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第20話 市場の町の跡継ぎ

「これは……。」


 豪商フチルベが取り仕切る町シウェに着いた一行は、見慣れない光景を目にした。

 そこは、活気溢れる市場。

 町は、店と仲買人用の宿がずらりと立ち並んでいた。

 店で取り扱っている物は様々。

 特産のフルーツもあれば。

 ここでは貴重な金属製品などの生活品、農耕用の道具まであった。

 商品は一旦この町に集められ、ここで買い取った仲買人の手によって各地に送り出される。

 スーパーと問屋が同居する様な感じ。

 供給の一大拠点と言った所か。

 しかも、この仕組みをここに作り上げたのは〔1人の商人〕。

 そう、豪商フチルベだった。

 その規模に見合った商才の持ち主らしい。

 なるほど、リンゴの販売権を握りたくなる気持ちも分かる。

 しかし、クライスには動機がそれだけとは思えなかった。

 直接農家と取引すれば、牛耳るのも簡単。

 わざわざ領主の元まで出向くまでも無い。

 何故その様な大義名分を欲するのか。

 まだ何か隠れている、この町の中に……。




「いらっしゃい。」


 台所用品を取り扱っている店に寄る一行。

 行商人を装っているので、売買するついでに情報収集。

 ここには各地から色々な人が訪れているので、情報集めにも適している。

 クライスはかつて定住していた時、両替商と情報のやり取りもしていたので。

 その点は抜かり無かった。


「ほう、ちょっと見させてもらおうか。」


 クライスが差し出したフライパンを手に取り、品定めをする主人。

 一行が持ち歩いているダミーの品物は、実はアンが錬金術で精製した物。

 日頃使っていた物を参考にしているので、主人も良い顔をしなかった。


「あまり使い勝手が良くないね。商品にならないかも知れないから、買い取り価格はこんなもんだよ。」


 そう言って提示された額は、通常の7分の1。

 ここで交渉人がアンに替わる。


「どこが使いにくいんでしょう?参考までに聞かせて下さいませんか?」


「こことここ。後この辺がねえ。」


「ふむふむ。」


 アンと主人が話し込む。

『分かりました』と言うと、アンはフライパンにそっと触れる。

 たちまち修正され、『これならどうでしょう?』とアンは主人に尋ねる。

 驚きを隠せない主人。


「あんた、どうやったんだい?」


「少し錬金術の心得がありまして。」


「じゃあ、ここに飾りとか作れるかい?そうすれば高値で買おう。」


「分かりました。」


 すぐに追加修正するアン。

『おーっ!』と更に驚く主人。


「いやあ、これは良いもんだ。フチルベ様も買ってくれるかも知れないなあ。」


「複製出来ますが?今ならお値段をお安くしますよ?」


「そんな事も出来るのかい!そうだな……様子見で10個、いや20個貰おうか!」


「かしこまりました。」


『他の店に取られたく無い』と、主人がアンを店の奥に連れて行く。

 念の為にクライスも同行。

 奥でピカッと光ったと思うと、『うわーーっ!』と大声が上がる。

 何だ今の声は?

 気にする人も居たが、すぐに雑踏に戻った。




 それから何分か。

 ラヴィとセレナは、店の外で待たされる。

 通り掛かる人が皆振り返り、じろじろと見る。

『警戒されているのか』とセレナは思うが。

 若い美女2人がこんな町に居るのが珍しくて、男達が目の保養にと見ているだけ。

 連れの女に耳を引っ張られ、『イタタタ!』とその場を無理やり退場させられる男も居た位だ。

 クライスが余りに容姿について無反応なので、2人にその自覚が無かっただけなのだ。




 やっと店の奥からクライスとアンが出て来た時。

 ラヴィは退屈で、地面に座り込んでいた。

 隣りの店が椅子を出してくれたが。

『通行の邪魔になりますから』とセレナが断ったのだ。

 少しプクーッと頬を膨らませ、ラヴィはクライスに噛み付く。


「長い!長いわよ!だったら私も付いて行くんだった!」


「駄々をこねるなよ。こっちも色々話を聞いていたんだ。」


『そんな弁解知らない!』と言った様子のラヴィ。

 しかし、それに見合った情報をゲットして来た様だ。


「これだけ店が在るんだから、たまには何か買って!」


「はいはい、それで気が収まるんなら。」


 待ち時間でラヴィも、旅について考え込んだんだろう。

 頭の疲労を抜いてやるか。

 クライスは、ラヴィの言いなりに店をめぐる。

 アンとセレナは、その間に売買と情報収集を別行動で。




「あなたは行かなくて良かったの?」


 アンはセレナにそう聞く。

 これでもお年頃。

 遊びたい筈だし、欲しい物もたくさん有るだろう。


「お決まりの文句は無しで、ね?」


『姫様の為』で言い逃れは駄目。

 セレナの本音を聞きたかった。


「そりゃあ、私も多少は……。」


 ラヴィの前で、甘えた事を言う訳には行かない。

 そんな心持ちで気丈に振る舞う姿が、アンにはやや痛々しかった。

 だから、乙女の一面を見せてくれる方がアンには安らぎとなる。

 それをセレナに知って欲しくて、話を振ったのだ。


「でもこんな事言うのは、アンにだけだからね?」


「良いわよ、それで。」


 セレナは照れくさそうに返事した。

 アンの真意を分かってくれたらしい。

 2人は、お互いに微笑み合っていた。




「あれなんてどう?」


 ラヴィはクライスを、装飾品の店に引っ張って行く。


「そんなの俺が作れるのに……。」


「それじゃ駄目なの!セレナにあげるんだから!」


 なるほど、自分の為では無かったと言う事か。

 セレナにサプライズプレゼントをしたくて、一芝居打ったと。

 やるねえ、俺を欺くとは。

 変な所に感心するクライス。

 女心を分かっていないだけかも知れないが。


「で、何が似合うと思う?って聞いても分かんないか。」




「俺なら素敵なのを選んであげるぜ、お嬢さん。」




 そう言って、若い男がクライスとラヴィの間に割って入って来る。


「坊ちゃん!どうされたんで?」


 装飾品の店主が、その姿に慌てて店の外へ出て来た。

 どうやら男は、町の有力者らしい。


「このお嬢さんに似合う奴は……これかな?」


 男が手に取ったのは、金の指輪。

 何やら刻印がされている。


「『永遠の誓いを』か。君に相応しい。」


 そう言って、ラヴィの手を掴んで指輪をめようとする。

 勿論ラヴィは抵抗する。

 そこを店主が仲裁。


「幾ら坊ちゃんでも、やり過ぎですよ!他所よそから来られた方なんですから!」


 必死に止めようとする店主。

 しかし男に睨まれ、すごすごと引き下がる。

 そのやり取りの隙に、クライスの陰へ隠れるラヴィ。

『ベーッ!』と舌を出す。


「悪いが、それ何かおかしいぜ?」


 クライスが男の持っている指輪を指すと。

 丸い金の塊に変わっていた。


「な、何だ、こんな物!気味が悪い!」


 そう男は叫んで、塊を地面に叩き付ける。

 弾んだ所をクライスが掴む。


「お、覚えておけ!必ずそのお嬢さんを、俺の物にしてやるからな!」


 捨て台詞まで寒い男。

『私は物じゃないわよ』と怒り心頭のラヴィ。

 そこに、店主が出て来て言った。


「済まねえ、お嬢さん方。あの人は、ここを取り仕切るフチルベ様の跡継ぎで【ブラウニー・フチルベ様】です。」


「あれが例の……。」


 クライスは、行く店の先々でその名を聞いていた。

 それも悪名ばかり。

 その素行は、親と関係が有るらしい。

 どの家庭でも、問題は抱えているものだ。


「失礼しちゃう!誰にでもあんな態度なのかしら。」


「小さい頃は、素直な良いお子さんだったんですが……。」


 主人は悩ましそうに言う。

 豪商の息子か……。

 使えるか……。

 クライスの怪しい目。

 ラヴィは見逃さなかった。


「また何か企んでるわね?」


「まあね。それより良いのかい、プレゼントを選ぶんだろ?」


「忘れてた!ちょっと待ってて。」


 そう言って、並べられている品に駆け寄るラヴィ。

 クライスは、握った塊を主人に返す。


「何と……!」


 金の塊だったのは確かに見た。

 でも手のひらに有るのは、元の指輪!

 手品か?

 それにしては作りが自然過ぎる……。


「まあ気にしないで下さい。」


 クライスの目は透き通っていた。

 心の中を見透かされている様なその眼差しに。

 主人は気味悪がって。

 ラヴィの品選びを手伝う為、店に戻る。




 取っ掛かりは掴んだ。

 後はどうするか、皆が揃ってから相談しよう。

 そう思うクライスだった。

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