第206話 疑惑の騎士
「あれ、確かメドムって……。」
「ここの南にある領地だな。」
ラヴィとクライスが確認し合う。
それにもしかして、ツレイム・ファルセと名乗るこの人物は。
デュレイがテノに、警戒する様進言した3貴族の1人。
《ゲズ家に出入りしていた者》である可能性が。
他に該当する者が居るのか、確かめる必要がある。
クライスがツレイムに尋ねる。
「失礼かもしれませんが、お教え願いますか?後見人と言うのは……?」
「その名の通り。ゲズ家の子供が成長するまで、私がこの辺一帯の支配を取り仕切ると言う者だ。」
「しかし先程あの司令官殿が仰った様に、ゲズ家の人間はもう……。」
クライスの発言に。
語気を強めて、ツレイムが反発する。
「滅んでなどいない!必ず何処かにいらっしゃる筈!」
「何方がですか?」
「そ、それは……関係者だ!」
「関係者?それは理由になりませんね。」
やんわりと否定するクライス。
関係者と言うのなら、当主と懇意にしていたと言うツレイムも関係者。
あくまでも血縁者でなければ正当性は無い。
クライスが追及する。
「あなたの様な形でゲズ家に関わられておられる方は、複数いらっしゃるのですか?」
「12貴族の一員なのだ、あちこちに付き合いもあっただろう。しかし後見人と正式に認められているのは、私だけだ。」
「それを担保する物は?」
「屋敷に帰れば、正式な文書が残っている。ゲズ家の家紋が刻印されている物がな。」
「でも、偽造出来ますよね?」
「何だと?」
クライスの言い分に、顔色を曇らせるツレイム。
わざと煽るクライスはこう続ける。
「『ゲズ家と仲が良かった』とアピールするあなたが、ゲズ家乗っ取りの為に偽造した。自由に屋敷へ出入り出来る立場なら可能かと、そう考えたまでです。」
「まあ!何て恐ろしい!」
クライスに何か考えが有るのだろう。
ここは自分も煽りに加わった方が良い。
ラヴィはそう思って、相槌を打つ。
馬上から見下した態度で話すツレイムが気に食わない、と言うのもあるが。
主張するならまず、馬から降りなさい。
話す相手と目線の高さを合わさなければ、信用はされないわよ?
暗にそう言っていた。
真意が伝わったのか、それとも長話になると思ったのか。
漸く馬から降りるツレイム。
そしてクライスに詰め寄る。
「さっきから、何を偉そうに!見た所、通りすがりの行商人だろうが!」
「その通りですが、何か?」
「『そんな奴に言われる筋合いは無い』と言っている!」
「ならば、ウタレドの現状を放置していたあなたも同じではありませんか。」
ぐっ!
クライスの反論に、言葉を詰まらせるツレイム。
ラヴィも続く。
「そうですよ。あなたが突っ掛かって行った方の率いるプレズン軍は、懸命に事態を打開しようと行動なさってましたよ?」
「あれは、私の手には負えないと思ったのだ!明らかに異常だったからな!」
「異常なら放置しても構わないんですか?それってただの見殺しですよねえ?」
「うるさい!」
「何処か……そう、王族に応援を依頼する事も出来ましたよね?」
「うるさい!黙れ!」
「王族の方は、この様な現状を知らないのでは?何故知らせないのです?」
「黙れと言っておろうが!」
ラヴィの煽りに、明らかに焦りの表情を見せるツレイム。
ここでクライスが、ある単語を織り交ぜる。
「実は《内通》しているのでは?王族の敵方と。」
「何ぃ?」
素っ頓狂な声を上げるツレイム。
びっくりした様な、図星を突かれた様な。
焦りが加速して行く。
クライスは続ける。
「ここに来る途中、帝都のガティに寄ったのですが。そこで不穏な噂を幾つか、耳にしましてね。」
「そ、それが?」
声が裏返るツレイム。
そこを畳み掛けるクライス。
「その中の1つに、メドムに関する事も有ったんですよ。何でも、『怪しい集団と繋がっているらしい』とか。」
「そんなの出鱈目だ!」
大声を張り上げるが。
その様な行為こそ噂の信憑性を裏付ける事に繋がると、ツレイムの頭ではもう判断出来なかった。
ただ相手の言葉を打ち消す為に、怒鳴って威嚇し場を混乱させようとする。
愚かな行為に走ってしまったツレイムに対し、追及の手を緩めないクライス。
「その集団から指示されていたのではないですか?ウタレドの監視を。異変があったので慌てて駆け付けた。違いますか?」
「違う!」
「邪魔をする者は排除。威厳を振り翳してでも。」
「そんな事は無い!」
「それで自分の地位は担保される。だから言いなりになった。」
「だから!」
そこまで言って、ツレイムは周りの目線に気付く。
プレズン軍に混じって、体力が戻って来たので救助の手伝いに加わっていた住民。
彼等からの冷たい視線。
何もしなかったくせに。
偉そうな口を利きやがって。
痛い程に心へ突き刺さる。
四方八方から疑惑の目を向けられ、耐えきれなくなり。
とうとう、その場で頭を抱えしゃがみ込む。
そして一言。
「違うんだ……。」
涙交じりの声。
どうして誰も信じてくれないんだ!
心の中で叫ぶツレイム。
ここまで来ると。
誠心誠意言葉を尽くさねば、私の存在が否定されてしまう。
そう思うまでに、ツレイムは追い込まれる。
ツレイムの前にラヴィが同じくしゃがみ込んで、ジッと目を見据えながら話し掛ける。
「偉そうな態度を取るから、そうなるのよ。分かった?」
「……分かった。」
タメ口なラヴィの態度に文句を付ける余裕が無い程、落ち込んでいたツレイム。
おうむ返しに返事をするのみ。
ラヴィの右隣にクライスもしゃがみ、ツレイムに問い掛ける。
「本当の事を話してくれますね?」
静かに頷くツレイム。
クライスは声を低くして尋ねる。
「ゲズ家の娘を逃がしたのは、あなたですね?」
!
思わずクライスの方を見て、前のめりになるツレイム。
何故、その事を……!
一転して、口調が柔らかになるクライス。
「お会いしたんですよ。『命を受け、ゲズ家の娘を探していた』と言う人物とね。」
「そうそう。立派な騎士さんだったわよねえ。」
話を合わせるラヴィ。
デュレイをこっそり持ち上げる。
クライスが続ける。
「曽て過ごしていた場所までは、確認したらしいですよ。今も何処かで生きておられるのでは?」
「そ、それは本当か?」
「ええ。調査をしていた方とは、暫く旅をご一緒しましたので。」
「そうか……。」
生きておられるのだな。
それが知れただけでも良かった。
ここで自分の人生が終わろうとも。
そう覚悟した。
そんなツレイムに対して。
スクッと立ち上がると、片手を差し出してクライスがニコッと笑う。
そして、こう言った。
「試す様な真似をして申し訳無い。敵かどうかの嫌疑が掛かっているのは本当なので、一芝居打たせて頂きました。」
「え?」
気の抜けた返事をするツレイム。
ラヴィも立ち上がり、手を差し伸べる。
「ここまで心が折れる様子なら、ウタレドに手を出せなかったのも本当でしょうね。さあ、立って。」
2人の手を握り、起こされるツレイム。
何が何だか分からない。
ラヴィが言う。
「ウタレドを開放したのは、私達なの。」
『ですよね?』と確認気味に問われたソインは、証明する様に頷き返す。
少しムッとして、クライスが付け加える。
「実際やったのは俺だがな。」
「分かってるって。」
クライスの肩を、ポンと軽く叩くラヴィ。
手柄を横取りする気は無いから。
そう言うつもりらしい。
気を取り直して、クライスがツレイムに尋ねる。
「ゲズ家の娘を逃がす前後からの、この辺り一帯の状況を話してくれませんか?」
「そ、それは良いが……。」
一介の行商人が、何故そこまで介入しようとするのか。
疑問だった。
ふと向こうを見やると、彼等の仲間らしい一団が。
その中の1人を見て、『あっ!』と叫ぶ。
見覚えの有る顔、姿。
何度か謁見した事が有るので、本物かどうかは見分けが付く。
まさか、あの方が……!
すかさずラヴィが耳打ちを。
『お忍びなの。バラしちゃ駄目よ。』
コクコク頷くツレイム。
そう言う事なら。
真剣な目付きとなり。
ツレイムは、クライスとラヴィに語り始めた。
事の経緯を。




