第202話 或る女性達の過去と、その後
多大な魔力を消費した為、フラフラな状態のロイス。
地下空間から脱出する為、縄梯子を目指す。
ウタレドの西に在る、妖精の暮らした跡3つ。
ゲイブーとマヌガとヘトは、単なる地下空間への入り口に過ぎない。
実は、地下空間は1つのみ。
入り口からそれぞれ、迷宮と化した通路を通って地下へと繋がっていた。
斜めに沈んで行くので勘違いし易いが。
ゲイブーからは南向きに。
マヌガからは螺旋状に。
ヘトからは北向きに。
進む方向は概ね、その様になっている。
確かに、町がすっぽりと入る位の大きさでは有るが。
それは1つ分であり、妖精が3か所に分かれて暮らしていたのでは無い。
なので地下空間側の出入口は、ヘト側とゲイブー側とは思ったよりも近いのだ。
疲れているとは言え、鎧が無くなったので体が軽くなった。
相対的に見て、縄梯子が垂れ下がっているゲイブー側の出入り口には。
今のロイスでも1、2時間も歩けば着くだろう。
その道のりを、ロイスは淡々と歩く。
これまでの苦労を思い起こしながら、ロイスが一歩一歩歩く。
本来自分は、こう言う役目を負う身分では無かった。
ケミーヤ教幹部の孫として生まれ、将来を期待されていた。
僅かではあるが、グレイテストの血脈に連なる。
ケミーヤ教の上層で、グレイテストの血を引かない者は居ない。
或る意味、一族経営と言っても良い。
祖母は、重要な役目を負っていた。
ヘルメシア帝国の王族に側室として潜り込んだ、仲間からの知らせ。
曽て本拠地とし、教会を造って集団の長を崇めていた町に。
実は、妖精の遺産が残っていたと言う事を。
それを探る為、祖母がシスターとして赴任。
布教と称して、仲間集めもする事に。
そして遺産が、教会のステンドグラスだと言う事を知ったが。
帝都建設に伴い、皇帝の監視の目が厳しくなった事も有って。
ステンドグラスを運び出せなくなっていた。
ケミーヤ教の幹部は激怒。
赴任後、暫く経ち。
皇帝に一矢報いようと遺産を作動させ、負の魔力を教会へ向ける事に成功した時には。
祖母の殺害が、幹部会で決まっていた。
祖母は『外へ布教の旅に出る』と住人に嘘を付き、本部へ戻ろうと町を脱出したが。
途中で幹部により暗殺された。
所謂、口封じ。
その存在は、表の歴史から消えようとしていた。
ロイスの祖母は、実はもう物語に登場している。
祖母が脱出しようとする頃、町は既に〔スラッジ〕と呼ばれていた。
一行がスラッジから移動していた時、住人の一人だったネルがラヴィにした話。
その中で登場したシスターこそ、ロイスの祖母だったのだ。
ネルは、シスターの行方を案じていたが。
何とも悲しい結末。
ネルの願いは叶わなかった。
祖母が殺された頃。
ロイスは、王族を内部から切り崩す為の駒として動いていた。
独特の剣術を編み出して、ケミーヤ教の中で生き残っていたが。
『それだけでは実績として足りない』と送り出されたのだ。
要は、厄介払い。
祖母の件も有り、肩身の狭い思いをしていた。
ロイスが物心つく前に出て行ったので、祖母の顔は知らない。
知っているのは、母から聞かされていた事だけ。
自慢出来るとは言えない。
母の苦労する姿を見て来たから。
グレイテストの血脈は、何故か女だらけ。
手頃な男を集団に引き入れては、子供が出来たら用済み。
悲しくも捨てられる。
それの繰り返しだったらしい。
それに反発する様な素振りを見せた為、ロイスは出された。
この頃のケミーヤ教は、教義に疑問を持つ人間が増加。
一方的に嫁ぎ先を決められ、契約の証として子供を身籠る様迫られる。
教義を盾にして、政略結婚を盛んに行う。
そうやって、勢力範囲を広げようとしていた。
こっそり抜ける者も出ていたが、殆どが殺されたらしい。
そう成りたく無い。
なら、使命を全うするしか……。
実績を積んで、文句を言わせなくするつもりだった。
送られた先は、幼い王子の傍。
お守り役として仕える為、側室の口添えで正騎士を偽装。
度重なる王子への襲撃は、ケミーヤ教による自作自演。
幼いフレンツを信用させる為、撃退する振りをして華麗な剣捌きを見せつけた。
まんまと引っ掛かったフレンツ。
ケミーヤ教の信者として引き抜く事に成功。
フレンツの左目に埋め込んだ賢者の石は、ロイスのお古。
剣術の開発の為使い過ぎ、力を失いつつあった物。
錬金術を体得したフレンツは、調子に乗って得意気に術を乱発。
傍で見ていて、限界が近いのは分かった。
だから、ソーティに抱えられてマヌガに在る入り口へと着いた時。
フレンツの事を『どうでも良い』と思ったのだ。
自業自得。
その言葉が、これ程似合う人物も珍しい。
この時点で、ロイスはフレンツを見放した。
漸く縄梯子の袂まで来た時には、気持ちの整理が付いていた。
祖母と同じ様に、私も味方から襲われるかも知れない。
しかし、ウタレドで術を発動させているのは自分。
と言っても、仕組みを構築させたのは別に居て。
自分は作動のスイッチに過ぎない。
でも私を殺せば、魔力の吸い上げも出来なくなる。
そうやって身の安全を確保している。
殺害しようとする者は、ケミーヤ教の敵と見做される。
堂々と帰還出来る。
フレンツとソーティ、2つの駒を失ったのは痛いが。
王族の力を削いだのは事実。
自信を持って、私!
そう言い聞かせるロイス。
縄梯子を掴んで登ろうとする。
そこで気付く。
おかしい。
順調にここまで歩いて来たが。
2つの駒の姿を見ていない。
倒されたから、あの男がこちらへ来たのだろうが。
戦闘の跡が、この付近で見られない。
まさか、一瞬で消された?
それ程の技量があいつに有るなら、私もあっさり殺られている。
力の差は歴然としている筈。
なのに。
矛盾する事実。
頭の中がグルグル回る。
そして一瞬、意識が途切れた。
縄梯子に掛けた手は、無残にも離される。
それは、これからのロイスの未来を暗示する様でもあった。
所変わって、ウタレドの町。
一行が祈る様に、クライスの帰りを待つ。
すると。
空に掛かっていた雲が瞬時に消え去り。
立ったまま止まっていた人達が、次々と倒れ込む。
思わずラヴィが叫ぶ。
「やったの?クライスが?」
「どうやらその様です。」
セレナが反応する。
アンとロッシェが同時に動き出す。
アンは薬を持って、痩せ衰えた住民を助けに。
ロッシェはクェンドへ、人を呼びに。
町から飛び出すと、そこにはクェンドの兵士が何人か。
『詮索しない様に』と言うクライスの念押しが、妙に心に引っ掛かって。
『済まない』と思いながらも、司令官のソインが一行の後を付けさせていたのだ。
それが幸いし、既に兵士が伝令に走っていた。
『お手柄ですよ』と、兵士に声を掛けられるロッシェ。
しかし、自分は今回何もしていない。
仲間を疑ってしまっただけ。
何て事だ……。
あいつはいつも、俺達の期待を裏切らなかったのに。
敵の言葉に動揺してしまった。
猛省するロッシェ。
気を取り直して、残りの兵士達と共に町へと戻って行った。
後に【ウタレドの奇跡】と呼ばれる、住人の救出劇。
何故、術は解除されたのか?
クライスとメイ、そしてゲイブーの出入り口で待機している筈のイェトの行方は?
1つずつ、疑問を解決して行こう。




