第217話 恨み、それは深く
絶滅していなかった。
メグの、その言葉だけで。
この場を凍り付かせるのには十分だった。
自分達の欲望の為だけに、妖精を襲い命を奪って行った奴等。
その生き残りが居たとは。
思わずラヴィが発する。
「だ、誰が……どうやって……?」
「そんな事、今知ったって無意味さ。過去の出来事なんだから。重要なのは《生き残りが居る》と言う事実さ。」
「それはそうでしょうけど……。」
流石のラヴィも言葉に詰まる。
その先は、察して余りある。
メグが続ける。
「その生き残りは、憎悪を激しく持った。当然だよね?グレイテストの血脈が自分だけでは無いと知った上に、その連中まで自分達を攻撃して来たんだから。」
「そうですな……。」
テノもそう言う他無かった。
攻撃して来た中には、グレイテストの曽ての弟子達も含まれていた。
完全な裏切り。
そう思ったのだろう。
憎しみは増すばかり。
まるで試す様に。
そんな事実を次々と突き付けられたら。
取る方策は1つ。
仇討ち。
完璧なまでの。
メグは続ける。
「生き残りは誓った。『裏切り者と親の仇を、全員消し去る』と。そこから隠密行動が始まった。」
メグが解説を始める。
その内容は以下に。
グレイテストの、『仲間を増やして倒す』と言う策は失敗した。
もう他人は信用出来ない。
そこで方針を変え、血脈を強化する事にした。
具体的には。
簡単。
子孫の数を、物理的に増やすのだ。
生めよ育てよ。
その精神で、一族の増進を図った。
何代かに亘って、その方針を取った結果。
或る事に気付く。
何故か、『女の子しか生まれない』のだ。
それは、元となった男に掛けられた術式。
男は生まれず、血統は歴史から姿を消す。
社会的に抹殺する術だった。
連中はそれに挫けず、逆に利用しようとした。
女しか生まれないなら。
嫁として有力者へ嫁がせ。
わざと娘ばかり生ませて、その血も消してしまえば良い。
それに側室としてなら、王族へもスパイを潜り込ませられる。
呪いを巧みに利用した、貪欲な策。
それは一時成功した。
現に、潜り込んだ幹部がグスターキュ帝国を滅ぼす案を皇帝に進言し。
それに基づいて、12貴族の中から間者を敵地に忍ばせた。
邪魔な血筋を優先して。
そして皇位継承権を持つ者達の抹殺を図る。
或るタイミングで。
それが今。
しかし。
魔法使いがあの男に、未来の出来事を語った時。
その呪いの事も、実は打ち明けていた。
『望むなら、解呪しよう』と。
しかし男は断った。
それが自分に出来る償いだと。
でも出来るなら。
遠い未来、奴等が大規模に動く時。
王族の血は絶えぬ様、期を見計らって解呪して欲しい。
男はそう望んだ。
魔法使いはそれを受け入れた。
そして然る時期に、解呪を行った。
これも、今に該当する。
お陰でこうして、有力者の血統は保たれている。
向こうの目論見は儚く消えた。
ここまでメグが説明すると。
やはり、納得の行く部分と行かない部分が生じる。
ケミーヤ教がやたら縁組みを勧めていたのは、これが理由。
そこは納得した。
しかし、断絶を防いだ血筋とは……?
当然の疑問。
そこでメグが、具体例を挙げる。
「ここへ来るまでに、出会っている筈だよ?『妖精や精霊が見える者』に。」
「「「あっ!」」」
それを聞いて、アンやセレナが思い出す。
敵襲とそれによる火災で、両親を失った者。
コンセンス家当主の〈フサエン〉。
彼はエミルが見え、火の精霊と心を通わせていた。
精霊が見えるのは、母の血によるもの。
祖父であるエルベスが、そう言っていたらしい。
つまり、フサエンの母親は……。
メグが答える。
「彼女は逃げ出したんだ。政略結婚が嫌でね。それで命を狙われた。」
「そこを、通りがかったフサエンのお父さんに助けられたのね……。」
「そう。それと同時に、コンセンス家も狙われる事になった。」
セレナの相槌に、そう返すメグ。
フサエンの母諸共、コンセンス家を抹殺する為に。
ドグメロの町を襲った。
ケミーヤ教の手先が。
筋は通っている。
通っているだけに、その事実が一同には辛かった。
町を消滅させる程の狂気。
それにどっぷり浸かっているケミーヤ教。
やはり放っては置けない。
そうはっきり思う一同。
メグが更に続ける。
「今ケミーヤ教を率いているのも、子孫の女だよ。全く悪趣味だよね。」
「何がです?」
アンが尋ねる。
それに答えるメグ。
「だって自ら《ワルス》って名乗ってるんだよ?【悪さをスる者】って。完全に当て付けだよね?」
「そうか!それで……。」
道理で変な名前だと思った。
自分がリーダーなら、もっと怪しまれない名前にする。
ラヴィはそう思う。
名付けのセンスは自分にも無いけど。
ここまでの話をおさらいすると。
現状で起きている事は、要するに痴話喧嘩なのだ。
錬金術師の血統の中の。
それにこの世界が巻き込まれた。
盛大に。
だから、責任を取るのは必然的に……。
メグが皆に言う。
「分かって貰えたかい?ボクがクライスに会いたがった訳を。」
「え、ええ。」
ラヴィはそう返事をするが。
それではまるで。
この世界をこんな風にした責任、それを。
一人の人間へ押し付けている様に感じる。
到底納得出来ない。
ラヴィとテノ、それにソーティは。
国を預かる王族として。
セレナとロッシェは、巻き込まれたと言う感覚とは程遠く。
道理を貫きたいだけ。
アンは宗主家の人間として、妹として。
承服出来なかった。
背負うなら、私も一緒に。
エミルも、仲の良い友達を見過ごす事は出来ない。
妖精を救ってくれたのがクライスの先祖なら。
うちも、恩を返す義務がある。
それぞれニュアンスは違うが、クライス1人に背負わせる事は絶対反対。
意見が一致した所で。
「そこでだ。これから皆、それぞれ動く事になるんだけど。ボクから1つアドバイスしよう。」
そして続けた、メグの言葉は。
「良く覚えておくと良い。【終わりは始まりにある】。これが全てさ。」




