第216話 『2つ目』
クライスの話は、まだ続く。
2つの黒歴史の内、1つを語ったに過ぎない。
もう1つの内容とは……。
現在のヘルメシア側へ渡った、始まりの錬金術師の息子。
宗主家を追放され、仲間集めを画策し出した頃。
当初は、現地の人間に熱狂的な歓迎を受けた。
男に対して心酔する者も少なく無く。
中には、強引に関係を迫って来る者も居た。
そして、男は事もあろうに。
或る妄信的な狂信者と、一夜限りの関係を持ってしまったのだ。
一度きりの事だったので、その後すぐそこを離れた男は気にも留めなかったが。
その女は、男の子供を身籠っていた。
女は男を【偉大なる者=グレイテスト】と崇め。
事実上の隠し子であったにも関わらず。
男からの授かり物として、生まれた子供を神聖化しようとした。
余りに身勝手な行動に、熱狂的だった信者達も段々冷めて行き。
女の元を離れて行った。
そして少数となったそのグループは。
狂気的な行動へと出る。
多勢に無勢は、グレイテストが敗北した時と同じ。
数の優位を覆すには、正攻法では無理。
そう考えた女は、子供と孫に或る事を命じる。
それが、《妖精の持つ道具の奪取》。
不思議な力を持つそれ等をかき集め、宗主家が組織する錬金術師連合に立ち向かおうとしたのだ。
まず開闢の地として、女が男と出会った場所を占拠。
元々そこは。
男が錬金術を普及させようと選定していた、魔力の噴き出ている場所。
謂わばパワースポットだったその地で、地面から限界を超えた魔力を吸い尽くし。
その反動で周りの草木が枯れ、砂漠と化した。
魔力を蓄えた後、妖精の暮らす場所へ赴き。
『友達になろう』と適当な言い訳をして、中へ潜入。
荒らし回った挙句、何も見つからなかったので。
妖精に道具を差し出す様、脅迫した。
『従わないと、お前達を絶滅させる』と。
『人間は共存する仲間だ』と思っていた妖精達は混乱し。
慌てて逃げ出した。
それを追い詰め、片っ端から皆殺し。
そうやって、妖精達の安寧を奪って行った。
妖精が、錬金術師の集団に攻撃されている。
そう知らせを受けた宗主家は激怒。
すぐさま『妖精側に立ち、参戦する』と宣言。
周りの人間達も、それに同調。
妖精は良き隣人。
皆そう考えていたので、残虐非道な行為を許せなかった。
対して、逃げ惑う妖精達は段々行き場を失っていった。
そこで、或る少年が提案し。
避難して来る妖精達を、一箇所で匿う事にした。
一帯の土地の所有者である、その少年と。
その中に存在していた妖精の暮らす場所の、事実上の統括者。
話し合いが持たれ、両者の意見が一致。
統括者は避難して来る妖精の受け入れを表明し、辺り一帯に触れを出した。
もう駄目かと思っていた妖精達は、そこへ殺到。
保有していた道具はこっそり隠し持ち、無事奪われずに済んだ。
妖精の態度、宗主家の態度。
全てに怒り狂った、男の隠し子と孫達は。
少数で在りながら、無謀にもそこへ攻め入った。
宗主家が率いる軍は、確実にそれ等を討ち果たす。
と同時に、背後から宗主家に対する援軍が。
現在のエッジスで余生を暮らしていた男は。
そこでも血筋を残そうと、子供を作っていた。
凄まじい術を完成させた後、弱り切っていた魔法使いが。
『今なら聞き入れられる』と、未来に起こる事を打ち明けていたのだ。
まさか、あの時のたった1回の過ちが。
恐ろしい事を引き起こすなんて、思いもしなかった。
これ等の事に備える為、子孫を残し。
内容を告げ、後を託したのだ。
男の正統な子孫に、改心した弟子達も合流し。
女の子供・孫達を、背面から追い詰めた。
挟み撃ちになった連中は、闇雲に打って出ては倒されて行く。
そして、一族諸共根絶やしにされた。
宗主家側と、兄の弟子側。
双方会見し、和解を宣言。
こうして、錬金術師のネットワークはより強固となった。
これまで出て来たモノの中。
避難して来た妖精達を受け入れたのが、今のシルフェニア。
地域の支配者だった少年は、妖精達の為に土地をシルフェニアへ寄進。
宗主家と共に、妖精達に感謝される事となる。
その少年の血脈が、現在のグスターキュ帝国の王族へと受け継がれている。
殲滅の報を受けた女は、失意の中死去。
対して男の正式な子孫は、エッジスへと戻り。
テューアの監視を続ける事に。
これで、黒歴史の2つ目は幕を閉じた。
聞き入っていた者の内。
納得する者有り、首をかしげる者有り。
『なるほどー』と言う顔をしていたのは、エミル。
母親である女王エフィリアの話が、漸く理解出来た。
メイの言っていた関係性も、裏付けされた。
ラヴィ達がシルフェニアで歓迎された訳も。
クライスが一時期一緒に暮らせた理由も。
全て繋がった。
旅に出て良かったー。
感慨深げにそう思う。
逆に首をかしげるのは、アン。
今の話だと、追放された錬金術師の子孫が今も居る事になる。
そんな話、聞いた事も無い。
両親に問い質したところで、恐らく返答は曖昧だろう。
だからこその黒歴史。
メイは『2つ有る』と言ったが。
良く良く聞いたら、繋がっているではないか。
それに対してメイは、『妖精を襲った連中がそんな奴等とは、ご主人から聞かされていなかった』と弁明。
メグも、メイの言葉に頷く。
使い魔に対して、全てを知らせる事など無い。
方々でペラペラ喋って貰っては困る。
そう言う事なのだろう。
メグの態度に、それ以上アンは追及しなかった。
ここまで聞いても、やっぱり不機嫌のラヴィ。
クライスにこう言った。
「聞いた限りだと、やっぱりおかしくない?」
「何処がだ?」
「だって、隠し子の方はみんな殺されちゃったんでしょ?」
「……。」
「それって血筋が断絶してない?ケミーヤ教の主張と食い違うんだけど。」
「確かに、それはそうだな。」
テノもラヴィの疑問に同調する。
クライスは苦い顔をする。
これ以上、自分の口から語る事は無い。
そう言いた気だった。
ラヴィは尚も主張する。
「ケミーヤ教側の動機が、まだ弱く感じるのよねー。」
その言葉に、とうとうクライスは俯き加減になる。
可哀想に思ったのか、メグがフォローを入れる。
「まるでクライスを責めている様に聞こえるよ?気持ちは察するけど、程々に。」
「そ、そんな事無いです!決して!」
慌てて言葉を返すラヴィ。
クライスが語ったのは、過去の事。
彼に責任は無い。
それにクライスは、宗主家の人間。
責められる道理が無い。
それでも疑問が残る。
真実を知りたい。
それはここに居る皆、同じ意見。
でもこれ以上新しい事は、クライスからは出て来ないだろう。
そう感じた一同は、メグに注目する。
錬金術師。
2つの国の王族関係。
そして、妖精と使い魔。
皆が見つめる中。
時が満ちたと言わんばかりの顔で。
メグはこう告げた。
「黒歴史は終わっていない。現在進行形。そう、【あいつ等は絶滅していなかった】んだ。」




