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第204話 繊細、微細、そして複雑

 まず初めに。

 クライスはこの地下空間が何処まで続いているか、手を叩いて音の反響を確認した。

 足で音を鳴らしても同様の結果。

 音は返って来なかった。

 つまり、それだけ奥深いと言う事。

 地上の穴から通路を通って地下空間へ出た事実と付き合わせ、3つの跡は1つの空間に繋がっていると判断。

 跡の位置関係から、ロイス達が居るであろう地点を割り出し。

 そこまで一気に移動する手段を考える。

 クライスが錬金した物は。




 ロケット。




 正確には、『ロケット自動車を模した物』。

 直径50センチ程、長さ4メートル程。

 後ろにロケットエンジンの様な噴射口を設け、そこから魔力を放出する仕組み。

 幸いにも、燃料は先の戦いでメイが確保していた。

 フレンツから吸収した魔力。

 クライスはそれに乗り込み、メイを前に乗せると魔力を注ぐ様指示。

 しかも一遍に。

 言われるままにメイは、本体へと魔力を注入。

 それが噴射口から勢い良く噴出されると。

 空へと飛んで行く様に、一気に加速。

 そのまま地下空間を、真横に突っ切った。

 それだけで空間の真反対に到達。

 途中の地面の凸凹でこぼこは、錬金術で滑らかにして回避。

 それでは、止まる時はどうするか?

 十分な加速を得られたと同時に、後方の噴出口を瞬時に前方へ出現させ。

 逆噴射の要領。

 それプラス、後方にパラシュートを作る。

 加速から停止までの間、1分も満たない。

 ロケット自動車の中で寝転んだ姿勢を取り、体に掛かる重力加速度Gを可能な限り軽減。

 減速し終えると、本体を金の軟体へと変え。

 壁との間に挟み、クッションとした。

 こうして壁を傷付ける事無くクライス達は止まり、ロイスの元へと辿り着く。

 消えた様に見えたのは、凄まじいスピードで移動しただけ。

 そしてその後も抜かりは無い。

 敵の姿を見つけると、軟体を金箔のチップへと変換。

 周りの景色はその時、煌めいていただろう。

 しかしそれを、敵の錬金術師とロイスは知覚する事無く。

 クライスの手中に落ちていた。




 移動の痕跡を消しただけでは無く、相手を騙す為。

 金粉に変え、体内へ送り込んだ。

 一辺の長さはナノレベル。

 肉眼では認識出来ない。

 それを大量に吸い込んだ2人。

 金粉は肺を通り、血流へと入る。

 そこからは、繊細なコントロールを要した。

 この時点でクライスは、どちらが術の発動者か判別出来ていない。

 ならば、一度に処理するのみ。

 脳漿のうしょうに金の微粒子を満たし。

 外部への脳波の漏れを遮断すると共に、幻を見せる為に脳細胞の電気信号をいじる。

 同時に心臓内部に金の塊を満たし、拍動を10秒程止める。

 これにより、全身の脈拍は止まり仮死状態に。

『2人が死んだ』と判定させ、ウタレドでの術を解除。

 長く心臓を止めると死んでしまう為、タイミング良く解放。

 再び金の微粒子とした後は、脳から心臓を経て。

 肺から再び吐き出させる。

 後はいつもの様に、金の縄として再利用。

 両手両足を真っ直ぐにして、グルグル巻き。

 ナノ微粒子群の自由な遠隔操作は、この世界ではクライスのみの芸当。

 宗主家の歴史でも、そうは居ない。

 彼ならでは、故に誰も防げない。

 ロイスが見た壁に激突する姿から、既に幻覚は始まっていた。

 唯一、飛んで来た時の衝撃波だけは本物。

 嘘の中に真実を少しだけ混ぜるのは、相手を騙す原則。

 こうして何が嘘で何が本物かを見分ける事無く、ロイス達は使用していた賢者の石を奪われ。

 抵抗出来ないまま、クライスの術中にはまったのだった。




 ここまでクライスは説明するが。

 スケールの大き過ぎる内容に、ほとんど付いて行けなかった。

 魔力を一気に放出させるのは分かる。

 しかしそれが何故、途方も無い推進力を生むのかが理解出来ない。

 そもそも敵方2人は、ロケットの姿を視認出来ぬまま気絶したのだ。

 分かる筈も無い。

 ロイスが理解出来たのは、その後の出来事だけ。

 遠くに居た筈のソーティが、トロッコでここまで来れた原理。

 クライスは地面に、深くてなだらかな窪地を作った。

 そして生み出したトロッコに、ペコ付きのソーティを乗せ。

 1メートル程の高さまでニョキッと土台が付き出た後、窪地へ向かってトロッコを滑らせた。

 使い魔は、魔法使いを通じてリンクし合っている。

 メイが毛を逆立て、これからクライスが何かをする事をペコに知らせる。

 慌ててペコは手足を蜘蛛の様に伸ばし、ソーティの腹に着地。

 済んでの所で、置いてきぼりを免れた。

 こうして1人と1匹は、窪地のへりをスーッと滑り降りた後。

 再び、なだらかな縁をスーッと昇って行った。

 位置エネルギーを運動エネルギーに、そして再び位置エネルギーに。

 簡単な物理法則。

 それを利用して、ソーティ達をこちらへ手繰たぐり寄せた。

 後は見ての通り。

 パラシュートで減速、自然落下。

 無事回収したと言う訳だ。

 しかし何故、縄梯子に近いソーティ達を連れて来たのか?

 その答えは、連れて来た原理を把握した時に気付いた。

 そう。

 自分達を外へ連れ出すのにも、同じ事をする気だと。

 ロイスが思い付いた時には既に、大きめのトロッコに乗せられていた。

 そしてその下から、金の土台が天井近くまでせり上がると。

 前に滑走路の様な滑り台が出現。

 一気に滑走して行く。

 これでは外まで届かないのでは?

 ロイスはそう思ったが。




 そこで、ゲイブーの出入り口付近で待機しているイェトの出番。

 メイはペコと同時に、イェトへも連絡していた。

 無事に事が終わったのは、ウタレドから発せられていた魔力の渦が消えた事で確信していたが。

 脱出方法で手間取る事が予想された。

 クライスは天井に穴を開け、滑り台の先を地上まで繋げた。

 しかも、トロッコの幅よりもやや広めに。

 周りの土地の魔力を借り、イェトは巨大化。

 滑り上がって来るトロッコへ向かって飛んで行く。

 そして一旦トロッコを上空から追い越した後、方向転換。

 下に潜り込んで背中に乗せ、地面目がけて飛び立つ。

 地上に出た後すぐに、イェトの魔力が尽きて小さなカラスの姿に。

 それと同時にクライス達は、またパラシュートで落下。

 結果的に、ゲイブーを通り越し。

 やや北の場所へ着陸。

 こうしてクライス達は、無事に地上へ帰還した。




 クライスとメイ、そしてペコとイェトは。

 未だ名前を名乗らない錬金術師と、ロイスを連れて。

 ウタレドへと向かっていた。

 遠くからズズーンと言う地響きと共に、大きな揺れを感じたが。

 クライスが穴を開け、辺りの魔力をイェトが吸い上げたせいで。

 地下空間が原形を保てなくなり、崩落したのだろう。

 役目を終えたかの様に。

『過ぎ去った事は気にしない』と言った風に進んで行く、クライス達。

 イェトは空を飛び。

 ペコは監視をする様に、錬金術師の右肩に。

 左肩にはメイが乗って威圧する。

 全く名乗らないので、メイとペコは勝手に【下っ端】と呼んでいた。

 そんなやり取りが耳に入らない程に。

 町が近付くにつれて、段々怖くなるロイス。

 自分が術を発動させていたと、住民が知ったらどうなるか。

 想像しただけでも恐ろしい。

 いっその事、殺されれば良かったのに。

 そこでふと思う。

 クライスの説明で、原理は理解出来なかったが。

 これだけの事をして見せるのだ。

 人を金に変えた方が、手っ取り早かったのではないか?

 どうしてそこまで、殺すのを嫌がるのか。

 疑問はロイスの中で大きくなり。

 とうとう我慢出来なくなって。

 聞いた。

 聞いてしまった。

 答えるとは思えない。

 ロイスはそう思っていたが。

 しかしクライスは、あっさりと答える。

 その言葉は、意外にも。




「《人殺しに飽きた》、それだけさ。」

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