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第200話 女騎士、その素顔は

 進み出したのは良いが、何処まで続いているかは判別出来ない。

 試しにクライスは、顔の前でパンッと手を叩いてみるが。

 反響は無し。

 足をバンッと叩き付けてみるも。

 これも反響無し。

 相当奥は深いらしい。

 ならば。

 クライスは《或る物》を錬金する。

 それにまたがり、メイを自分の前に乗せる。

 さっきの戦いでフレンツから奪い取った魔力を、これに注ぎ込む様指示。

 言われるままに、メイが魔力を込めると。

 ヒュンッ!

 それ等の姿が消えた。




 広い広い地下空間の中。

 その端の方で、錬金術師が天に両手を掲げている。

 少し距離を置いて、護衛する様に胡坐あぐらいて座っているロイス。

 剣を前に突き立て、その刃に移る光景を腕組みしながらジッと見ている。

 誰かを待ち受けているかの様に。

 その時。

 ロイスから錬金術師を見た方向。

 荒々しく削った後の残る壁に、何かがぶつかった。

 と同時に、ブアッと風が舞ったかと思うと。

 それから遅れて、衝撃波がゴウッと2人を襲う。

 壁からも『ドーン!』と言う音が。

 ガラガラと崩れる壁。

 崩落は幅5メートル程、高さ4メートル程。

 小さなトンネルの入り口位の大きさ。

 流れ出た土砂の量は凄まじく。

 壁から10メートルは離れていた筈の、錬金術師の足まで到達。

 ひざの上まで土をかぶった錬金術師は、流れて来る土砂の勢いに押されて転倒。

 そのまま腰から下を、土色つちいろに埋め尽くされた。

 奥深くえぐり取られた壁。

 その崩落した跡を、無言のまま観察するロイス。

 堆積した土砂の中から。

 まず、スポッとメイが這い出す。

 続いて、這い出した跡からクライスが顔を出す。

 一旦泥の中に顔を戻すと。

 今度は両腕を出す。

 穴の縁をガシッと掴んで、懸垂の要領で一気に体を持ち上げる。

 そして1人と1匹は、壁が崩れて出来た斜面を転げ落ちる。

 そしてむくっと立ち上がり、パンパンっと土埃つちぼこりを払う。

 一連の出来事を冷静に見つめていたロイスが発した、最初の言葉。

 簡単に一言。


「予想通りですね。」


「何がだ?」


 胡坐を崩さないまま話すロイスに、クライスが問う。

 ロイスはそのままの姿勢で答える。


「《あれ等》では止められないと、初めから思っていました。」


「あれ等とは酷いな。一応主君なんだろう?」


「そうですね。一応はね。」


「お前等の本音は、ただの駒なんだろうけどな。」


「理解しているのなら、一々尋ねないで欲しいものです。」


「済まんな。確認しないと気が済まない性分でね。」


「それで?我々がここで何をしているのかも、確認したいのでしょう?」


「出来ればな。親切に教えてくれるのかい?」


「これでも立派な騎士ですので。まずは名乗りましょうか。」


 そう言って、おもむろに立ち上がる。

 前に突き刺した剣を取り、切っ先をクライスの方へ向けて。

 名乗りを上げる。


「私はフレンツ・ノイエ・シルベスタ様の配下、騎士のロイス・ヘイトルーバと申します。お見知り置きを。」


「俺はクライス。行商人だ。」


「それは仮の姿でしょう?ただ者では無い事は分かっています。きちんと名乗って貰わないと、殺した後に寝覚ねざめが悪いですから。」


「それはお互い様だろう?《自称》騎士様よ。」


「と言いますと?」


「錬金術が主体の騎士なんて、聞いた事が無いからな。そっちが本分なんだろう?」


「へえ。そこまで見透かしますか。」


「その丁寧口調にも飽きて来たんじゃないか?ここまで来たんだ、お互い晒そうじゃないか。」


「良いでしょう。あなたに殺し合いをする覚悟がお有りならね。」


 ジロッと見合いながら、話す2人。

 主導権は渡さない、と言う心理的駆け引き。

 クライスの足元で、それを見守るメイ。

 お互い、る気満々。

 でないと簡単に食われてしまう。

 ピリピリと張り詰めた空気の中、本当の名乗りが。




「私はケミーヤ教元幹部の孫、【ロイエルス・ヘイベンスタン】だ。ロイスと呼んでくれたまえ。」




「俺はクライス・G・ベルナルド。《幻の錬金術師》と呼ぶ奴も居るがな。」




「グスターキュ側に居る宗主家の者か。私の腕を試すには格好の相手だな。」


「余程自信が有る様だな。何処から来るんだ?その驕りは。」


「驕りでは無い。事実さ。」


 両者共、不敵に笑う。

 その隙に、メイが倒れている敵の錬金術師の様子を見る。

 メイがクライスに叫ぶ。


「こいつ、気絶してるよ!でも……。」


「ウタレドから感じる魔力の放出は止まっていない、だろ?」


 クライスの言葉に、『「そう!そうなのよ!』とメイが答える。

 こいつがやってるんじゃないの……?

 まさかと思い、ロイスの方を見るメイ。

 ニヤリと笑い、得意気に答えるロイス。


「私だよ、発動させたのは。そこに転がっている奴は、それを維持する為の生贄いけにえさ。」


「何ですって!じゃあ、あれを解除するには……!」


「そう、私を倒す他無い。まあ無理だがな。」


「ほう、断言までするとは。」


「ただの自惚うぬぼれ屋では無いのでね。こんな事も出来るのさ!」


 ロイスがそう言うと、剣先からビュッと何かが飛び出てクライスの頬をかすめた。

 ギョッとするメイ。

 使い魔の目でも捉えられなかったスピード。

 食らえば致命傷になりかねない。

 ロイスが高らかに叫ぶ。


「どうだい!私が編み出した剣銃の味は!」


 そして次々に、ビュッビュッと弾丸を飛ばすロイス。

 クライスの右腹を、左腕上部を、右足の甲を、左足の太ももを。

 楽しみは最後に取って置く。

 すぐに楽にはさせない。

 じわじわと、なぶり殺しに……。

 クライスとの距離を5メートル程に保ちながら、ゆっくり移動するロイス。

 ロイスの方を見るクライスが、壁を背にする様に。

 見抜いているのか、そうはさせじとクライスも摺り足で移動する。

 壁を横にしながら、2人は右に左にと平行移動を繰り返す。

 その内に、クライスは袋小路へと追い込まれる。

 チャンス!

 ロイスが剣先を錬金術で瞬時に伸ばす。

 それが、開戦の合図となり。

 戦闘が始まった。

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