セメリト・ケイシム〕と、作戦の打ち合わせをしていたのだが。
白いカラスが天井をすり抜け、パップとオフシグの目の前に舞い降り。
封筒を落とす。
ギョッとし、対処に困る2人へ。
セメリトは促す。
「さっさと拾った方が良いぞ。でないと……。」
そう言われ、慌てて拾い上げる両者。
それを確認し、消滅するカラス。
両者は封を解き、中から紙を取り出すと。
まじまじと見つめる。
そして大きくため息。
パップが先に声を発した。
「不味い事になったな……。」
「ああ。軍の招集を掛けて来やがった、あの小僧。」
皇帝を小僧呼ばわりする両者は、共に40才代。
王族のボンボンだと舐め切っていた。
こちらには何も手出し出来まい。
そう思い続けて来た。
だから、前に開かれた評議会で《暗殺未遂》を打ち明けるなど。
想定して無かった。
皇帝自らアクションを起こして来る。
それはこちらの動きを読まれていると言う事。
強大な魔物を召喚する。
その作業を加速させねばならない。
そう焦り始めた時、ダイツェンで動きがあった。
そしてそれ以来、アストレル家当主エルスは黙りを決め込んだまま。
ムヒス家は連絡が取れず、ここも怪しい。
ゲズ家は滅ぼした筈だが、何故か領地はクメト家の管理下に置かれつつある。
そこへ今回の知らせ。
しかも発信地は、ゲズ家の領地だったツァッハの中心都市ウタレド。
12貴族の半分近くを占めていた王族反対派、それが今ではたった2つ。
完全に追い込まれている。
そしてその裏に見え隠れする者達。
錬金術師が手を引いているのは間違い無い。
それも、強力な使い手が。
となると、宗主家が直々に動いている……?
この場に居る3人は皆、そう考えていた。
ならば、ここへ攻め入って来るのも時間の問題。
これからの対応の仕方を誤れば、一気に潰される。
何せ、魔法使いに皇帝の手紙を持って来させるのだ。
魔法使いは王族側へ付いたと、判断せざるを得ない。
しかも、ここに居ると誰にも知らせていないのに。
オフシグの元へ、しっかりと届けられた。
動きが筒抜け。
こうなると、何処に居ても同じ。
こそこそ隠れる必要も無い。
それなら、堂々としていようじゃないか。
折角の皇帝の招きなのだ、傍でじっくり観察して。
暗殺の機会をうかがわせて貰う。
それ位、良いだろう?
オフシグは不敵に笑っている。
そこへ、セメリトが忠告する。
「余り嘗めてかからない方が良い。足元を掬われるぞ。」
「そんな事分かっておるわ!いちいち言うな!」
お前に言われんでも、それ位。
そう言いた気な、オフシグの反抗。
『やれやれ』と言った表情のパップ。
『それなら、こいつを付けよう』と、セメリトが呼び出す。
《それ》はオフシグへ挨拶し、その右側へ回る。
セメリトは『あれを使え』と、オフシグに指示する。
『だから先に言うなと……!』と偉そうな口を利きながら。
オフシグは部屋から退出する。
それを見て、『さて、俺もそろそろ……』と言いながら席を立ち。
部屋を後にするセメリト。
残されたパップも。
旅立つ準備を。
仕える者へ『兵の手配を』と命じ、部屋を後に。
伽藍堂となった部屋には。
カラスが齎した手紙のみが残された。
ナラム家の屋敷、その離れにある蔵。
何の変哲も無い様に見えるが、中に収められている物は。
転移装置。
ここと、チンパレ家屋敷に在る蔵とを結んでいる物。
居場所がバレているとは言え、ヅオウから出発する訳には行かない。
世間では自分は、ここを訪れていない事になっているのだ。
自分の屋敷から、ガティに在る別荘を通じて。
各地に配置してある斡旋組織へ、指示を出している。
そう言う体。
こっそり行き来する為、偶に転移装置を使用している。
しかし何度利用しても慣れない。
意識がグニャアッとなる感覚には。
いつもの様に、錬金術師から魔力を注入される。
右肩に乗せた魔物を通じて。
そうやって疑似乗っ取りを作り出し、ワープを可能にしているのだ。
それに対応出来る能力を保持した魔物は、1体しか居ない為。
他の者はそれが使えず、魔物はオフシグ専用となっていた。
何度もそんな目に会っているせいか、魔物は元気が無い。
そろそろ限界の様だ。
「後一度、いや二度か……。」
そう呟くオフシグ。
その瞬間、姿が消えた。
と同時に、セメリトから遣わされた奴も同様に飛んで行った。
役目を終えた錬金術師は、静かに蔵の扉を閉じた。




