第209話 行き止まり?の村から
ウタレドを後にし、ハウへと向かう一行。
ソーティはまだテノに負ぶられている。
痩せ細って軽いのか、テノはそれ程苦痛の顔では無い。
その表情を気にしながら、歩みを進めるラヴィ。
『疲れたら言ってくれよ、代わるから』と、ロッシェも気を遣うが。
自分の責務であると言わんばかりに、テノは背負い続ける。
それは、これまで弟の苦悩に気付いてやれなかった兄としての償いでもあった。
漸くハウに到着。
宿を探すが、何せ辺ぴな所に存在する村だ。
それらしき建物は見つからない。
村の人に尋ねるが。
訪れる旅人の余りの少なさに、宿を開いては閉じるの繰り返しらしい。
何せ総数50人程の、規模の小さい村。
しかもその先は行き止まりの様な物。
シキロに入ろうとする物好きも、今は稀。
廃れそうな場所を守るので精一杯。
村人も、ウタレドの惨状は伝え聞いている。
だからと言って一行から解放の報を聞いても、喜ぶ様子も無い。
訪れる人の増加を、期待はしていないのだろう。
皆淡々と生活している。
その淡白な態度に、寂しさを感じる一行だった。
結局、宿として使われていた建物を借りる事となった。
適当に部屋割りを決め、1階の広い場所へ集まると。
この先の事を話し合う。
まずロッシェがメイに尋ねる。
「魔法使いが暮らす所って、どんな場所なんだ?」
「結構景色が澄み渡ってるわね。でも、端が見えない感じかしら。」
「何処までも続いていると思えば良いの?」
セレナが聞く。
メイは答える。
「そんな訳無いじゃない。空間は有限、でも境目が判別し辛いと言う事よ。」
「ふうん。具体的には何が有るの?」
何と無しにラヴィが尋ねる。
それに対するメイの答えは。
「やや大きな湖と、それを囲む草原と森。更に取り囲む霧、と言った所ね。」
「霧が境目を曖昧にしているのね?」
アンの相槌。
メイは頷く。
「そうなるわね。まあ詳しい情景は、行ってからのお楽しみって事で。」
そう言って、メイは強引に話を切り上げる。
自分ばかり質問攻めなのが嫌になったのだ。
代わりにクライスが発言。
「幻の湖に入るにあたっての注意点がある。良く心得て欲しい。」
クライスの言う事だ、かなり重要なのだろう。
皆身構えて、聞く体制を取る。
クライスが続ける。
「俺が良いと言うまで、進んでいる間は後ろを振り返らない事。でないと、次元の狭間に放り込まれるから。」
「そんなに危険なの!」
驚きの声を上げるラヴィ。
迷い込んだ者は別の場所から出て来る。
そう聞いていた。
そこから当然、命を落とす可能性は低いと見積もっていた。
なのに、クライスの念の押し様。
用心するに越した事は無いが。
そこまでのリスクが有るのか?
皆考えざるを得ない。
クライスは付け加える。
「あくまで、確実に到達する為の断りだ。そんなに深刻に考えなくても良い。」
「でも、変な空間に迷い込むかも知れないんでしょう?」
皆の身の安全を心配するセレナ。
『だからこそだ』と、クライスは強調する。
「湖に行こうとする者は、探し回る為に前ばかりを向いて後ろを振り向かない。だからすんなり外へ出られるんだ。でも……。」
一行は湖の存在を確信している。
しかも移動は多人数。
仲間の状態を気にする余裕が有るので、心配になって振り返る者も出るだろう。
特にセレナやアンの様な、気遣いの塊は。
その為の念押し。
それは『俺を信じろ』と言う、クライスの主張でもあった。
何が有っても動揺する事無く、ただ前を見据えて進めと。
クライスの忠告を胸に、それぞれ部屋へ戻ると。
疲れを取る為、精神をリフレッシュする為。
床に就いた。
翌日。
村人は、一行がシキロへ向かうと聞いて。
皆、口を揃えて『止めた方が良い』と言うが。
その度にメイが喋るので。
使い魔を連れていると知った村人は、『引き留めても無駄だ』と悟る。
その代わり、『変な事を起こさないで欲しい』と懇願する。
魔法使いの機嫌を損ねて、こちらへとばっちりが飛んで来るのを避けたかった。
『大丈夫よ、こいつが居る限りは』と、メイがクライスを見る。
彼は魔法使いと知り合いなのか?
そう思いながら、今度はクライスへ念を押す。
『分かっていますよ』と答えるに留めるクライス。
不安が拭えないながらも、旅の無事を祈って黙って見送る村人達だった。
ハウの村を出て、暫く歩いた所で。
クライスはおもむろに落ちている木の枝を拾い。
道を遮る様に、横に線を引く。
そして一行に向かって告げる。
「ここから先が、問題の場所だ。昨日言った事は覚えているな?」
クライスの言葉に皆頷く。
確認を終えたクライスが言う。
「じゃあ、進もうか。くれぐれも惑わされるなよ?」
意味深な発言。
その意味を、これから身を以って知るのだった。
森の様な茂みの中を貫いている。
そんな感じの道を一歩一歩進むたびに。
方々から聞こえて来る。
周りは大丈夫かー?
確認しなくても良いのかー?
何としても振り向かせようとする、低くドスの利いた声。
惑わせる為、近付けさせない為。
魔法使いの仕込みだろう。
暫く進むと、言葉が変わる。
行くな!
止めろ!
命令口調へと変貌。
幻の湖を探し回る者達は、これ等の誘惑を振り切って来たのだろうか?
それとも夢中で聞こえなかっただけなのか?
ラヴィは思いを馳せるが。
無駄だと知る。
クライスの忠告通り、前だけを見て進む一行。
縦1列の隊列は以下の順。
メイ、ロッシェ、セレナ、ソーティを負ぶったテノ、ラヴィ、アン、エミルが頭に乗っかっているクライス。
するととうとう、惑わせる声が聞こえなくなった。
『漸く終わりか』と一同ホッとするも。
『まだだ!油断するな!』と、最後尾からクライスの声が飛んで来るので。
気を引き締め直す一行。
更に進んだ時点で。
クライスが叫ぶ。
「止まれ!」
その声と同時に、メイが足を止める。
先頭が止まったので、前から順にその場で止まって行く。
メイは前を向いたまま頷く。
その様子を後ろから見る一行。
何かが起こる。
幻の湖に入る為の何かが。
そう思った刹那。
急に後ろへ引っ張られた。
何の抵抗も出来ず、成すがままに。
同時にメイも後ろへ飛んだ。
その時一行は、それぞれの背中に金の縄がくっ付いているのを見た。
そして一行の気配は、その場から消えた。
一瞬、目の前が暗くなったかと思うと。
皆地面に尻餅を付いてしまった。
ソーティを庇う様に身を捩るテノだったが。
結局尻餅は免れられなかった。
様子を確認したくて、振り返ろうにも。
まだクライスからの許可は出ていない。
やきもきするテノ。
そこへ待ち望んだ言葉が、クライスから発せられる。
「みんな、もう振り返っても大丈夫だ!着いたぞ、目的地に!」
それを示すかの様に、メイが皆の元を廻って『お疲れ様』と声を掛ける。
早速きょろきょろ辺りを見回す一行。
そこに広がる景色は。
荘厳そのものだった。




