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第199話 妖精は地下へ、敵も地下へ

 青々と茂った草むらの中を進む、クライスとメイ。

 何が仕掛けられているか分からない。

 探知しようと金の網を展開すると、敵に自分達の接近を知らせる事にも繋がる。

 なので地道に足で草を避けながら、地面の具合を確かめる。

 何も無いと確認すると、また一歩踏み出す。

 その繰り返し。

 途方も無い時間が掛かりそうだが。

 幸いにも、金の糸は垂れ下がったまま。

 網状態よりも細いので、何とか気付かれずに済んでいる。

 しかしそれも時間の問題。

 向こうが魔力を探知出来るレベルなら、そろそろ発見される頃合い。

 急がないと。

 そう考えながら進むクライス。

 そしてとうとう、金の糸が途切れている箇所へ。

 メイがそっと草むらを覗き込む。

 そこには茂みに隠れて、ぽっかり大きな穴が開いていた。

 なるほど、地下に住んでいたのか。

 穴はその出入口。

 ここを封印されていた為に、これまで人間が近寄れなかった。

 今は魔力も薄く、普通の人も入れるだろう。

 ただ、問題なのは。

 地下街と言う事は、中が入り組んでいたり崩れ易かったりする可能性がある。

 入ってきたらすぐに出入口を崩落させて、閉じ込める事も出来る。

 なるべく気配を消して、侵入する必要がある。

 慎重に、慎重に。

 せーのっ!

 クライス達は穴へと飛び込んだ。




 入ってすぐに、穴の底に着地。

 高さは2メートル強。

 大して深さは無い。

 妖精仕様だからか、底から延びる通路も直径80センチ程。

 大人が1人やっと通れる程の幅。

 そこを這う様に進んで行くクライス。

 後に続くメイ。

 通路は段々勾配がキツくなり、それと共に幅も広がって行く。

 どうやら狭いのは最初だけ。

 妖精がこしらえた物を、人間が行き来し易い様に改装したらしい。

 ケミーヤ教の連中だな?

 ここを拠点にしようとしたが、何らかの理由で放棄した。

 だからここには生活の痕が無い。

 通路も広げた後、そんなに使わなかったのだろう。

 道は真っ平。

 凸凹でこぼこが少ない。

 なのに傾斜が酷くなるばかり。

 加速が付いてしまう。

 丁度良い頃に体を入れ替え、足を先にするクライス。

 その状態で、滑り台を下りる様に進んで行く。

 メイは楽しようと、クライスの腹にちゃっかり乗っている。

 その所業に文句を付けている暇は無い。

 真っ平な底の通路はぐねぐね曲がりながら、どんどん地下へと下りて行く。

 通路の両脇に手を当てながら、スピードを殺すクライス。

 放って置いたら、とんでもない速さで突き進みかねない。

 錬金すると、逆に摩擦が減ってしまう。

 てのひらがボロボロになろうとも、やるだけだ。

 ずっと楽をしていても申し訳無いので、メイがクライスの身体へ魔力を注ぐ。

 すると掌から痛みが消える。

 実際は、傷を負った傍から治しているだけ。

 治癒能力を向上させて、その場凌ばしのぎ。

 痛みを誤魔化しながら、突き進むと。

 何故かお尻に縄が接触。

 その箇所から、ヒューッと落ちて行くクライス達。

 金の網を底に敷いて、ダメージ回避。

 すぐに網を消し、しゃがんだ体制で周りを確認。

 すると。




 グルグルあちこち振り回されながら、落ちて来た筈なのに。

 中は、ぼんやりと明るい。

 良く見ると、天井が発光している。

 苔だろうか、鉱石だろうか。

 キラキラと夜空の様に煌めいている。

 そして大抵の町はすっぽりと入るであろう、圧倒的広さの地下空間。

 天井も高く、5階建ての建物が届く程か。

 その代わり、何も物が無い。

 有るのは、落ちて来た穴からぶら下がっている縄梯子。

 妖精は飛べるので、階段等は必要無い。

 だから天井も高く出来る。

 しかし妖精が暮らすには大き過ぎないかしら?

 メイが疑問を持つ。

 周りを見渡すクライス達へ向かって。

 声が飛んで来る。


「来やがったな、ここまで。」


 ツカツカとクライスの方へ歩いて来る。

 声の主は、フレンツ。

 自信に満ち溢れている顔。

 ここは俺の庭だ。

 負ける筈が無い。

 そう言わんばかりの。

 クライスが問う。


「随分余裕だな。ここでの暮らしが長いのか?」


「こんな辛気臭い所に、誰が住むか。一日の長って奴さ。」


「ほう、それは興味深いな。是非ご教授頂こう。」


「そうやって情報を引き出そうとしても、今度は引っ掛からんぞ。」


 ロイスに忠告でも受けたらしい。

 前とは違って慎重さが見える。

 今度はフレンツから質問が飛ぶ。


「貴様、一体何者だ?」


「見ての通り、行商人さ。」


「嘘を付くな。使い魔を連れた商人が何処に居る!」


「だから、ここに居るじゃないか。」


「嘘を付くなって言ってんだろ!」


 徐々にクライスのペースへとはまって行くフレンツ。

 それを回避する様に、筋肉老人と化したソーティがフレンツの前へ。




 ドッスーン!




 大きな音を伴った着地。

 音が鳴ると同時に、クライスの方へと飛び掛かる。

 3メートルは有った筈の間合いを一瞬で詰めると、クライスの腹を殴ろうと左拳を繰り出す。

 身体を時計回りに回転させて、拳を受け流すクライス。

 その死角から、天井に生み出した岩の棘を落とすフレンツ。

 今度は右拳を繰り出すソーティ。

 更に回転し、ソーティの股の下へ潜り込むクライス。

 ソーティの身体が棘をはじき返す。

 それ等全てに金の糸を縫い付け、クライスはフレンツの方へブン投げる。

 ドドドドドド!

 地面に刺さる棘。

 それを後ろに飛んでかわすフレンツ。

 その刹那、目の前にクライスが現れたと思うと。

 グーで左頬を殴られる。

 飛ぶ勢いで殺しているとは言え、殴られた痛みが走る。

 身体を強化しようと、フレンツが術を発動。

 その背中に、メイがピタリと張り付くと。

 キシャアアアア!

 雄叫びと共に魔力を吸い出す。

 発動寸前で魔力の大半を失うフレンツ。

 懸命にメイを振り解き、再び術を発動させようとするフレンツ。

 くるりと着地し、また背中に張り付こうとするメイを。

 クライスが制する。


「もう限界さ。そいつも分かっている筈だ。」


「何を言って……!」


 そう言いかけるフレンツ。

 頭に激痛が走り、左目を押さえて膝から崩れ落ちる。

 ぐあああああっ!

 慟哭どうこくと共に、顔を歪めるフレンツ。

 錬金術師としての力を得る為に、処置を受けた代償。

 それが今、発現しようとしていた。

 左目から血が流れ、血と共に黒い欠片がこぼれ落ちる。

 それを見て、ハッとするフレンツ。

 頭脳明晰であっても、錬金術の力は劣る。

 ロイスにすがって手に入れた物。

 それが失われていくさまを。

 真っ赤な光景と共に見る羽目に。




 どんな処置をされたのか?

 それは、『賢者の石との融合』。

 左目をり抜き、代わりに賢者の石を埋め込んだ。

 石の力を通して視界は確保していたので、問題が無い様に見えたが。

 賢者の石にも寿命がある。

 中に閉じ込めた魔力が徐々に失われ、空っぽになると。

 今度は乱れた魔力が、外から一気に流れ込む。

 隙間を埋める様に。

 そして中で渦巻き、耐えられなくなって石が破裂する。

 同時に、渦巻いていた魔力が暴走。

 脳まで達していた石の力が、突如乱れるとどうなるか。

 思い出して欲しい。

 前に同じ様な事があったのを。

 そう。

 グスターキュ帝国の領地、メインダリーでの出来事。

 元領主の妻が賢者の石を埋め込まれ、それが暴走して怪物と化した事を。

 そして、首都パラウンドで行われた人体実験において。

 賢者の石の欠片をを飲まされたり、皮膚へ擦り込まれたりされた人達が。

 一時期、化け物に変化へんげした事を。

 全ては繋がっている。

 ならば、フレンツの身に生じる結果は。

 乱れた魔力の流れは、脳から脊髄を通り。

 末梢神経を通じて、筋肉や骨まで到達。

 人の遺伝子を刺激し、先祖返りを起こす。

 フレンツの場合。

 強大な力を得ようとして、目玉程の大きな石を埋め込んだ為。

 反動はすさまじい。

 ソーティをも超える怪物と化した。

 その姿は、恐怖と言うより痛々しさを伴う。

 右足は魚のヒレに。

 左足はおたまじゃくしの尻尾に。

 胴体はトカゲ。

 両腕はカンガルー。

 そして、首から上はキリン。

 キメラと呼ぶには酷過ぎる。

 最早立ってもいられない。

 その場にバタンと倒れ込む。

 もがきながらも、生きようとするが。

 それは叶わない。

 変わり果てた兄を敵と認識し、襲い掛かるソーティ。

 ブヨブヨの胴体を踏み付けようとする瞬間。




「出番だ!」




 クライスが思い切り、右手に掴んでいた物をソーティの腹へぶち込む。

 それはメキメキと身体にめり込んで、完全に姿を消すと。

 ソーティの身体がパアッと光って。

 シュルルルルと縮んで行く。

 そして筋肉隆々の老人は、ただの弱々しい少年へと姿を変えた。

 少年は腹から亀の様な物をプッと出し、パタンと倒れ込む。

 ひっくり返った亀はもがく。

 それをクライスが起こしてやる。

 クライスが礼を言う。


「ありがとよ。力を貸してくれて。」


「これで、貸し借りは無しだからな?」


 亀は自慢そうに言う。

 その時、頭に声が響いたのだろうか。

 固まる亀。

 そして、クライスに告げる。


「『選べ』って言われたから、成る事にしたぜ。使い魔に。」


「へえ。じゃあ、あたしの後輩ね。」


 メイが亀に声を掛ける。

 良く見ると、亀は小さかった。

 ゾウガメとスッポンは見た事があるが。

 それ等より一回りも二回りも小さい。

『ちゃんと名乗れてなかったから、清々(せいせい)するぜ』と呟きながら、改めて亀が自己紹介をする。


「俺は【ペコ】。スッポンの姿だったが、ゾウガメの《奴》を取り込んでただの亀になっちまった。宜しくな。」


「ああ。勿論、まだ俺達に付き合ってくれるんだろ?」


「この旅を通してお前を見て来たが、敵に回すのは得策じゃ無いと思ったよ。使い魔になったのも、身の安全の為さ。」


 そう言ってペコは、変わり果てた姿のフレンツを見る。

 細胞が暴走魔力に耐えられなかったのか、腐った肉片と化していた。

 その横で倒れている少年は、まだうなされている様だ。

 自力では動けまい。

 クライスがペコにお願いする。


「彼を見ていてくれないか?宿主だった縁でさ。」


「それはゾウガメの奴だろ。まあ良いさ。使い魔としての最初の任務だな。」


「主人は俺じゃ無いけどな。」


 苦笑いをするクライス。

 負の魔力の供給源が断たれた、ソーティの身体をあの状態で保つのに。

 フレンツは、ゾウガメの魔物を利用した。

 スラッジでクライスから奪い取った、あの魔物を。

 無理やりソーティへ魔物を憑依させ、反転の法の継続を図ったのだ。

 それは少年の姿に戻れない、不可逆行為。

 本来なら。

 しかしクライスは、その上から更にスッポンを憑依させた。

 魔力の塊と化していたゾウガメを取り込み、憑依を無理やり解除。

 何の種類か分からない小さな亀の姿となって、ソーティから分離した。

 そしてソーティは、体力が限界まで削られながらも。

 命を落とす事無く、何とかこの世界に踏みとどまった。

 こちらは無事、救出に成功。

 何処かで、ソーティ自身があらがっていたのかも知れない。

 でないと上手く行かない。

 賭けでは有ったが、結果的に成功したので良しとしよう。

 後は。

 クライスは、ソーティが飛んで来た方を見る。

 地下空間の奥。

 まだまだ先に続いている。

 そこに恐らく、ウタレドをあんな風にした犯人と。

 それを守る様に、あの女騎士がいる筈。

 ペコとソーティをその場に残し、クライスとメイは奥へと向かうのだった。

 いざ、決戦の場へと。

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